寒い、苦しい。ここはどこ?
「マフラー?」
ツナは買い物からの帰宅途中、道端で白いマフラーを見つけた。
不思議に思ってそれを拾い上げてみる。
「これって、確かなまえの?」
学校で名無しがこのマフラーをつけていたことを思い出したツナはますます首を傾げた。
「…ん?なんだこれ」
ツナはマフラーに付いていた手紙のような紙を開いてみる。
そこには短文な文章が書かれていた。
「なになに、は!?ちょ、たっ大変だー!!」
ツナはその文章を読み、急いで自宅に帰ると一目散にリボーンにこの手紙とマフラーの事を話した。
「この子を返して欲しくば次に記した場所へこい。六道骸…こりゃイタズラじゃなくて本当だな」
「え!?リボーン六道骸知ってんの!?」
「ああ、先日ディーノからイタリアで集団脱獄があったと聞いたんだ、そいつらはマフィアの情報網で脱獄の主犯は骸という少年で、部下ふたりと日本に向かったという足取りがつかめたんだ」
「脱獄って!?その骸って人何者!?」
「やつらはマフィアを追放されたんだ」
「は!?マフィアを追放された!?」
驚くツナに、リボーンは淡々と答える。
「ちょうど9代目からお前宛に手紙も来てたことだし、さっさとそいつらを倒しに行くぞ」
「手紙!?9代目から!?」
「内容は大まかに言うと、12時間以内に六道骸以下脱獄囚を捕獲、そして捕らえられた人質を救出せよだ、それとオレは今回の件に手はださねえからな、死ぬ気弾しか撃てねえ掟なんだ」
「はあ!?何だよそれー!そんなんやりたくねーよ!」
「じゃあお前はなまえを見捨てるんだな?」
リボーンの言葉に反応したツナは、深刻な表情で大きくため息を漏らした。
「…オ、オレに出来るかな?」
「お前が動かないで誰がなまえを助けに行くんだ」
リボーンのその言葉を聞き、ツナは決心をしたように立ち上がる。
「わ、分かった!オレ、なまえを助けに行くよ!」
「それでこそボンゴレ10代目だ、そんじゃほかのやつらも呼ぶぞ」
ご丁寧に場所はこの手紙に記してある。
ツナは恐怖で震える腕をぎゅっと握りしめた。
「なあ、なまえ遅くねえ?」
昼を過ぎても学校から帰ってこないなまえを心配し、ベルがみんなに問いかけた。
「ほんとだ、委員会だけなのに遅いね」
「何かあったのかしら」
「しし、どっか寄り道でもしてんのかもな」
「なまえは寄り道なんてしないよ」
マーモンの言葉にベルはうーんと言葉を濁らせる。
ちょうどその時、目に映ったスクアーロにベルは問いかけてみた。
「スクアーロ、お前知らね?」
「何をだぁ?」
「なまえが今どこにいるかだよ」
「知らねーな」
「どーだか」
ベルの何か意味深な言葉に眉をぴくりと反応させるスクアーロ。
それを見て、ベルの口角が微かに上がった。
「あ、ベル、なまえからメールきてないの?遅くなるとか」
「来てねえよ」
「遅くなるときはいつもメールよこすのに、なまえに何かあったのかしら?」
「…誘拐されたか?」
ぼそりと言ったレヴィの言葉に反応し、一斉にレヴィへ視線を集中させるみんな。レヴィは嘘だ嘘!と言って必死に手を振っている。
部屋中になんとも言えない雰囲気が漂った瞬間、勢いよく扉が開いた。
「仕事だ」
そう一言だけ言い放ち、ボスは暗殺の準備をし始める。
「ボス、仕事の内容は?」
「隣町に居るマフィアを追放されたガキ共を始末する」
「ボス、なまえがまだ帰ってきてないのよ」
「うっせえ、さっさと行くぞ」
「はーい、なまえほんとに大丈夫かしら?」
「とりあえず、今は仕事しに行こうよ」
マーモンの言葉に同意したルッスーリアはそうねと言ってボスのあとをついて行く。
現時刻13時35分。
ほぼ同時刻に、ボンゴレとヴァリアーは同じ目的地へと向かった。
寒い、苦しい。ここは、どこ?
ゆっくりと目を開くと、そこはどこかの建物の中だった、廃墟になった建物なのか随分酷く荒らされている。体を動かそうとして、初めて自分が縛られていることに気付いた。
なに?なんで私はここに居るの?
口にはガムテープが貼られているため、言葉を発することができない、必死に辺りを見渡した。
「…骸様、気付いたみたいです」
「ったく、意識戻すの遅すぎだびょん!」
「気分はどうですか?なまえ」
この声は。
「むく、ろさん?」
声のした方に顔を向けると、確かにそこにはソファに座り私を見ている骸さんの姿があった。
その傍にはこの前骸さんと一緒に遊園地にいたふたりも居るのがわかる。
「千種」
「はい」
千種と呼ばれた彼は、私に近寄り口についていたガムテープを剥いでくれた。
「む、骸さん、ここは?」
「ここは僕達のアジト、でも言っておきましょうか」
「アジトにしてはボロ過ぎだよなー」
「犬うるさい」
私は意味が分からないといった表情で、骸さんを見つめた。
「状況がよく飲み込めていないようですね」
「骸さん、なんで私がここに」
「なまえ」
骸さんはゆっくりと近づき、私の顎を持ち上げる。
目の前にある骸さんの顔は、少し悲しそうだった。
「あなたを、利用させて頂きました」
「利用?」
「あなたはボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの一員ですね?」
なんで、そのことを。
「僕にボンゴレファミリーの構成、ボスの正体を教えて下さい」
この言葉を言われたとき、一気に今の現状を把握した。
骸さんは、私達の敵なんだ。どこのマフィアかは分からない、けどボンゴレの素性を知ろうとしているのは明らかで。
私はぐっと下唇を噛み締めた。
ここでボンゴレの内部情報を漏らすわけにはいかない。
「なまえ、答えて下さい」
じっと見つめてくる骸さんから視線を逸らさずに答えた。
「ごめんなさい、骸さん」
「な!てめーふざけんじゃ、」
「黙れ、犬」
私に殴りかかろうとした犬という彼に、冷酷な視線を送る骸さん。
犬はすぐに拳を引っ込めた。
「どうしても、言ってはくれませんか?」
「はい」
「それは残念ですね」
骸さんの表情が変わる。ゆっくりと私の視線を絡めとる彼の瞳、骸さんの右目がだんだんと変化していく。
直感的に、嫌な予感がした。
「い、いや」
「大丈夫、怖がることはありません」
どうせ、何も分からなくなるのだから。
私はゆっくりと、目を閉じた。
「止まれ」
ボスの言葉に反応し、ヴァリアーの一団は静止した。
ボスの視線の先には微かに何人かの人が見える、彼等は息を殺して、それを見ていた。
「M・Mっていう女と、バーズっていう男、そしてランチアさん、脱獄者は3人組だったんじゃないのかよ!リボーン!」
「ディーノがこいつらは関係ないなって言ってたからな、マークすんの忘れてた」
「あのなー」
「大丈夫っスよ10代目!いざとなったらオレがやりますので!」
「う、うん」
「山本は無理だな」
「安全な場所へ移しましょ」
ビアンキとリボーンは山本を木陰へと移動させた。
「ごめんね山本、すぐ戻ってくるから待ってて」
「ったく、これからって時によ、つーかあの女どこに居やがんだ?」
「あっちだ」
リボーンはバーズの鳥が飛んで行った方向へ指を指す。
ツナと獄寺とビアンキはその場所へ向かってゆっくりと進み始めた。
「…おい、あの赤ん坊アルコバレーノのリボーンじゃねえか?」
「恐らくそうだね」
「それじゃあ、あの子達がボンゴレ?」
「う゛お゛ぉい!ただのガキじゃねえか!」
ギャーギャーわめき出した彼等を無視し、ボスはゆっくりと歩き出す。
「どーすんだよ、ボス」
「しばらくあいつらの行動を見張る」
「了解」
そこでヴァリアーの一団は気配を消し、ボンゴレを見張る体勢となった。
「黒曜ヘルシーランド」
「いよいよだな」
「階段が壊されてる…」
「ここもだぜ」
リボーン、ツナ、獄寺、ビアンキは非常用のはしごを見つけそれを昇ろうと試みた。
その瞬間、背後からヨーヨーのような音が聞こえ、4人は一斉に振り返る。
「ヨーヨー使い!」
「10代目!ここはオレにまかせて下さい!」
「でも、獄寺くん怪我が」
「いきましょ、ツナ」
「ビアンキ!で、でも」
「行って下さい!10代目は骸を!終わったらまたみんなで遊びに行きましょう!」
「そ、そうだよね、行けるよね」
もちっス!と言う獄寺の言葉を聞いて安心したツナはリボーンとビアンキと共に、この場を獄寺に任せ3人は骸の居る場所へと先を急いだ。
「なんだてめえ、大人しく行かせてくれたじゃねえか」
「骸様の命令だ」
「そーかよ」
獄寺はゆっくりと爆弾を構え始めた。
「2階のボーリング場にはいないみたいね」
「ここから3階に行けるわ」
3階に昇り、以前は映画館だったその内装を見渡すツナ。
ゆっくりと扉を開くと、そこにはひとりの男がソファに座っていた。
「会えて嬉しいですよ、ボンゴレ10代目」
「まさかこいつが!?」
「そう、僕が本物の六道骸です」
「なっ!」
言葉を失うツナの変わりにリボーンが骸に声をかける。
「骸、なまえはどこだ?」
「彼女はここにはいない、とだけ言っておきましょうか」
「なまえを返せ!!」
「返して欲しくば自分で来たらどうです?ボンゴレ10代目」
骸の挑発に、ツナは恐怖で震える足を勢いよく走らせた。
「ぐあ!!」
「犬、どっから沸いてきたの?」
「柿ピーだけにおいしいとこ持ってかせないびょん」
獄寺は犬に胸を突かれ、その場に倒れてしまった。
「ヒャハハハ!ぶっざまー!ザマーみろ!バーカ!」
「犬のせいでもう彼死んじゃうじゃん、オレが殺りたかったのに」
「そー言う割りに、柿ピーもすっげー傷もらってんじゃん、ダッセー」
「うるさい」
じゃあ、トドめは柿ピーやれよという犬の言葉に同意し、千種はヨーヨーを取り出し始める。獄寺は動かない体を必死に動かそうとしていた。
何が、10代目の右腕だ、何の役にも立っちゃいねえじゃねーか、くそ、くそ!
「じゃあね」
千種が獄寺に向かって一気にヨーヨーを振り下ろした瞬間、勢いよく窓が割られた音と同時に、そのヨーヨーははじき返された。
急いで窓の方に視線を向けると、そこには黒髪の男がひとりこっちに歩み寄りながら口を開く。
「やあ、楽しそうなことやってるね」
「ひ、ばり」
「こいつは並盛中の不良の頭。風紀委員長雲雀恭弥」
「マジでえ?なんでここにいんの?」
雲雀は獄寺の近くまで来ると、千種と犬に向かってトンファーを構えた。
「僕も混ぜてよ」
ニヤリと笑った雲雀に、獄寺は好きにしやがれと言う。
「何こいつマジウゼェ、こいつはオレがやる」
「言うと思った」
「ハッ!徹底的にやっからさ、百獣の王ライオンチャンネル!」
「ワオ、子犬かい?」
「うるへー!アヒル!」
牙のカートリッジを入れ替えた犬は物凄いスピードで雲雀に襲い掛かっていった。
「ん?おい、スクアーロ」
「ああ?あ、あいつ!」
少し別行動をしていたベルとスクアーロが狭い個室の中にたたずむひとりの人間を見つけ、急いでその中へと移動した。
「なまえ!お前こんなとこで何してんだよ!」
名前を呼ばれたことに気付いた私はゆっくりと視線を向ける。
ベル、スクアーロ。
「お前帰って来ねえと思ったらレヴィの言う通り誘拐されてたのかよ」
「う゛お゛ぉい!誰だぁ!?なまえを誘拐しやがったやつはぁ!」
「たぶん六道骸とかって言うやつじゃね?今日の任務で殺すやつ」
「あっの野郎!」
『なまえ』
「っ、」
「おい、なまえどうした?」
「大丈夫かぁ!?」
異変に気付いたふたりはすぐさま私の傍へ駆け寄ってきた。
ダメ、来ないで来ないで、逃げて。
「おいなまえ!?」
「いきなり何すんだぁ!?」
勝手に動く体で、ベルの服を少し裂いてしまった、いきなりの意味不明な行動に動揺するふたり。
私の体は尚も、ふたりに向かって剣を振り下ろす。
「うわっと!」
「やめろ!なまえ!」
『なまえ』
「なまえ!」
振り下ろした剣ごと私の動きを止めたベル。
スクアーロもすかさず私の元へと駆け寄ってきた。
「お前、まさか操られてんのか?」
「う゛お゛ぉい!それも六道骸ってやつの仕業かぁ!?」
「それしかねーだろ、六道骸は凶悪なブラックリストメンバーだからな」
「どーにかしてなまえを元に戻せねえかぁ!?」
「うっせーな、そんくらいてめえで考えろ、ムッツリスケベが」
「な!?う゛お゛ぉい!ムッツリはてめえだろーがぁ!」
言い争いを始めたふたりに対し、またしても私の脳に直接骸さんの言葉が伝わってくる。
『なまえ、来なさい』
私は勢いよくベルの手を振り払い、骸さんが呼ぶ方へ足を運び始めた。
「ん?なまえのやつどこ行こうとしてんだ?」
「その六道骸に呼ばれてんじゃねえかぁ?」
「んじゃこのままなまえについていけば、」
「ベル、スクアーロ、ボスが呼んでるよ、単独行動はもうやめろだってさ」
なまえの後をついて行こうとしたふたりに、マーモンがどこからともなく現れそれを静止させる。
「でもよぉ、さっきあっちに、」
「またボスに怒られたいの?」
マーモンのドスの利いた声に、ベルとスクアーロは仕方なくボスの居る場所へ引き返すことにした。
今日中には六道骸に会えるだろう。
ベルはそんな事を考え、なまえが歩いて行った道筋を眺めていた。
「どうしたんですか沢田綱吉、そんな攻撃じゃ僕を倒すことなんて不可能ですよ」
「くっそー!」
リボーンから渡されたムチを使って骸を攻撃するも、難なくそれを交わす骸。
隅には骸に傷を負わされたビアンキが倒れていた。
「ツナ、そのままじゃお前に勝ち目はねーぞ」
「でも!」
「アルコバレーノの言う通りですよ、さっさと降伏したらどうですか?」
「う、うるさい!」
尚もムチを振り続けるツナに、骸はやれやれと肩をすくめる。
そんな骸の様子を見ていたリボーンがおもむろに口を開いた。
「あんまり図に乗んなよ骸、オレは超一流の家庭教師だぞ」
リボーンの言葉が終わると同時に、飛んできたトンファーが骸に攻撃をする。
「10代目!伏せて下さい!」
「えっ!?のわー!」
放たれた爆弾を間一髪で避けたツナは入り口の方に視線を向けた。
「獄寺くん!ひ、雲雀さん!?」
「雲雀、待ちくたびれたぞ」
「リボーン、雲雀さんも呼んでたのかよ!?」
「当たり前だ、雲雀もボンゴレの一員だからな」
ニヤリと笑みを浮かべるリボーンに、骸はおやおやと言葉を口にした。
「外野がぞろぞろと、千種と犬は何をしているんですかねえ」
「へへ、メガネヤローとアニマルヤローなら下の階で仲良く伸びてるぜ」
「なるほど」
ため息をついた骸の目の前に、雲雀はゆっくりとトンファーを掲げる。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねえ」
骸は楽しそうに口元を歪ませた。雲雀が骸に向かって攻撃を仕掛けようとした瞬間、誰かの足音が聞こえ全員で一斉に入り口へ視線を集中させる。
そこに現れたのはなまえだった。
「なまえ!」
「てめー!今までどこにいやがった!」
「探したんだぞ」
駆け寄ってくるツナさんとリボーンさんが見える、そのずっと前のほうには私を見て少し驚いているような表情の雲雀さんが。
骸さんの口がゆっくりと言葉を口にした。
「うっ、」
振り下ろした剣は間一髪にも、ツナさんには当たらなかった。
「な!どうしたんだよなまえ!?」
「てめー!10代目に何して、」
「なまえのやつ、骸に操られてんな」
「え!?」
心底驚いたツナさんと獄寺くんは口をあんぐりと開ける。
リボーンさんは構わず話を続けた。
「ランチアだけじゃ気が済まねーか、骸」
「彼女がいけないんですよ、さっさとボンゴレのことで口を割らないからこうやって違う形で利用しようと思いましてね」
「なっ!」
怒りで拳を握り締めるツナさんに対し、獄寺くんも物凄い形相で骸さんを睨んでいる。
さっきからずっと黙っていた雲雀さんは静かに私を見ていた。
「う゛お゛ぉい!なまえがボンゴレ達のとこにいるぜえ!」
「と、なるとあそこにいるのが六道骸だね」
「なんでなまえがここにいるの!?」
「レヴィの言う通り、なまえは六道骸に誘拐されてたみてえだぜ、しかもやつに操られてる」
「それは本当なのベルちゃん!?」
「さっきなまえに会ったときはもうあいつはあいつじゃなかったしな」
「そんな…」
項垂れるルッスーリアに対し、マーモンとレヴィも眉を潜めていた。
天井の陰から下を見下ろしていたヴァリアーの一団、ボスは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「隙を見て行くぞ」
「了解」
今すぐにでも飛び出したい衝動を押さえ、ヴァリアーの一団は身を隠しながらボンゴレの様子を伺っていた。
「それじゃあ、今から彼女に戦ってもらいましょうか」
骸さんの言葉と同時に脳に響く骸さんの声。
気持ちとは裏腹に、私の体は勢いよく雲雀さん目掛けて走って行った。
「まずは外野の君から死んで頂きましょう」
「雲雀さん!」
「雲雀の野郎、あの女に普通に攻撃すんじゃねースか?」
「え!?そっそんな!なまえが死んじゃうよ!」
「雲雀を信じるしかねーな」
リボーンの言葉を聞いてますます心配になるツナさん。
私は無表情で立ちつくす雲雀さんに思い切り剣を振り下ろした。
「クフフ」
ああ、楽しい。