クラップ | ナノ

少女漫画によくある展開@

【「頑張ったな」と頭をなでなでされる/白ひげ】


 制作時間およそ4時間。この日のために練習に費やした期間およそ2ヵ月。犠牲者は主にマルコとサッチ、それとエース。他、割愛。完璧なはずだった。前日からミリグラム単位で計った砂糖や小麦粉、卵はわざわざマルコに今朝買ってきてもらった新鮮生みたて。そして2ヵ月間毎日同じものを作り続け、最初は暗黒物質だったものが今は店の味と大差ないと言われるまでになった私の磨きに磨いた技術。…なのに。
 もう一度言う、これは完璧なはずだった。なのに今オーブンから取り出したソレはとてもじゃないが人が食べられるような形状をしていない。生きたタコでも入っているんじゃないかと思う程にうごめいている。実におぞましい。こんな事になってしまっては2ヵ月間ほぼ毎日犠牲になってくれたみんなに会わせる顔が無い。そして何よりこんなものを船長の口へ入れる事なんて出来るわけが無い。自分の不甲斐なさからか涙が出てくる。


「うっ…ひっぐ、っ…」
「オイ、どうかしたのか」


 ああついに愛しの船長の幻聴まで聞こえる程だ。本格的に精神が崩壊している。白ひげ海賊団の食料を使っておいて失敗したからと捨てる事など到底出来ないので、私はその物質を胃袋におさめるべく向き直る。見知った船長の姿を確認した。幻覚ならば何をしても許されるだろうとその肌に触れる。確かな感触に幻覚で無いと気付くのに使った時間、5秒。


「せっ、船長!」
「ようやく気付きやがったか」
「ごめんなさい、幻聴かと…」



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