ボンゴレファミリーに入ることができた翌日、最低最悪な悪夢が私を待っていた。
「みんなたくさん食べて下さいね!」
ボンゴレファミリーに入れたその翌日。私はみんなに朝食を作っていた。
「なまえ、今日はいつもより朝飯の量が多いんじゃね?」
「何言ってるんですかベル、いつもこのくらいですよ!」
「いや、明らか多いだろ」
「なまえ、今日はいつになく機嫌がいいね」
「すごい!マーモンわかるんですか!?実は私ボンゴレに入ることができたんですよ!」
「あら凄いじゃないの!それで!?いい男はいた!?」
「えーと、すみません、まだルッスーリアのタイプの男の人はいないと思います」
「そーお?残念ねえ」
ルッスーリアは本当に残念そうにコーンスープを口に運んだ。私はマーモンを抱きながらミルクをあげている。
「でも気をつけろよーなまえ、スパイだってバレたらそこで終わりなんだかんな」
うしし、といかにも面白そうにしているベルに一言大丈夫ですよ!と強く言葉を返した。
「あ、そろそろ学校行かなきゃ!それじゃボス!今日こそ最高な情報持ってきますね!」
「昨日と同じようなこと言ってんじゃねーよ」
「今日は絶対最新情報持ってきますよ!」
「できなかったら遊園地無しな」
「え!?」
驚いてる私をよそに、ボスは大声で笑いながら部屋から出て行った。
これは、今日はなんとしてでも情報持ってこないと!
決心して部屋を出ようとドアノブを掴み、そこで一瞬思いとどまった。
そういえば、スクアーロがいない。
「ベル、スクアーロどこに行ったか知ってますか?」
顔だけベルに向けて話すと、ベルは知らねと一言だけ返してまた朝食を食べ始めた。
「なまえ、スクアーロはまだ寝てるんじゃないかな」
いつの間にか肩に乗っていたマーモンが哺乳瓶を持ちながら二階のほうを指差す。2、3段階段を昇って、スクアーロの部屋の扉に向かって一声掛けて見ることにした。
「ス、スクアーロ?起きてますか?」
恐る恐る出した言葉に返事は返ってこなかった。
「なまえ、スクアーロは僕が探すからなまえは学校行きなよ、遅刻しちゃうと大変だし」
「で、でも」
「大丈夫だよ、スクアーロは寝てるだけだと思うからさ」
だから安心してと言うマーモンは軽く私の背中を押した。
私はおずおずと何度も後ろを振り返りながらもアジトをあとにした。
スクアーロ、ほんとにまだ寝てるだけなのかな。
通学路をゆっくりと歩きながら、さっきから気になって仕方ない疑問を頭の中で悩ませていた。
今までスクアーロが朝食に顔を出さなかったことは任務で居ないとき以外、一度だってなかった。そんなスクアーロが任務が無い日に朝食に顔を出さないなんておかし過ぎる。何かあったのかな。
ため息をついて顔を上げると、前方には見覚えのあるふたりの姿が。あれはたぶん。
「ツナさん!リボーンさん!おはようございます!」
「なまえちゃん、おはよー」
「ちゃおっス、なまえ」
私は早足でツナさんの隣へと移動した。
「ツナさん、ちゃん付けなんてしないで下さいよ!なまえでいいです!」
「え!?そっそんなこと急に言われても」
「なまえがいいって言ってんだからこれからはなまえって呼ぶんだぞ」
「え!?マジでー!?」
ツナさんがもごもごと何かを言っていると、後ろから大声が聞こえてきた。
「10代目!リボーンさん!おはようございます!」
「獄寺くんおはよう!」
「ちゃおっス」
あの人は、ボンゴレの中で一番かかわりたくない男ナンバーワンの獄寺隼人!昨日自己紹介してもらってる間中ずーっと私の事を睨んでいた張本人!
今もかなりこっち睨んできてるし、やっぱりまだ私の事怪しんでるのかな。
少しだけツナさんに隠れると、見かねたリボーンさんが獄寺くんに向かって一言言葉を放った。
「獄寺、なまえもファミリーなんだぞ、ちゃんとなまえにもあいさつしろ」
「え!?」
ご、獄寺くんとハモっちゃった。
「…リボーンさんがそう言うなら」
そう言って、獄寺くんはくるりとこっちを向いて思いっきり睨んでくる。
「おはよーごぜーます」
「お、おはよーございます」
私を睨みながら獄寺くんはゆっくりとツナさんの隣を歩き始めた。
私はその反対側のツナさんの隣を歩くことにした。
「10代目!今日は体育でバレーやりますよ!今日も一緒にチーム組んで敵チームのやつらボッコボコにしちゃいましょう!」
「え!?そっそれはヤバイんじゃ」
「ツナ、足引っ張んなよ」
「う、うるさいぞ!リボーン!」
「なまえ、お前も今日からこいつらのチームとしてバレーやるんだぞ」
「……」
「なまえ?」
ぼーっとしていたら目の前にツナさんの顔がいきなり見えてハッと我に返った。
「す、すみません!ぼーっとしてました!」
急いで頭を下げると、リボーンさんが私の肩に乗って顔を覗いてくる。
「考えごとか?」
「いえ、あの…」
スクアーロのことが心配だなんて言ったらヴァリアーだってバレちゃうよね。
「おいてめえ、勝手な私情で10代目やリボーンさんを困らせんじゃねーよ」
さっきから睨みながら話を聞いていた獄寺くんが私を見下ろしながら言う。
「ご、ごめんなさ、」
「いってー!!」
気まずくて視線を下に向けると、いきなり目の前に立っている獄寺くんの悲鳴が聞こえてきた。
すぐに顔を上げると頭を抑えて必死に痛みを堪えている獄寺くんが見える。
「ご、獄寺くん大丈夫!?」
「空から落ちてきたな、この石」
視線を変えると、かなり大きい石が獄寺くんの隣に転がっているのが分かる。
空から降ってきた石が獄寺くんの頭を直撃したんだな。
「くっそ!一体誰だよ!」
「気配がねーな、たぶんプロの仕業だぞ」
「プロ!?プロって何のプロだよ!?」
「決まってんだろ、殺し屋だ」
「殺し屋!?」
リボーンさんの言葉に、私とツナさんと獄寺くんは心底驚いた。
「まさか!10代目の命を狙って!?」
「ありえなくないな」
「えー!?」
リボーンさんの言葉に声を上げるツナさん。
ツナさんの命を狙ってる殺し屋。もしここでツナさんが死んだら私達の計画も遊園地も無くなっちゃうってこと!?それは絶対イヤだ!
「正体がわからねー以上こっちからは何もできねーからな、おまえら一瞬でも気抜くんじゃねーぞ」
「はい!」
「ツナ、ここで殺されたらただじゃおかねーからな」
「そ、そんなこと言われても!」
あたふたしているツナさんにリボーンさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
スクアーロのことをいつまでも考えててもしょうがない。とにかくツナさんが殺されないようにちゃんと見張っとかないと。
そこから私はスクアーロのことを考えるのをやめた。
あっという間に体育の時間。バレーは男女混合でやるらしく、私のチームは私とツナさんと獄寺くんと山本くんと京子ちゃんと花ちゃんに決まった。
くじで最初に決まった私達はすぐさまコート内に入った。
「なまえちゃん!」
突然背後から呼びかけられ、振り返ると京子ちゃんと花ちゃんが私を見ていた。
「何ですか?」
「せっかく同じチームになったからこれから仲良くしよーね!」
「よろしく、なまえ」
これは、まさしく友達になるってこと!?
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「うん!よろしくねなまえちゃん!」
やったあ!初めて女の子の友達ができた!
友達ができた感動に浸っていると、京子ちゃんのなまえちゃん危ない!と言う声が聞こえ、振り返ると私の顔にバレーボールが思いっきり直撃した。
「いたー!」
「ちょ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です」
フラフラになっている私にみんなが集まってくる中、今度は敵チームのひとりが悲鳴を上げた。
「いってー!」
「どうした!?」
「いきなり上からこの石が落ちてきたんだよ!」
「はあ!?石!?」
見ると、獄寺くんの頭に落ちてきた石と同じくらいの大きさの石が転がっている。え、なんでツナさんじゃなくて関係ない人に石が?
首を傾げながら獄寺くんを見ると、獄寺くんも首をかしげていた。
「なまえ、大丈夫か?」
「は、はい!もう大丈夫ですよ!」
目の前に立っている山本くんは心配そうに私を見ている。
「山本くん!心配しなくてもだいぶ痛くなくなってきましたから大丈夫ですよ!」
「ハハッ!そんならよかった、あ、さっき石当たったやつ、なまえにボールぶつけたやつみたいだぜ」
「え、そうなんですか?」
山本くんは軽く頷いた。
「あとオレのことは呼び捨てでいいぜ、くん付けで呼ばれると変な感じがするからよ」
「え、いいんですか?」
「おう」
山本くんはニッコリ笑って自分の定位置に戻って行く。
山本、ほんといい人だな。
顔面にボール当たったり、いきなり石が降ってきたりで今日は大変だけど。友達がたくさんできたから、まあ、いっか!
私は鼻を抑えながらバレーに取り組んだ。
「なまえちゃん、委員会のことなんだけど」
放課後、京子ちゃんが私に紙を持って質問をしてきた。
「委員会?」
「うん、その、風紀委員しか選べるとこ無かったから先生が勝手になまえちゃんを風紀委員にしちゃったんだけど、ごめんね…」
なぜか物凄く申し訳なさそうに話す京子ちゃんにニッコリ笑って答えた。
「謝らなくていいですよ?私、風紀委員イヤじゃないですから」
「え!?ほ、ほんと!?」
「は、はい」
京子ちゃんは驚きながら職員室に紙出してくるねと言って教室から出ていった。
風紀委員人気ないのかな?
私が首を傾げていると校内放送が鳴った。
『2年A組、名字なまえ、至急応接室に来て下さい』
この放送が終わった瞬間、一斉に教室に居た生徒達の視線が私に集中した。
私を見てこそこそ話はじめる生徒達を不思議に思いながら席を立つと、ツナさんが駆け寄ってきた。
「なまえ!応接室には行かないほうがいいよ!」
「え、何でですか?」
「応接室には雲、」
「10代目ー!こんなやつほっといてさっさと帰りましょう!」
いきなり現れた獄寺くんは、ニコニコしながらツナさんの腕を引っ張っている。
「で、でも獄寺くん、」
「心配は無用です!石野郎からは命に変えてもオレがお守り致しますので!」
そうじゃなくて!というツナさんをなだめながら、獄寺くんは私に向き直って乱暴に頭を撫でてくる。
「わ!な、何ですか!?」
「まー頑張れよ下っ端!」
獄寺くんはずっとニコニコしながらまだ何か言いたそうにしているツナさんを引っ張っていってしまった。気がつくと、教室内には誰一人居なくなっている。
一体、なんなんだろ。
ゆっくりとうろ覚えな校内を歩いて応接室に向かう。応接室に近づくにつれ、人の気配が無くなっていくのを感じた。なんか、イヤな予感がする。もし危なくなったら、どうしよう、なんか緊張してきた。
ついに応接室の前まで来た私は深呼吸をして、扉をノックした。
「入って」
中から聞こえた声は確かに男の声だ。恐る恐る扉を開いて中に入る。
「やあ、風紀委員に入りたいんだって?」
ゆっくりと顔を上げると、ソファに腰掛けてこっちを見ている学ランの男の人がいた。
ん?どっかで見たことあるような、あっ!昨日公園で血まみれになってた人だ!
「人の話聞いてる?」
「は、はい!」
「じゃ、答えてよ」
「う、そっその」
まさか昨日の今日でまた再会するなんて。というかなんでこんな怖い人が風紀委員長、だよね、たぶん。でもここで断ったらなんか言われるかな、殺される?
「3秒以内に答えないと咬み殺す」
「え!?」
こんな難問をたった3秒で答えろと!?そんな無茶な!と思っていると、目の前の彼はトンファーを取り出し見せ付けるようにビュンビュンと振り回し始めた。
ど、どうしよう!やっぱり入らなきゃダメ!?
ていうかボス!私任務遂行の前に彼に殺されちゃうかもですよ!
「3秒過ぎたね、咬み殺す」
そう言って彼はトンファーを構える。戦闘技術の無い私は足がすくんで動けない。
無残にもトンファーが振り下ろされた。瞬間的に私はぎゅっと目をつぶる。
ボスー!本気であなたを恨みますよ!
凄まじい破壊音、それにしてもなぜか痛みがない、それじゃあ今の凄い音は一体。ゆっくりと重い瞼を開くと、彼と私の間に大きな石がめり込んでいた。
この石、獄寺くんの時と体育の時と同じ大きさ。え、なんで?この殺し屋の狙いはツナさんじゃないの?
ますます混乱していると、目の前の彼が周りを見渡してから私に向き直った。
「この石を投げた犯人は君を咬み殺したあとに殺そう」
「え!?」
あたふたしている内に彼は瞬時にトンファーを掲げた。
「ちゃおっス、雲雀」
「リ、リボーンさん!?」
今度こそ殺されると覚悟を決めた瞬間、私の前にリボーンさんが現れ彼は動きを止めた。
「やあ、会えて嬉しいよ赤ん坊」
「雲雀、こいつは風紀委員に入るから心配すんな」
「え!?ちょっと待って下さ、」
言葉が終わらない内にリボーンさんは私の口に手のひらを押し当てた。
「…ふうん、それならこの資料に目通しておいてね、今後の活動内容だから」
彼はすぐにトンファーをしまい扉を開けて再度、私の方に顔を向ける。
「今度ふざけたことしたら、咬み殺す」
無表情でそれだけ言うと、彼は応接室から出て行った。
「なまえどうだ?ボンゴレファミリーの雲雀恭弥は」
「そりゃ怖かったですよ!もう絶対死んだと思っ、え?ボンゴレ?」
「さっきのやつもオレ達の仲間だぞ」
「えー!?」
あんな怖い人もボンゴレなの!?獄寺くんに続いてあんな怖い人もボンゴレに居るなんて。
私はガックリとその場に崩れ落ちた。
だから私は知らない。
その時、リボーンさんが床にめり込んでいる石を見ていたことを。
「ただいまー」
「おかえりなまえ」
アジトに着くと一番にマーモンが出迎えてくれた。
「はあー」
「なまえかなり疲れてるみたいだね、大丈夫?」
「大丈夫ですよー」
「そうは見えないけどな」
マーモンの言葉を軽く聞きながら、自分の部屋に向かおうと階段を昇るとマーモンが私を呼び止めた。
「なまえ、スクアーロもついさっき帰ってきたよ」
「え?そうなんですかって!ほんとですか!?」
「うん、なんか怒ってるよーな疲れてるよーな微妙な顔してた」
「ありがとマーモン!」
お礼を言ってダッシュでスクアーロの部屋に向かった。
「あ、ベル!スクアーロ見ませんでしたか!?」
スクアーロの部屋に向かう途中、ベルの姿を見つけた私はスクアーロの居所を聞いた。
「ああ、あいつならさっき自室に入ってったぜ」
「わかりました!」
猛ダッシュでベルを横切り、スクアーロの扉をノックする。
「何だあ?って、なまえ!?」
ドアを開けて私を見下ろすスクアーロは驚いたのか目を見開いていた。
「スクアーロ、あ、あの、どこ行ってたんですか?」
さっきまでの勢いはどうしたのかと自分で思うほど、本人を目の前にしたらいつものように声がどもってしまった。
「ど、どこでもいいだろぉ」
「そうですけど、任務もないのに、朝食に来てなかったので」
だんだんと声が小さくなっていくのが自分でも分かる。
スクアーロ怒るかな、やっぱり怒るよね。絶対余計な詮索するなって言われるよ、怖い、やっぱり言わないほうよかったかな。
頭で試行錯誤しながらさっきから何の反応もないスクアーロを不審に思い、少しだけ顔を上げてみた。
「……」
スクアーロは固まっていた。私を見て驚いているみたいに。
「あの、スクアーロ?」
心配になって声を掛けるとスクアーロはハッと我に返り、とたんに視線を私から外した。
「お、お前、オレのこと心配してたのかぁ?」
なぜだか顔が赤くなりだすスクアーロに疑問を抱きながら、私は頷いた。
「そ、そうかよ」
そう言ったスクアーロの顔は一層真っ赤になった。なんて言っていいのか分からず無言でいると、スクアーロはおずおずと私に手を伸ばしてきた、その時。
スクアーロの服の裾から、今日何度も見た石が転がってきた。
「え?スクアーロ、これって」
「ち、違うぞぉ!」
真っ赤な顔をしながらスクアーロはすぐさま床に落ちた石を拾い上げ、瞬時に自室のドアを開ける。
「ちょ、スクアー、」
「ち、違う違う!この石はたまたま見つけただけで今日一日中お前をつけてたわけじゃないからなぁ!」
スクアーロはしまったという顔をして顔を真っ赤にしながら、勢いよく自室に入って行ってしまった。
ひとり廊下に残された私はさっきのスクアーロの言った言葉の意味が分からず、首を傾げていた。
結局なんでスクアーロがあの石持ってたんだろう。
私は入手した情報をボスに教えるため、ボスの自室へと足を急がせた。