「私の可愛い可愛いトキ、起きて下さい」 鎖で繋がれた手と足。 ぐったりとした様子の彼女の頬を撫でながら、目を覚ますのを待つ。 「……おかえり、なさい」 薄く目を開けたトキは私を見つけると小さな声でそう告げる。 「ただいま帰りました。 今日もいい子にしていましたか?あなたの体は綺麗なままですか?」 首元を撫でると、手のひらに伝わるぷつりぷつりとした小さな穴の感触。 それは紛れもなく自分の牙の痕であり、私が彼女から吸血した証拠。 「綺麗ですね……あなたはこの世の何よりも美しい」 儚げな笑みを浮かべる彼女の名はトキ。幼い頃から病弱な彼女に一目惚れをした私はヴァンパイア。 病室にいた彼女を連れ去り、自分だけのものにする為にここに閉じ込めた。 「私の美しいトキ、今日も貴女の血を頂きますよ」 彼女の血は甘い。 青白い肌に牙が突き刺さる瞬間、大きな快感が身体中を走る。言うなればそれだけで果ててしまってもおかしくはない。 彼女の血は私にとっては媚薬のようなものだ。私を満たすことが出来る、唯一のもの。 「……っ…!」 痛いのだろう。牙が突き刺さる瞬間、彼女はいつも歯を食い縛る。だがそれも最初だけ。少しすると吸血されていることに快感を覚える。 頬が真っ赤に染まり、潤んだ目がその証拠だ。 彼女は連れ去った犯人である私を恐れない。笑顔を浮かべてくれるし、ただいまと言葉を紡いでくれる。 彼女に優しさを与えられる資格なんて無いというのに。 「……ごちそうさまでした」 こんな私でも人の役に立てて嬉しい。彼女は前にそう言った。 私はそれを聞いて大きな罪悪感に蝕まれると同時に彼女に愛しさを感じる。 私は彼女がいなければ生きていけない。彼女も私を必要としている。 卑怯者の私はそう自分に言い聞かせて、広がる罪悪感には気付かないふりをした。 「私は貴女を二度と手離すことは出来ないでしょう……それでも貴女は私に笑みをくれますか?」 返事は無い。 ただ、彼女は優しい笑みを浮かべて私を見つめていた。 そして私の胸にはまた、罪悪感ばかりが広がるのだ。 TOP ×
|