のど元にあてがわれた切っ先はひやりと冷たく、それはまるで松永様の体温の様でございました。蝋燭のか細い光にぼんやりと照らされた松永様の表情は、私如きにはとても形容し難い、本当に ほんとうにお美しいものでした。 「卿には涙がよく似合う」 「それは…とても光栄にございます」 「ああ。卿はずっと私の傍で泣いてさえすればいい」 戦明けの松永様はいつもこうで御座いました。敵軍を完膚なきまでに叩きのめし、女子供も区別なく皆殺してもなお松永様の中の高ぶった破壊衝動はおさまる事はありません。有り余った熱をこうして私に向けるのです。冷たい刃がぷつ、と私の肌を裂きます。玉のような小さな血がやがてするすると肌の上を滑ります。松永様はその様が大層お気に入りで、私の肌が血で濡れるとくつくつと低く笑われます。痛くて怖くて、このまま殺されてしまうのではないのかと思いますが、それでも松永様の手で逝けるのであれば幸せなのではないかとも思ってしまうのです。きっと私も、いつの間にやらこの狂気に呑みこまれていたのでしょう。 「また卿に傷を付けてしまったね」 「いえ…松永様のお気の済むまで続けて下さい」 「卿は、とても綺麗だ」 松永様の冷たい舌がゆっくりと私の首筋を舐めます。血を舐めとり、いやらしく舌舐めずりをするのです。その恍惚とした表情を見るだけで、子宮の奥がずん、と疼く気がするのです。愛おしい、愛おしい愛おしい。舌がするすると、まるで蛇のように首筋を上がっていきます。そして乱暴な接吻を交わすのです。 「…、卿は 私の物だ」 「っ、ん 承知して…おります…っ、あ」 「爪の先、…髪の一本に至るまですべて、だ」 「ふっ…あっ、勿論…で、御座い、ます…」 戦の衝動をそのままに、松永様は激しく私に腰を打ちつけます。子宮の奥にまで届きそうなそれに、頭の芯までぼうっとして、何も考えられずに気をやってしまいそうになるのです。だらしの無い自らの喘ぎ声と、松永様の熱い吐息が合わさって酷く官能的。このまま松永様と一つになりながら朽ちていけるのなら、どんなに幸せでしょうか。松永、さま。 きみが言うほど特に理由はないよ (夢か現か人か鬼か。彼の心は誰にも解かりはしないのです) 120123/しろ 松永久秀オンリー企画"昇華"さまへ提出 とても楽しく書かせていただきました。ありがとうございます。 |