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「壊れちゃったんだね、おれの可愛い可愛い明ちゃん」

 遠くから声が聞こえる。
 それは懐かしく、全ての始まりである誰かの声。
 ぼんやりと脳裏に浮かぶ赤、胡散臭い笑み、穏やかだけどどこか人をからかうような声色。

「はぁ、まったく……おれのものなのに…所有物ってばかりにみんな印つけてさぁ」

 耳の裏、喉、首筋……と、彼らの名が刻まれた場所を忌々しくなぞる。

「知ってる? キスをする場所によって意味が違うんだよ……君の体に刻まれたこの名は、どういう意味なんだろうねぇ」

 それに対する明の反応は無く、ただ人形のように目の前の男を見つめていた。
 おれもどこかに印を刻もうかなぁなんて楽しそうに言い、ポケットから赤いリボンを取り出す。

「明ちゃん、可愛い可愛い、おれの大切な明」

 頭を撫で、取り出した真っ赤なリボンを明の首に巻く。

「もう君を害す馬鹿な人間はいないよ、いるのは愚かで純粋な十二の獣だけ。 いや、おれも入れて十三だね。 可哀想で愛しい明、おめでとう、いらっしゃい、優しくて歪んだ世界へ」

 最後に明の額に唇を落とし、彼は立ち上がり闇に溶けるようにその場から消えたのだった。


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