夜明けの降伏 | ナノ


 ひんやりとした夜独特の空気に少しだけ身震いした。見上げた夜空に名前も知らない先人たちの命が輝いている。あの中にいつか私も加わる事が出来るだろうか。いつか訪れるであろうその時に、私の隣で変わらずいっそう強い輝きを放つのは彼である事を願って目を瞑った。星は流れない。

 彼は大きな盃に酒を注ぐと、片手で持ち上げそのまま一気に飲み干してしまった。彼は空になった盃を置くと射抜くような瞳をゆっくりと私に向け、一呼吸置くと優しく笑った。


「一体どうしたんだ?お前が呼び出すなんて珍しいな」
「別に何かあった訳じゃないんです、ただ…シャンクスさんと久しぶりに話がしたくて」
「そういやお前とこうやって話すのは久しぶりだな。なんだ、寂しかったのか?」


 そう言って私の頭を優しく撫でる彼の手に、心臓の音が早くなるのを感じた。私が彼に触れるのをためらっていたと言うのにそんな事構うものかといとも容易くその領域に侵入してすべてかき混ぜて、また離れていってしまう。どうせ応えてくれないのだから思わせぶりな態度は止めてほしいと思う反面、この顔に残る熱は喜んでいる証なのだろうか。
 それに私は気付いている。思わせぶりも何も、彼ははなから私の事など見てくれてはいないのだ。だから私は夜空を流れる星を探す。見つけられたなら、そして心の中ででも願いが唱えられたならその時には彼に愛される気がした。星は未だ流れない。


「シャンクスさん、もし流れ星を見つけたらどんな願い事しますか?」
「願い事か…そりゃもちろん仲間一人欠ける事なく美味い酒飲めるように頼むだろうなァ」
「もう、すぐにお酒の事に持って行くんですから」


 冗談交じりにそう言えばシャンクスさんは大きく笑いながらおれが酒を好きな事くらい知ってるだろ、と言った。ええ知っています。酒も仲間も海も、全部シャンクスさんの大切な宝なんでしょう。その仲間として入っている事はとても嬉しい事であるはずなのに満たされる事が無いこの心は、いったい。星が流れた。愛されたい、たったそれすら願えぬまま海に吸いこまれるようにして星は消滅した。全部全部、気付いていた。星に願いをかなえる力なんて無い事も、だからこそそんな出来もしないジンクスがある事も。報われないとわかっていても諦めきれないのは強さなのかそれとも、


「シャンクスさん」
「次は何だ?」
「大好きです」


「ハハッ、おれも大好きだ!」



夜明けの降伏

(ただの弱さか)


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