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「あー…ちょっと汚くしすぎた、姉さん怒るかな」

俺の双子の姉である凪はまだバイトから帰って来ていない。勝手に姉さんの部屋に入って遊んでたら、いつの間にか大分部屋を汚くしてしまった。
見たら驚くだろうなぁ。

最初の一言はなんだろう……なんで勝手に部屋に入ってるの、か?いや、どうして部屋を汚くしたのか、かな。

それとも、

「ただいまー」

姉さんの凛とした声が聞こえた。いつもならおかえりと言って玄関に向かうのだけど、今日は姉さんを驚かせる為に行きたい気持ちを抑えてじっとしていた。

姉さんのベッドに寝転がり、姉さんがいつも使う枕に顔を埋める。俺と同じシャンプーの香りなのに、姉さんの香りだと思うと興奮した。

「悠希?いないのー?」

隣の俺の部屋の戸がノックされる音が聞こえた。
ああもう可愛いなぁ姉さん。

「こっちだよー」
「え?何?私の部屋?」

近付く足音。
回るドアノブ。
電気の付いていない真っ暗な部屋に光が射し込み、部屋の汚さがよくわかった。

「こら悠希、勝手に部屋に入るなって前にも言っ………………え?」
「おかえり、姉さん」

姉さんの表情はまるで絶望を初めて見たかのように蒼白で、真ん丸に見開かれた目がゆっくりとこちらに向けられる。

「な、に……こ…れ……」

固まって動けない様子の姉さんは何があったのか理解出来ないみたいで、俺に助けを求めてくる。
見てわからないのだろうか……わかりやすいように顔だけは綺麗に取っといたってのに。

「何って?谷先輩じゃん、どう見ても」

あぁそうか、暗くて見えないのだろうか。
姉さんは動けないみたいだから俺が電気を付けてあげようと立ち上がり、ぐちゃぐちゃと色々踏みつけながらスイッチを押しに向かう。

明るくなった部屋。
途端に姉さんは悲鳴を上げた。

「姉さん、近所迷惑になるから大きい声出さないでよ」

ぺたりと地面に座り込む姉さんはガタガタと震えだし、見開いた目から涙を溢れさせる。
大丈夫?と手を伸ばすとそれは姉さんの手により弾かれ、姉さんは立たない足で赤ん坊のようにここから逃げようとした。

パンツ見えた!ラッキー!
勿論それを捕まえるのは容易い。尻を俺に向ける姉さんがなんだか面白くて、後ろにしゃがみこんで足首を掴む。
進みたくても進めない、でもここから、いや俺から逃げたいのか。

終いには体を支える腕の力も抜けたらしく、ばたんと床に肘をついて悪魔でも見るような目で俺を見ていた。

「何、なに、なに、ゆう、悠希…離し、やだ…っ…離して、離して!!」

必死に掴まれた足を暴れさせて逃げようとする姉さんをそのまま引っ張り、俺の近くに寄せる。

「ひっ…!!」
「姉さん」
「やだ!やだやめて!!あなた誰!?あなたは、ゆ、悠希じゃないっ…悠希はどこ、谷先輩は、」
「姉さん」
「谷先輩、谷先輩谷先輩谷先輩…」
「ねえさん」

谷先輩谷先輩とうるさいなぁ。谷先輩ならそこに頭が転がってるだろ。

「姉さん?姉さんが悪いんだよ、姉さんが俺以外をさ、好きになったりするから」
「……っ…」
「俺はこんなに姉さんが好きなのに姉さんは俺を好きじゃないっておかしいと思うんだよね、不平等?不公平?まぁどっちでもいいけど、とにかく谷先輩は忘れてね?もういないから」

どんどん溢れ出る涙。はて、姉さんが今泣いている理由はなんだ。
谷先輩がしんだから?俺がころしたから?部屋が汚いから?俺が恐いから?

あぁわかった!

「泣くほど嬉しいんだな!俺の気持ちが!」

俺も嬉しくなって姉さんに抱き付くと、姉さんは小さく声を溢して肩をびくりと揺らした。

姉さんに好きな人が出来たと聞いた時は正直驚いた。
今まで恋愛にはまったく興味を示さなかった姉さん。だから俺は安心していた。

いつからか、姉さんはよくぼーっとするようになった。あらぬ方に目を向けて、時々照れたように頬を染める。
怪しいと思った俺が姉さんを問いただすと、観念した姉さんは全て話してくれた。好きな人が出来たこと、それが谷先輩だということ。
最初はどうせすぐ飽きるだろうと放っておいたが、一昨日だったかな?姉さんが突然告げた。

「私、谷先輩と付き合うことになった!」

キャッキャと嬉しそうにはしゃぐ姉さんを見て、俺は言葉の意味がわからずに数秒間固まった。
姉さんが言うには告白をしたらOKを貰ったらしい。

だから今日は先に帰ってろと言われたのか。その日はバイトも入っていないはずだしおかしいと思ってた。どうやら一緒にここまで帰って来たらしく、もう既に手も繋いだらしい。

もう絶対手洗わない!と意気込む姉さんを連れて洗面所でゴシゴシと無理矢理手を洗ってやった記憶が鮮やかにある。



「あーあ、いらないなぁ」
「……ゆ、き…?」
「俺のことを好きじゃない姉さんは、いらないかも」

抱き締めながら耳元で囁くと姉さんはより一層震える。
それが面白くて俺は言葉を続けた。

「俺達双子なんだし、どうせなら一緒になっちゃおうか?女の子って殺される瞬間が一番締まるらしいよ……あぁでも一緒になるってのはそういうことじゃなくて、」

しゃくりあげる姉さんが愛しくなって更に強く抱き締める。

「姉さんが俺の体の一部になってくれたら嬉しいってことね。 わかる?食したいってこと、食べるの、俺が姉さんを」
「なに、言って…」
「まだわからないの?こういうことだよ」

そう言って俺は姉さんの首筋にがぶりと噛み付いた。

「やっ!!」

本当に噛み千切ってやろうかな、と考える。姉さんと一緒になりたいという発言はあながち本当だし、姉さん美味しそうだし。でももう姉さんの声を聞けないのは嫌だし。

「まぁいいか、今日の所は我慢しよう」

噛み付いた痕が残る姉さんの首筋に舌を這わすと、姉さんはまたぴくりと反応する。

「とりあえず俺の部屋に行こう?ここは明日綺麗にしとくから。 あぁそうだ姉さん、姉さんしばらく学校行かなくていいから。 だってまた姉さん俺以外を好きになったら困るし?大丈夫、俺が上手く言っておくよ…姉さんは今引きこもり中ですーって」

声が出ないのか、姉さんはぱくぱくと口を開閉させて大粒の涙を流す。

「大丈夫、俺は姉さんだけを愛してるから……だから姉さん、姉さんも俺だけを見て、俺だけに触れて、俺だけに囁いてよ」

そのまま姉さんを抱き上げて俺の部屋に連れて行く。
鎖とか手錠って一体どこに売ってるんだろう、なんて考えながら姉さんの額に唇を落とした。


title いのちしらず

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