人間はかみさまの作った欠陥品だ | ナノ


 その腕で優しく抱きしめて下さいできれば甘いキスをして下さいそしてもし。もし可能ならば私を愛してくれやしませんか。


「ローさん」
「…なんだ」
「新しく出来た恋人とは順調?」
「恋人なんかじゃねェよ」
「でもキスはするんでしょう」
「それが何だ。」


 恋人ではないというくせにキスはする。それを裏返して見ればキス以上の事をしているという事も容易に想像できた。その関係をまるで気にしないローさんはグラスに半分くらい残っていたラム酒を一気に飲み干すと私に差し出し「もう一杯」と言った。私が何か言った所で彼の行動を抑制する事は出来ない。それは痛いほどわかっているけどそれでも、だ。私は注ぎなおしたグラスを彼の前に戻しながら言う。


「そういうの、よくないわ」
「アンタには関係無いだろ」
「一人の人を愛したいとは思わないの?」
「おれは海賊だ。女なんかに縛られるのは御免だな」


 吐き捨てるように言う彼の目は酷く魅力的だ。不意に痛みが私を襲う。ぎゅっと収縮した心臓の痛みがこれを現実だと知らせてくれるのだ。何も変わる事は無い。私はこの店で同じように客に酒を注ぎ、彼は好きでも無い女を抱く。ただそれだけの事。私が彼の事を好きだと打ち明けてもそれはきっと変わらない。それなら、せめて


「ローさん」
「今度は何だ」


「今晩暇ならお相手願えるかしら」


 そう伝えると初めは驚いた表情をしていた彼も、こんな寂れた酒場に何年も通った甲斐があったと笑いながらまた酒を煽った。人間はかみさまの造った欠陥品だ。だから平気で嘘をつく。きっと彼はそんな嘘ですら私にとっては甘い蜜と何ら変わりない事を知っているんだろう。



110219//しろ
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