▽ 宣戦布告の彼
体育祭が一週間後に迫っていた。雄英高校の生徒は日に日に落ち着きなくなっていると感じていた。経営科でもそれは同じで口を開けばだれが優勝するのだろうだったり、当日のジュースの販売量はどうしようだったり、それぞれ体育祭への興奮に満ちていた。
「私、もう行くね」
「あ、はーい」
「いってらっしゃい!」
昼食を摂り終わると、クラスメイトと別れて一目散に裏庭に向かう。そっと覗くとそこには彼はいなかった。ほっと安堵する。あれから出来るだけ会わないようにしていたのだ、どんな顔をすればいいのかわからないから。
「心操くん…」
「呼んだ?」
ぽつりと彼の名を呼ぶ。すると後ろから返事が返ってきて、心は思わず飛び上がるほど驚いた。
「!?」
「結構反射神経いいね」
すぐさま距離をとると、彼は面白そうに笑っていた。
「そういう個性じゃなかったらヒーロー科に入れてたかも」
彼は前と変わらない気怠げに、でも不敵にそこに立っていた。
「何か用?」
姿勢を整えて彼を見据える。彼は少し考えたようにして、言った。
「俺がさ、君の彼氏に体育祭で勝ったら」
一瞬、の間があった。
「俺と付き合ってよ」
驚いて目を見開く。何が目的なのだろうか。否定の言葉が口をついて出ようとしたが飲み込み、心は笑った。
「いいよ」
「…自分が何言ってるのか分かってんの?」
今度は相手が驚く番だった。探るような目でこちらを見る。
「だって、勝己くんが一番になるから」
花が咲いたように笑った心を見て、心操はつまらなさそうな顔をした。
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