深夜、静かな部屋にカチカチと響く音。そこ根源はソウキの手にあるカッターの刃が押し出される音で、アキラが熟睡する横で彼は自らの手首に刃を当てた。力は入れず、ただ当てただけ。
口が半開きになったアキラの顔の上に腕を移動し、ソウキは楽しそうに口角を上げた。

「いつになったらアキラちゃんは僕を殺してくれるんだろうねぇ…」

カッターを握る手に力を入れると、鋭い光を纏った刃が薄い皮膚を切り裂く。
何度も繰り返したその痛みは既にソウキにとっては快感でしかなく、手首の反対側へと伝った血液はぽたりとアキラの唇に落ちた。
カッターを投げ捨て、傷口を抉るように指を突き立てる。ぼたぼたと溢れ落ちる血はアキラの口回りを汚し、または口内へと染み渡る。

毎晩毎晩、ソウキはこの行為を繰り返す。自分の体を傷付け、溢れる血液をアキラの口内へと落とす。
満足した後は口内へ入り損ねた血液を綺麗に舐めとり、そのまま眠るアキラへと深い口付けをするのだ。鉄臭い口内を思う存分味わい、その行為は終わりを告げる。

「アキラちゃんのせいで僕はどんどんおかしくなっていく……」

アキラの気持ちが自分に向いていないということは嫌という程にわかっている。それを繋ぎ止めているのが自分のこの悪癖だということも。
きっとアキラに捨てられたりなどしたら、文字通り死んでしまうだろう。

「僕が死んだら君は僕のことを忘れないでいてくれるのかなぁ」

アキラの気持ちが既に自分へと向いていないことはソウキとてわかっている。そしてそれを繋ぎ止めているのが自分の悪癖だということも。

「君がこの手で僕を殺してくれたらどんなに幸せなんだろう」

眠るアキラの手を自身の首へと当て、恍惚とした表情を浮かべる。

じわりと手首から溢れる血で白いシーツが赤く染まっていくことなど気にもせずに、ただただソウキはアキラを見つめていた。
朝になってアキラがこの赤に気付いた時にどんな表情をするのだろうか、もしかしたら狸寝入りをしているかもしれない。
ソウキの脳内を巡る思考は全てアキラに関するものであり、まさに彼の世界の中心はアキラと言えるだろう。

「でもどうせなら、一緒に死にたいね」

甘えるようにアキラへと体を密着させ、明日の反応を楽しみにしながらソウキは目を閉じた。

「おやすみ、アキラちゃん」




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