▽ 私のヒーロー
私の「個性」は「人の心を読む」。
大抵の人は私に触られたがらない。私の個性を知っている人は私に触れられた瞬間、ビクリと体を揺らして、後ろめたいことがあるかのように恐る恐るこちらを見るのだ。
もう約10年だ。こんなこと慣れている。
つらいのか、寂しいのか、と言われれば私は自信を持ってNOと答えられる。
だって、たった一人、いるんだもの。
私に手を差し伸べてくれる、私のヒーローが。
「おい、帰んぞ!」
いつもより乱暴に教室のドアを開くのは隣のクラスで家が隣の幼馴染、爆豪勝己だ。
ボンッと爆発しているような髪に、吊り上がった鋭い目でこちらを射抜く。
そう、彼が私のヒーローである。
「ん、」
彼は私が近づくと当たり前のように手を差し伸べてくれる。私は笑顔でそれに答える。
ぎゅっと手を繋ぐ。少しばかり焦げ臭くて熱いのはご愛嬌だ。
『あーうぜぇ、クソナードが』
脳に直接彼の声が届く。きっともう一人の幼馴染、そばかすと愛嬌のある顔立ちをしている緑谷出久のことだろう。
「また出久くんと喧嘩したの?」
「うるせーッ、あいつのこと話すんじゃねー!」
まさかヒーロー志望とは思えないような凶悪な顔でこちらを睨む。
くすくすと笑って「ごめん」と言うと、彼はぐいっと手を引いて廊下をどすどすと歩いていく。それに引っ張られるのも好きだった。
「勝己くん、あのね、」
「あァ?なんだよ」
いくら人の心を読むことができても、相手に自分の心を伝えることは出来ない。
だから口に出して言うしかないのだ。
「私も受けるよ、雄英」
「…………おう」
目を見開いて驚いたものの、すぐ元に戻して軽く返事をしてくれた。
「怒らないの?雄英志望が3人もいるんだよ」
「どうせ普通科だろ」
「ううん、経営科にいくの」
また驚いたような顔でこちらを見る。
ぎゅっと手を握って言った。
「勝己くんの将来のために」
はにかみながらそう言うと、勝己くんは凶悪に顔を歪ませてそっぽを向いた。
心を読まなくっても分かるよ。
繋いだ手の力強さが返事をしてくれた。
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