昨日のことが頭から離れず、翌日スクアーロと目を合わせることができなかった。
ベルは昨日のことなんて何も気にしていないのか、まったくのいつも通りな態度で私に話しかけてくる。
ベルとは反対にスクアーロも私同様、一度も私と目を合わせなかった。

「今日は委員会の集まりがありますので、学校行ってきますね」
「わかった、いってらっしゃいなまえ」
「しし、頑張れよー」

ベルはいつものようにニカッと歯を見せて無邪気に笑った。ベルの笑顔を見て少し安心した私はほっとしながらアジトを後にする、息を吐くとそれは白い空気へと変わった。
結局、おはようも行って来ますもスクアーロには言えなかった。スクアーロは、昨日。
昨日の事を頭に鮮明に思いだす。スクアーロの途切れた先の言葉を私は聞けなかった。スクアーロは昨日、なんて言おうとしたのだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間に着いたのかもう目の前には並中が建っていた。私は少しだけ静かなその校舎へと入っていく、確か、集合は応接室だったよね。
再度確認しながら応接室へと向かった。
応接室の前に着くと、中から風紀委員の声が聞こえ急いで応接室の扉に手をかける。その瞬間、勢いよく扉が開いて私の顔面に直撃した。

「いた!」
「ん?なんだ、今きたのか」

廊下に座って鼻の辺りを撫でていると、扉を開けた張本人が私に向かってため息をついた。痛さで目が潤みよく見えないが、凄まじいリーゼントを見た瞬間その人が誰なのかすぐに理解できた。
私は急いで立ち上がり必死に頭を下げる。

「お、遅れてすみません!」
「頭下げる相手が違うんじゃないか?」
「え?」

言葉の意味が分からず草壁さんに視線を送ると、草壁さんは応接室の中を指差した。ちらっと視線を応接室の中へ移すとそこには書類に目を通している雲雀さんの姿が。
体から一気に血の気が引けていくのが分かった。

「頑張れよ」

じゃーなとそれだけ言って草壁さんと他の風紀委員は全員いなくなってしまった。
辺りを見渡しても、ここに居るのは私と雲雀さんだけ。前にもこんな事なかったっけ?とか色々考えていたら、雲雀さんがふいに顔を上げて私に視線を向けてきた。

「そんなところで何してんの、早く入ってきてよ」
「は、はい!」

雲雀さんに言われた通り、応接室に入り扉を閉めた。

「こっちきて」

応接室に入ると同時に私を呼ぶ雲雀さん。
急いで雲雀さんの傍へと移動した。

「わ、私は何をやればいいですか?」
「君にはこの書類の整理を頼むよ」

そう言って手渡された束になっている書類を私は、はいと返事をして受け取った。

「なるべく急いでね、昼頃には終われるように」
「お昼までにこの書類整理終わらせるんですか!?」
「今日は僕ちょっとした用事があるから、それと1秒でも間に合わなかったら咬み殺す」
「わ、わかりました!」

チャキッとトンファーをおもむろに出し始める雲雀さんに恐怖を感じつつ、私はソファに座ってすぐさま書類に目を通し始めた。
細かい字が並ぶ書類の束は正直言って読んでるだけで眠くなる、それでも気力で書類の整理を続けた。

「お、終わったー!」

ぐっと背伸びをして時計に目をやるとあと1分で12時になっていた事に気付き私は心底安心した。
書類を整え、私は机で違う書類を整理している雲雀さんに声をかける。

「雲雀さん、できまし…」

雲雀さん、寝てる。
視線の先には、机に顔を置き爆睡している雲雀さんがいた。ゆっくり近づいてみても、まったく起きる気配がない。
疲れてるのかな。そう思いながら起こさないように雲雀さんの机に書類を置いた。ふと視線を机の引き出しに向けると、1枚のチラシのような紙が挟まっているのが見える。
何だか気になった私は無意識にそれに書かれている文字を読み始めた。

「えっと、学校自慢大会要項のお知らせ?」

学校自慢大会!?
もしかして雲雀さん、これに出ようと思ってるのかな。

「なに見てるんだい?」
「ひ、雲雀さん!?」

急いで顔を上げるとじっと私を見つめている雲雀さんと目が合ってしまった、どうしよう。

「い、いつから起きてましたか?」
「なまえがここに書類持ってきたときから」

そんな前から!?
アハハと苦笑いを浮かべ、睨んでくる雲雀さんに向かって何度も頭を下げた。

「か、勝手に見たりしてすみませんでした!」
「それなに」
「え?」

頭を上げたと同時に、雲雀さんはぐいっと私の手首を引っ張り上げる。
そこには昨日スクアーロから受けたアザが少しだけ残っていた。

「あ、これは、その」

目線を泳がせながらもごもごしていると、雲雀さんはそんな私を見て何も言わず立ち上がった。

「雲雀さん?」

立ち上がった雲雀さんを見上げる。
雲雀さんは尚も黙って私の手首のアザを見ていた。

「こ、このアザは昨日、転んだときについたアザなんですよ!」
「……」
「えっと、転んだときに手首をちょっと、床に強くぶつけたみたい、です」

無表情で私の手首を見ている雲雀さん。私は嘘がバレないようにと必死に説明をしていた。
そんな時、雲雀さんの口がゆっくりと開く。

「…ふーん」

雲雀さんは私に疑いの視線をよこし、バッグからココアを1缶取り出した。

「はい、もう帰っていいよ」
「あ、ありがとうございます!」

雲雀さんが差し出してきたココアを受け取り、深々とお礼を言う。雲雀さんはすぐに背を向けて、表情が見えなくなった。
失礼しますと言ってそそくさと応接室から退出する、その間、雲雀さんは一度も私の方に振り返らなかった。

「さっきは危なかったな」

独り言を呟きながら、ひとりでアジトに向かっていた。
帰ってから、スクアーロに謝ろう。スクアーロはあのとき謝ってくれてたのに、私は今朝、彼に対してひどい態度をとってしまった。
よし!と気合を入れて地面に向けていた視線を前方へと移動させた。

「あ、」

視線の先には見覚えのある綺麗な人がひとり。
その人は私に向かって優しく微笑んだ。すぐさまその人の傍へ駆け寄る。

「骸さん!お久しぶりです!」

嬉しくてニッコリ笑い掛けると、骸さんは途端に悲しい表情へと変わった。

「骸さん?どうしたんですか?」

不思議に思い問い掛けると、骸さんは悲しい表情のまま口を開いた。

「…こんな形で、あなたに会いたくなかった」
「骸さん?」
「すみません、なまえ」

骸さんの様子がどこかおかしい。
そう思った瞬間、突然目の前がぐらついた。

「む、くろさ」

骸さんは悲しそうに、私を見つめていた。

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