星降る夜に温もりを | ナノ



「遅ぇぞ!いつまで寝てんだ」


 重い。おまけに苦しい。そんな最悪な目覚めに苛立ちを覚えつつ重たい瞼を持ち上げその重さの正体を見る。ああ、薄暗い中目を凝らせば私の上にまたがるように我らが船長が居るじゃないか。まあ、別にそこはそんなに驚く事じゃない。問題なのは今がまだ夜だって言う事だ。何を思って”遅い”なんて見当違いな発言をするのかは私にはまったくわからないが、とりあえず私の上から退いてほしい。


「……ルフィ、重い」
「ん?ああ、わりーわりー」


 そう言うとルフィはヒョイと私の上から降り、そして今度は隣にしゃがみ込んでじっとこちらを見た。そこでようやく私も渋々ながら上体を起こし、大きな欠伸をひとつ。さて今日は何の日だったか。誰かの誕生日?いや、そんなイベント事を私がまず忘れるはずがない。ぐるぐると回る頭の中を順に整理してみてもまったく思い浮かばない。となるとこれはただの気まぐれ?気まぐれだけで夜中に叩き起こされてちゃ堪らないけれど。


「ごめん、私ルフィとの約束がまったく思い出せない」
「は?何言ってんだお前。約束なんてしてねェぞ?」

「…えっ、なに、それじゃルフィは気まぐれでこんな夜中に、それもお肌のゴールデンタイム真っ只中に起こしたの?」
「痛ってェ!お前覇気使いながらつねんなよ!」


 ルフィは自分の頬を覆いながら私をキッと睨んできた。いやいや、完全に自業自得だと思う。ただでさえ最近宴の回数が増えて寝不足+夜中に飲んで食べてを繰り返したせいで肌が荒れ気味なのに…。ナミやロビンはなんであんなに肌がきれいなんだろう?同じように飲んで食べて、同じような時間に寝て起きてるはずなのに。まぁ元が良い、なんて言われたら元も子もないけれど。私は溜息を付いてもう一度ルフィを見た。


「で、わたしに何か用なの?」
「お前言ってただろ、星の川が見てェって」


 ルフィはにししっと笑うとそのまま私の腕を引いて甲板に飛び出した。部屋を出た瞬間に、異様とも言える明るさに目を細めた。その光景は川の水面に朝日が反射した時のようで、それが全部星だなんて信じられないくらいにきれいだった。思わず息をのむと、隣のルフィがまた満足そうに笑った。そうだ、いつだったか私はルフィに故郷の話をした事がある。この一味に入る前に私が居た村の話を。一年に一度、星が川のように見える日があるんだよ、なんて。私はいつ話したかもはっきりと思い出せないのに、ルフィはそれをしっかりと覚えていてくれた。毎晩毎晩、空を見上げていてくれたんだ。


「ルフィ、ありがとう」
「いいんだ、おれがしたくてした事なんだから気にすんな」
「それと…さっきはごめんなさい。つねったりして…」
「おれこそいきなり起こして悪かった!でもどうしてもお前に見せたくてよ」


 星空を見上げるルフィの横顔はとても満足そうで、その表情を見ていたら心臓がぎゅう、と締め付けられるような気がした。自分ではよくわからないこの感情は、もしかしたらいわゆる恋というやつなのかもしれない。だから、だ。だからこんな柄にもない事をしてしまったんだと思う。「ルフィ、」彼の名前を呼ぶ。彼の肩に手をかけて、精一杯の背伸び。そして振り向く彼の唇に、自分のそれを重ねた。ビクッ、とルフィの体が跳ねるのを感じる。


「んなっ、お前、な…何すんだ!?」
「ふふ、お礼の気持ち。ごめんね、嫌だった?」


 そう聞いてみても麦わら帽子を深くかぶって俯いた彼の表情はよく見えない。それでも真っ赤な耳と「嫌じゃねェ」、そうやって小さく呟いた未来の海賊王の可愛い一面が見えたので私の心はどこまでも満たされた気がしたんだ。ありがとう、大好きよ。ルフィ



星降る夜に温もりを



120130/しろ
モノクロの星様に提出させて頂きました。
素敵な企画をどうもありがとうございました!