メモ | ナノ


0512 追記
「なぁ、最近アリスの姿を見ないんだケド」

ぼそりと独り言のように呟いたのはチェシャ猫。それに対する反応は様々なものだった。
チェシャ猫の言葉に同意する番人とトゥイードル。深層を読み取ることが出来ない笑みを浮かべるJ。淋しそうに鼻をくすんと鳴らす眠り鼠。
そして先程からアリスの写真を見つめたまま微動だにしない白兎、アリスぶっ殺すと呟きながら剣を磨くA、呑気に紅茶を飲む帽子屋の横でニンジンをぽりぽりと食べる三月兎。

「アリスはチュー達のこと嫌いになっちゃったのかなぁ」
「バカ!そんなわけねぇだろ!」

番人に叱られて肩を大きく揺らす眠り鼠は怯えたようにテーブルに突っ伏し、叱った本人である番人は罰が悪そうにそっぽを向く。

「最近忙しいみたいだからね」

Jがフォローしようにも沈んだ空気が軽くなることもなく、ちらほらと溜息も聞こえてくる。
アリスがいないことはなれていたはずなのに、一度姿を見てしまえばすぐに恋しくなってしまうのだ。アリスがいない時間の過ごし方はどうだったっけ、と考えてみても結局は解決に至らない。

「次会ったら絶対殺す、何が何でも殺す」
「え、ええぇ?アリスを殺すだってぇ!?そんなのダメだよぉ、アリスが痛いじゃないかぁ!」
「うるせえ間抜け兎、テメェも殺して皮を剥ぐぞ」
「そうだねぇ、ニンジンは皮を剥いても剥かなくても、オイラはどっちでもいいよぅ」

まともではない人物が多い世界ではあるが、この二人は常軌を逸して頭がトチ狂っている。
どんなにAが殺伐とした空気を生み出そうが、三月兎によってまったく別のものに変えられてしまうのだ。
案外この二人は相性がいいのかもしれないと、A相手に物怖じしない三月兎に対するJの評価が上がった所で、今まで口を閉じていた帽子屋がティーカップをそっと置いた。

「もしかしたら、またいなくなったのかもしれませんねぇ」

決して大きくはないその呟きだったが、皆の耳には一文字もかけずにしっかりと聞こえていた。

「うーん、飼い猫くんかぁ…彼は何を考えてるのかよくわからないから苦手かなぁ」
「おやJ、君も十分に謎であるがね」
「帽子屋さんに言われたくないなぁ」

微笑みながら交わされる会話の隣ではAと三月兎が噛み合わない会話をし、また別の場所では番人と眠り鼠がアリスの心配をする。
会話に参加する気などさらさらない白兎は未だにアリスの写真を見つめたまま、人形かと言いたくなるくらいに動かない。

「アリスはさぁ、自分がどんだけ好かれてるか知った方がいいよな」
「ニア、キミがちゃんと監視してないからだよ」

気まぐれも程々に、と言いかけたトゥイードルの視線がチェシャ猫の背後で止まる。
その先にはこの世界の誰もが恋い焦がれる一人の少女がいて、話を聞いていたのか困ったような笑みを浮かべていた。

「みんな楽しそうね、私も混ぜて」

少女の姿を確認するでもなく、待ってましたと言わんばかりに磨き上げた剣を振り上げるA。
当然その中でお茶会など出来るはずもなく、散らかる食器やお菓子やらで辺り一面地獄絵図と化したのだった。


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