十二支が決まり、新しく明けた鼠年が始まる。
本来ならば皆笑って祝杯を交わすはずなのだが、十二人が集まったのは十二支が始まる年が明けたその時のみ。
それもそのはず。十二人しかいないのだ。彼ら全員が愛していた一人が欠けてしまったその瞬間から、何かが壊れてしまった。

「君は今、どこにいるのですか……?」

掠れた巳の声が、静まり返った部屋に溶けて消える。
神への挨拶へ行った日、少なくとも自分よりは早く到着するであろうと思っていた彼女の姿は無かった。それから続々と見知った顔が到着する中、いつまでたっても巳が求める姿は無い。
戌が到着し、亥がやって来てもとうとう彼女は来ず、一日は神の怒りと共に終わりを告げた。

どこかで泣いていないだろうか、怪我をしていないだろうか。泣いているのなら、泣かせた相手を絞め殺してやりたい。怪我をしたのなら、その肌に触れたものを焼き付くしてしまいたい。
どれだけ巳が乞おうが、どこにいるのか、生きているのかさえわからない。

彼女を想えば想う程に強くなる胸の痛みは次第に身体全体を侵し、その苦しさは呼吸を邪魔をする。
彼女がいない、声を聞くことが出来ない、笑いかけてくれない、夢にさえ出てきてくれない。まるでこの世界に最初からいなかったかのように、彼女は自分達の前から姿を消した。

自然と零れ落ちた涙が頬を伝う。けれど今はそれを拭い取ってくれる存在はいないのだ。

「会いたい、会いたい、会いたい会いたい会いたい会いたい」

近くにいるのが当たり前だった。そこにいるだけで良かった。
けれど今はどこを見てもその姿は無く、あんなに鮮やかだった景色も全てモノクロにさえ思える。

「君がいない世界になど、興味はありませんのに……」

ぽつりと呟いた小さな声は、誰の耳にも届かずに宙へと溶けた。




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