私には心の底から大切な友人がいる。彼女の名前は椿(つばき)。学校でいじめられている私にとって彼女だけが唯一の友達だった。 見た目は可愛くて、地味な私なんかといるのが勿体無いくらい。 椿ちゃんと私は別々の学校に通っている。だからこそ私がいじめられているのを知らないし、なぜか帰り道に必ずと言っていい程会う。 きっとあたし達は友達になる運命だったんだよ!なんて笑顔で言う椿ちゃんが可愛くて私も頷いた。 いつだったか、自分がいじめられていると告白したことがある。すると椿ちゃんは優しく慰めてくれて、私は本当に嬉しかった。 そして今日、椿ちゃんが大事な話があると言うので私は初めて自分の家に招待した。うきうきと胸を弾ませながらジュースとお菓子を手に階段を上がる。 部屋で待っている椿ちゃんを想像してにやけてしまった。これではまるで恋をしているみたいじゃないか。椿ちゃんは女の子だってのに。 「ジュースとお菓子持ってきたよー」 部屋に入ると椿ちゃんが私のベッドに寝転がっていて、パンツ見えちゃうよと言うと顔を赤くしてスカートを下げた。 「凪の匂いー」 「ちょっとやめてよ、恥ずかしい」 私の枕を抱き締めながらはしゃぐ椿ちゃんはやっぱり可愛い。ベッドから降りたと思いきや向かったのはタンス。 遠慮なく開けた棚には私の下着が入っていて、にやりと笑いながら椿ちゃんはその中から一枚取り出した。 「わ!ちょっと椿ちゃん!」 「あははー、凪のパンツパンツー!んーイイ匂い」 「ちょ!馬鹿!さすがに女の子同士でもそれは駄目!」 「やべ」 「何が?」 「いや、なんでもないよん」 テヘと舌を出す行為も、椿ちゃんがやると様になってしまう。 どうしてこんなに可愛い女の子が私なんかと一緒にいるんだろうと常日頃思っていた。 「それで、話って何?」 「凪さぁ、好きな人いないの?」 何だ、急に。 突拍子も無い発言に驚いた私は一瞬思考が止まる。 「いない、けど」 「良かった」 はて、何が良かったのだろうかと考えていると、急に立ち上がった椿ちゃんが笑顔を浮かべてこちらに近付いて来る。 「どうしたの?」 「ふふ」 椿ちゃんの笑顔の意味がわからないまま私はその可愛らしい顔を見つめる。 そして次の瞬間、椿ちゃんに押し倒された。 「っわ!?」 床に後頭部を打ち、鈍い痛みにこらえていると更に大きな衝撃を受ける。 「!!?っん、んん!!」 なんと、今私は椿ちゃんにキスをされている。触れるだけなんて軽いもんじゃない。 恋人達がよくやるディープなもので、恥ずかしくもファーストキスだった私は彼女の舌に翻弄されて抵抗出来ない。 「んっ!……っはぁ」 ようやく椿ちゃんの唇が離れ、唖然とする私の上では妙に色っぽい彼女が舌舐めずりをしていた。 「つ…つば……」 「好き」 「………え?」 「凪が好き、すごい好き、愛してる」 何度衝撃を受けたらいいのだろうか。既にパンク寸前の脳は椿ちゃんが言う言葉の意味を理解出来ずにいた。 「わ、私も好きだけど……」 「違うよ、ライクじゃなくてラブ、恋愛対象としての好きって意味」 椿ちゃんは可愛い。私が男だったら惚れてしまうくらいの可愛さだ。 けどそれは私が男だったらの話であって、残念ながら私は女性というカテゴリーに属する人間だ。 そして彼女も女性。 「ずっとこうしたかった」 恍惚とした表情の彼女は何故か息が荒い。 「待っ、椿ちゃ……私達、お、女同士で…あの、」 脳でぐちゃぐちゃになった言葉をどうにか伝えようとするがうまく言葉にならない。 そんな私を嘲笑うかのように口角を上げた椿ちゃんは、私に更なる衝撃を投げつける。 「俺、男だし」 それは私の知らない声。 私の知らない、男の声。 「え?」 目の前で歪んだ笑みを浮かべているのは、一体誰? 「君が今まで女の子だと思って接してきた椿ちゃんは、残念ながら男でーした」 視界に映るのはお人形さんみたいに可愛い女の子。 耳に届く声は私の知らない男の声。 「つ、ばき、ちゃん?」 「俺、言っとくけど凪と同じ学校だから。 名前は椿、君の隣のクラス。 ふ、ふふ、あーあぁバラしちゃった、あはは、何これ楽しい」 意味がわからない。 椿ちゃんはどこに行って、目の前の人間は誰で、この声は誰のものなのだろう。 「君が男嫌いだって噂聞いてさぁ、俺よくここまで頑張っただろ?でももう我慢出来ない、凪を壊したくてゾクゾクする」 椿ちゃんが男? ようやく少しずつ理解し始めたが、やはり意味がわからない。 私が今まで親友だと思っていた女の子が、隣のクラスの男子生徒だというのか、この人は。 「更にいい事を教えてあげる、君のいじめの主犯格は俺」 「なに、を……」 「凪を孤立させて俺に…っていうかあたしに?執着させたくてありもない噂を流した」 「……ひど、い…酷い、酷い酷い酷い!椿ちゃんを返してよ、誰?あなたなんか知らない、椿ちゃんはどこ?」 「あたしはここにいるよぉ?凪」 甘ったるい女の子の声。それは確実に私の知る椿ちゃんのものだ。 「俺が椿だよ、君がだぁい好きな椿」 近付いてきた顔が、私の首筋にキスをする。 「明日からは学校でも君の大好きな椿と一緒にいれるよ」 「……っ」 「いじめは無くしてやってもいいけど、俺以外の人間と話したら許さないから、男女問わずね」 まぁ今更君と話そうとする奴なんていないだろうけどね!なんて愉快そうに言う彼を呆然と見つめる。 椿ちゃんはもういない。 「だいすきだよ、凪」 戻る ×
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