産後から早いものでもう1週間、日に数回交代で仲間たちが生まれたばかりの子供を見に来る光景も見慣れたものになっていた。だがそんな男たちも、もう昼近くになろうというのに今日は一人も来ていない。それもそのはず、出産から1週間、大がかりな出産パーティーの準備がようやく完成したのだ。そして今日はそれと同時にわが子に生まれて初めての贈り物をする日でもあった。 メーアは部屋の窓を開け、慣れ親しんだ海風を体いっぱいに浴びると、ゆりかごの中で眠る愛しいわが子に柔らかな頬笑みを送った。すやすやと小さな呼吸を繰り返すまだまだ小さな娘の頬は薄紅色に染まっている。その頬に触れれば見た目通りのやわらかな感触にすっかり心を奪われしまう。そんな事をしていると、いよいよだと部屋の扉をノックする音が聞こえた。その音の主は彼女の夫であり赤子の父親である白ひげ、エドワード・ニューゲート本人だ。 「メーア、入るぞ」 「ニューゲートさん!もう準備出来たのね?」 「あァ、そうらしい。 メーア、お前は出来てんのか」 「ええ、もちろんよ」 メーアが笑顔でそう言えば釣られるようにして自然と白ひげの顔も綻んだ。そして彼女の長い髪をゆっくりと数回撫でるとまた口を開いた。 「そりゃァ良い。息子達も首を長くしてお前を待ってる、行くぞ」 はい、と笑顔のまま頷き寝ている娘を起こさぬようそっとその腕に抱き抱える。しっかりとした重さに、メーアは心がどこまでも満たされていくのを感じていた。そして1週間お世話になったこの一室に小さく頭を下げ、船医室を後にした。 息子たちの待つ甲板へ足を運ぶ途中、白ひげはふと後ろを振り返ってみる。すると自分の数歩後を歩いているメーアの顔が笑ってしまう程に緊張で堅くなっているのに気付いた。グラララと突然笑いだす夫にメーアは驚き小さく肩を震わせるが、やがて釣られて笑いだしてしまった。そんな笑い声は当然のように息子達の待つ場所まで届いており、いよいよだと白ひげ、メーア、仲間達。それぞれに気持ちを高まらせていた。 「みんな、ただいま!」 メーアがそう声をかければ、男たちの野太い歓声が広い海原に響き、船を揺らした。さっきまでの緊張が嘘のように晴れ晴れとした表情で息子たちの前に顔を出すメーアに白ひげが安心したように息を吐く。すると間髪いれずにどこからか声がした。エースだ。 「メーア、早く名前教えてくれよ!」 「ふふ、エースってば相変わらずせっかちなんだから」 「おれ気になってメシも喉通らねェ…、あー いや。通らねェ訳じゃ無いんだけどよ!」 「エースは寝ながらでもメシ食ってるもんな」 「サッチ! ったく…おれの事はどうだって良いだろ、今日の主役は赤ん坊なんだからよ」 な、メーア。と続けるとエースはにんまりと笑った。仲間達のざわめきもやがて静かになり、メーアとその腕に抱く赤子を中心に円を描くように集まった。二人からわが子へ向けた記念すべき最初の贈り物を聞き逃さないように、と。 メーアは大きく息を吸うと、透き通った声で言った 「みんな、今日は本当にありがとう。私はこうやってたくさんの家族に囲まれて愛する人との間に授かった子に名前を贈る事が出来て本当に幸せです。 私達はこの子に光になってほしいと思って名前を付けたの。この子に関わる人を温かな場所へ導いて上げられるような優しい光になれるように。そしてその人生が輝きに満ちた、どこまでも素晴らしいものでありますように。 そう思って私と彼が決めた名前はルーチェ…、 この子の名前はエドワード・ルーチェ」 ふたりの心臓、愛の形 (確かな愛に包まれて、光はこの世で息をする) 110220//しろ |