「僕はあなたを壊したかった、ただそれだけなんだよね」

虚ろな目をする少女に彼は優しく囁いていた。とても幸せそうに、少女の頭を撫でながら。

少女の名は凪。
彼の名は八嗣(やつぎ)。
そして俺は八嗣の親友であり、二人を見守るただの傍観者であり、彼女を壊した共犯者。


最初は八嗣のただの淡い恋心から始まった。
それから日に日に溢れる八嗣の独占欲や嫉妬心、彼女を壊したいと願うようになった頃にはきっと八嗣は壊れ始めていた。

彼女を壊す為にしたことその一、彼女の最愛の恋人を目の前で殺す。
その二、彼女を監禁する。
その三、ヘドが出るくらいの甘くて優しい言葉を彼女に与え、自分にはこの人しかいないのだと深層心理に思わせる。

「壊れたあなたはこの世の何よりも美しいね、帝(みかど)もそう思うでしょ?」

帝というのは俺の名前。
ああそうだな、なんて返答をすると八嗣は心底嬉しそうに微笑んだ。

なぁ八嗣、おまえはとっくに壊れてる。

「あなたにはもう僕しかいないんだよ、ねぇ凪、幸せ?」

こくりと彼女は頷いた。
すごいな八嗣は。
全ておまえの思い通りになってる。

なんでこんな壊れた奴の親友やってるのか、はたから見たら不思議でしょうがないだろう。
マトモな思考回路を持たない壊れた男と、それを傍観する親友。

まぁそれははたから見たらの話だ。もしかしたら、マトモな思考回路を持たないように見えて本当は天才なのかもしれないとか、彼女は仕返しをしようと今は機会を伺っているだけなのかもしれないだとか。

ただの傍観者が一番マトモじゃない思考回路を持っていたり、とか。

「さて、八嗣」
「……何?」
「おまえは幸せか?」
「うん、とても」
「じゃあもういいだろ、今度は俺の番な?」

幸せそうな表情が一瞬で消えた八嗣の胸に、俺はナイフを突き刺した。

「み、かど……?」
「全部順調だよ……俺の計画通りだ」

自分にはもう八嗣しかいない。そう洗脳された凪から、八嗣をも奪う。
そして彼女は完全に壊れてしまうはずだ。自我なんていらない。ただ俺の側にいればそれだけでいい。

「お前はただ凪を壊したかっただけなんだろ?これで凪は完全に壊れた、満足か?凪は壊れたよ、お前を失って。 壊れた凪は俺が大事にしてやるから、安心して死ね」

意識を落とす直前、八嗣が笑ったように見えた。
きっと八嗣は全部わかってたんだろう。でも何も言わなかった。
それは凪が完全に壊れた原因が自分だから。八嗣は願い通り凪を壊した。そして凪が欲しいという俺の願いも叶った。
プラマイプラスじゃないか。

「凪、やっとおまえを手に入れた」

絶対に離さない。
ずっと俺と一緒にいよう。

俺はもう、ただの傍観者ではないのだから。

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