▽ 猫好きの彼
「ねぇちょっといいかい?オールマイト…あれ!?君『ヘドロ』の時の!!」
「やめろ」
オールマイトが雄英の教師に就任したという話は全国を驚かせ、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。
今日も校門前にはたくさんの報道陣がいて、それでも手を離さない勝己くんは同じクラスの人たちに冷やかされたようだ。
お昼ご飯は、勝己くんと一緒に食べない。クラスが遠すぎるからだ。経営科のクラスメイトに誘われて教室や食堂で食べてはいるが、勝己くんの隣でなくてはなんとなく居心地が悪いと感じてしまう。
「ごちそうさま、私ちょっと用事あるから行くね」
「もしかして、彼氏のところ?」
「熱いね〜!」
クラスメイトたちには悪いと感じながらも、今日も食べ終わったら早々に席を立つ。そして、クラスメイトと別れて静かで穴場の裏庭に向かう。ここには学園内に済むんでいる猫たちが数匹いる。心は猫が好きだった。心を読んでも純粋に、時にきまぐれに接してくる猫が好きだった。
「あれ」
裏庭に着くと、そこには先客がいた。初めて見る顔だった。
引き返さなかったのはその男子が、猫と戯れていたからだった。猫好きに悪い人はいない、そう踏んで心は彼に話しかけた。
「こんにちは」
「…やあ」
「隣、いい?」
彼が頷いたのを見て、隣にしゃがみ込む。猫は楽しそうに彼が振っているねこじゃらしに夢中になっていた。
「猫好きなの?」
「ああ、まあ。あんたも、ここでたまに見る」
「そう」
遊び疲れたらしい猫を優しく撫でる。そうすると、猫の心が私の中に流れ込んでくる。優しい感情で思わず頬が緩む。
「この子、あなたのことが好きなんだって」
「へぇ、猫の気持ちが分かるんだ?」
驚いたように彼は言った。
「動物の気持ちが読める個性?」
「ううん、心が読めるの」
人の心も、そう付け足すと、彼は黙ってしまった。無理もない、私に触れられると自分の心が読まれてしまう。それを聞いていい顔をする人はまずいないから、慣れている。猫を抱きしめて撫でながら距離が離れるのを待った。
「…俺の個性はなんだと思う?」
その時、ウウーと警報が鳴り響いた。
抱いていた猫が驚いて心の腕の中から逃げ出してしまった。
『セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』
わあっと校舎の方で騒ぎが大きくなるのを感じた。ぱっと立ち上がり、周りを見回すがここでは状況がよくわからない。
「避難しないと…」
あなたも、と振り返るとまだ彼はそこに座っていた。持っていたねこじゃらしを放り投げ、臆することなく、私の目の前に立った。
「ねぇ、あんたヒーロー科のやつの彼女なんだろ?」
「それがどうかした?」
心は突然、自分の体が動かなくなったのを感じた。頭がモヤにかかったように何も考えられない。
「俺は普通科の心操人使」
「そのまま教室まで歩いていけ」
言われるがまま、私の足は勝手に歩いていく。彼は一体、何者なんだろう。私に何をさせたいのだろう。
気がつくと、自分のクラスの前に立っていた。
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