パパは海賊 | ナノ



「うわああぁああん」


 こんな耳をつんざく子供の泣き声も、もう3年も聞いていれば波の音となんら違いは無ェ。毎日毎日よくもまあ涙は枯れないなと、体は小さくとも尊敬すらしてしまう程だ。



 そんな泣き声が日常になったのは今日から丁度3年前。おれが遠征から帰ると仲間が船医室の前に集まってなにやら心配そうに話しあっていたのを覚えている。時期違いの大嵐に船はいつも以上に揺れ、嫌な予感だけがおれを包んでいた。少し離れた所から心配そうに扉を見つめるエースに不安をぬぐい去るように話しかけた



「みんなこんな所に集まってどうしたんだよい」
「あぁマルコ戻ったのか…。おれもさっき買い出しから戻ってきて知ったんだけどよ、数時間前にメーアのお産が始まったらしい」
「なっ…、予定日はまだ先のはずじゃねェのか」
「早産らしいな。親父は中に居るって言ってたぜ」
「……そうか…」



 嵐によって船の軋む音と時折かすかに聞こえるメーアの苦しげなうめき声に眉を顰めながらエースは答えた。大きくなった腹を抱えて、それでも毎日親父の看病を続けたのが響いたのだろうか予定日よりも数週間早いお産になったらしい。そんな不測の事態に屈強な男達が揃いも揃って情けない顔をしていた。もちろんおれも例外ではない。何もできない苛立ちに戦明けの疲労が重なって眉間に皺が寄るのを感じた。母子ともに無事であってくれればそれ以上の事は無い。おれは強く願った。いや、きっとおれ以上にそれを願っている男がいるだろう。(……親父、)


 元々親父の専属ナースだったメーアと親父それはそれは中睦まじく、それこそ歳の差はあったものの確かな愛を育んでいた事は誰の目から見ても明らかだった。そんな心地よい生活が続いたある日、メーアが照れたような表情でおれに赤ん坊が出来たと打ち明けた時はさすがに腰を抜かすかと思ったが。(確かそれを親父にどう伝えればいいのかわからず相談に来たと言っていた気がするよい)それでもその事実をなんとか親父に打ち明けると、その日の宴は今までのものとは比べ物にならないくらい豪勢だったのを覚えている。


 日に日に大きくなる腹に耳を当てた事もあった。「最近ね、お腹を蹴ってくるのよ。きっと元気な子が生まれるわ」メーアがそれはそれは嬉しそうに話すものだからおれは柄にも無く目じりが下がっていくのを感じた。(それを見たサッチが茶々を入れてきたのは言うまでも無い)



「…もう何時間になる」
「船医室に入って13時間、痛みが酷くなりだして5時間は経ったらしい」
「……そうか」




どくん、(命の流れる音がした)
(どうか、どうか無事に生まれてきてくれよい、)




110218//しろ