頭が悪いので恋が出来ません | ナノ


「…なんでせっかくの片倉先生の補習なのによりによって元親と一緒なのか私には理解できない」


 わたしが味気ない蛍光灯の下でさも残念そうに呟けば隣で必死にシャーペンを走らせていた元親がその手を止め、ゴンと私の頭を叩いた。元親が手加減をして叩いたのはほとんど痛みを感じない頭に聞けばわかる事で、なんだかその無駄な優しさが癪に障った。(だからって加減無く叩けばそれはそれで私の頭が割れる可能性も出てくるので絶対に嫌だ。)


「元親、そこ違う。あとそこも公式間違ってるし、そっちは考え方からしておかしい」
「…おめえ何で補習なんざ受けてんだ」
「さっきも言ったでしょ、片倉先生と二人っきりになるつもりだったの。なのに!」
「そんな事のために補習受けてんのか、お前」


 まるでかわいそうなものを見るような目で私を見る元親にとてつもない腹立たしさを覚えた私は、机に開きっぱなしになっていたノートを丸めて力いっぱい背中を引っ叩く。すると声にならない呻き声のようなものを上げ、私の方を振り向き「なにしやがんだ」と怒鳴った。
 なにするも何も、元を正せばすべてこの男のせいなのだから仕方ない。言うならば当然の報いと言った所だろう。そもそも私は自分で言うのも何だが勉強は出来る方だ。そんな私が補習になったという事で片倉先生はすべてお見通し、というように私たちのいる教室にプリントを置くと、出来たら帰って良いからなという絶望的な言葉を発し、そのまま職員室へ消えて行ってしまった。
 こんな事ばかりしているが私は決して元親が嫌いなわけじゃない。家も近いし、小さいころの今となっては想像もできない程に可愛らしい元親の写真だって持っている。そんな私が元親を置いてさっさと帰る事が出来ない事も片倉先生はきっと知っていたんだと思う。


「元親昔は可愛かったのにね」
「っ、!ガキの頃の話蒸し返すんじゃねぇ!」
「あ、元親顔赤くなってる」
「黙ってろ!」
「私が黙ったら一生課題解けなくてこの教室から死ぬまで出れないよ?それでも良いなら黙るけど」
「お前本当に可愛くねぇな…」


 少しの沈黙、そしてその後の豪快な笑い声が私は嫌いじゃない。むしろ、割と好きだって事に今気付いた。喧嘩っ早くてすぐ怒るくせに話してると元気が出てたり何かあるとその度に慰めてくれる元親の事だって、割と好きだ。ただこのまま好きになるのは癪なので何かしらに理由を付けてこの気持ちを気のせいにしようとする私の努力は並大抵のものじゃない。とりあえず今は元親の頭が悪いので、そんなやつ好きになるはずはないと思いこむ事にする。



いので恋が出来ません
(元親、今日の家庭教師代は出世払いで良いからね)
(ばかな事言ってんじゃねぇ)




110220//しろ

相互記念につみきちゃんへ
これからもずっと仲良くしてくれると嬉しいです、大好き!