「最近スクアーロがそっけないんです」
「なんで?」
「それは分からないんですが、先日私に傘を届けにきてくれたときからずっとそうなんです…」
「へえ」

ベルと2人で買い物ついでに寄ったレストランで、私は疑問に思っていたことをベルに話した。
それを聞いたベルはいつもと変わらない表情のままジュースを飲んでいる。

「私、知らない間にスクアーロに何かしたんでしょうか」
「身に覚えあんの?」
「ない、です、たぶん」
「じゃあさ、スクアーロが傘渡しに行ったとき、なまえいつもと違うことしてた?」
「え?」
「例えば、誰かと一緒にいたとか」

ベルの言葉に私はすかさず山本と一緒でしたと言った。それを聞いたベルは分からないとでも言うように首を傾げる。私はクラスの友達ですとベルに教えた。

「その山本ってのはボンゴレに入ってんの?」
「リボーンさんの話では山本もボンゴレに入ってます」
「どんなやつ?」
「えっと、凄く優しくてクラスの人気者で、野球もうまくて友達思いで、いつも優しい笑顔を見せてくれるとてもいい人です」
「ふーん」

ベルは興味があるのかないのか、ずっとジュースを飲み続けている。
ベルに山本のことを話しているとふいに山本の顔が思い浮かび、少しだけ頬を緩ませた。
今は休日だから山本は部活で忙しいよね、見に行きたいな、何か差し入れ作りたい、それで頑張ってっていっぱい応援して、それで。

「なあ」

ふいにベルに呼ばれ私は急いでベルに視線を向けた。酷く動揺した私を見てベルは面白そうにニヤリと笑い、私を見つめる。

「なまえって、その山本ってやつのこと好きなの?」

ベルの言葉を聞いて、私の頭の中は真っ白になった。それと同時にぼっと顔が熱くなる。
え、待って、私が山本を?私、私は山本を好き?
笑った彼を思い浮かべ私の顔は再び真っ赤に染まる。やっぱりそうなのだろうか、山本のことを考えただけでこんなにドキドキする、私は、山本が。

目の前でニヤニヤ笑い続けているベルと目を合わせないように窓の外に視線を送る。その瞬間、私は無意識に立ち上がっていた。そしてそのまま驚くベルの服を引っ張り外へ出る。
私の目に映ったのはまぎれも無く、今まさに話題に出ていたあの人。
彼の隣には、可愛い女の子が居た。

「おい、どうしたんだよ」

ベルの声に耳も貸さず、2人肩を並べて仲良く笑い合いながら歩く山本と女の子をじっと見つめる。2人は私に気付いていなかった。山本の隣にいる女の子に見覚えは無い。
もしかして、あの女の子は。

「ねえ、山本ってあの女と歩いてるやつ?」

ベルの問いに私は小さく頷く。2人を映した視線はそのままで、唖然と立ち尽くし何も考えられなくなった私を見て、ベルはぼそりと呟いた。

「付き合ってんのかもね、あの2人」

ガツンと鈍器で殴られたように強い衝撃が体中を駆け巡る。動けない、一歩も足が動かない。
ベルに腕を引かれながら、小さくなっていく2人の姿から私はずっと目が離せなかった。

「なまえは一体どうしたんだい?夕飯食べたあとからずっと部屋にこもりっきりじゃないか」
「そうねえ、スクアーロもぼーっとしててなんだか変だし、ねえ、ベルちゃん何か知らない?」
「さあ」
「レヴィは?」
「知らんな」
「ボスは、知らないわよねえ」
「かっ消すぞ」

なまえとスクアーロの異変にみんなは口々にため息を漏らしていた。
ベルは何かを考えた後、ゆっくりとその場をあとにし、なまえの部屋へと向かった。

「なまえ」

コンコンとノックをしてみたが返事は無い。ドアには鍵がかかっていてベルは面倒くさそうに頭をかきながら、部屋の中に居るであろうなまえに声を投げかけた。

「あんなやつのどこがいいかぜんっぜん理解できねーけど、そんな気になんなら明日学校行ったとき直接そいつに聞きゃあいいじゃん、勘違いっつーこともありえんだぜ」

ベルの声に部屋の中から反応が返ってくることはなかった。ベルは静かな空間を隔てるドアに手を添え、何かを言おうとしたがその言葉を飲み込み口にしようとしなかった。じっとドアを見つめたあと、ベルはなまえの部屋の前から去っていった。
部屋の中でなまえは、今日見たあの2人のことばかりを考えていた。

「なまえ」

翌日の学校で風紀委員の仕事を応接室でしていると、雲雀さんが不機嫌そうに私を呼んだ。私はハッと我に返りすぐさま雲雀さんに顔を向ける。雲雀さんは怪訝そうに私を見ていた。

「さっきからうるさいんだけど」
「え、なにがですか?」
「君のため息だよ、それは風紀の仕事に対する不満かい?」
「ち、違います!すみません…」
「そんなに退屈ならもう帰っていいよ、今の君はいらない」

明らかに不機嫌にさせてしまった雲雀さんに対し、私は何度も何度も謝った。それでも雲雀さんは絶対に許そうとはしてくれない。どうしよう、雲雀さんを怒らせた。

「すみません雲雀さん、次からはちゃんと集中して仕事します!だから、」
「聞こえなかったの」

雲雀さんの言葉に疑問を感じ下げていた顔を上げた。その瞬間、私の顔の横を勢いよく何かが通った。
冷や汗がつたる視線の先には怒りに満ちた目をした雲雀さんが。雲雀さんが投げたであろうトンファーは痛々しい音をたてて床に落ちた。

「今の君はいらないと言ったはずだ、さっさと消えろ」

2人きりの応接室に雲雀さんの低い声が酷く響いた。恐怖で塗り替えられたこの空間、気付いたら私は応接室から逃げ出していた。
なんてことをしてしまったんだろう、私の失礼な行動のせいで雲雀さんを怒らせてしまった。

昨日のあの2人の顔が頭から離れない、このままだとまた同じことを繰り返す。どうしよう、どうすれば、雲雀さんに謝りたい。ごめんなさいまだ風紀委員やりたいですって、それで。
山本にも、ちゃんと聞きたい。
涙が溢れそうになるのを耐えながら私は必死に走り続けた。心の中で雲雀さんに謝りながらも私が目指す目的地へ。
昨日、ドアの向こう側でベルが言っていた言葉を思い出す。そうだ、とにかく聞いてみないと、見たことだけを信じちゃダメだ。でももし、もしやっぱりあの人と山本が付き合っていたら、そのときは。

「山本!!」

グラウンドで部活をしている山本に向かって大きく声を荒げた。ほかの部員はそれに驚いたのか私に視線を向けてくる。私の声が聞こえたのか、山本は監督に断りこっちに駆け寄ってきてくれた。

「どうしたなまえ?」
「あの、部活中ごめんなさい、その」
「ハハッ、息乱れてんぞ、走ってきたのか?」

柔らかく笑い私を見る山本。その表情だけで凄く安心できた。
大丈夫、大丈夫。私はゆっくりと息を整え背の高い山本を見上げた。

「山本、」
「ん?」
「昨日、見ちゃったんですけど、あの、お、女の子と歩いていましたよね?」
「ああ、歩いてたぜ」
「か、彼女さんですか」
「まさか、ただのイトコだよ」

一緒に買い物してただけだと言った山本に何度も何度も聞き返した。そんな私を笑ってなだめる山本。
よかった、ほんとによかった。一気にほっとした私に、山本は笑顔を浮かべたまま優しく言った。

「オレ、今は野球だけだからさ、好きなやつも彼女とかもつくらねえことにしてんだ」

そろそろ戻らねえとと言って、私に手を振りながら部活に戻っていく山本に、私は声をかけることができなかった。ただただ山本の言葉だけが頭でリピートされていて。
さっきまでの安堵感は綺麗に消え去っていた。今の山本の言葉に酷く動揺している。
自分でも分かる。さっきの一言だけで、私は山本にとって今までどんな存在だったのか完全に思い知らされた。
山本が野球をしている姿が目に映る。最初は鮮明に映っていた彼の姿がだんだんと歪み、夕日に照らされて彼が笑顔を見せた瞬間、何かが切れたように目から水滴がこぼれ落ちた。
ぽろぽろと流れて止まらない、ガラガラと何かが剥がれ落ちていく。それでも彼は私の好きな笑顔で野球をしていた。

私はこんなに山本が好きだったんだ。なにが悲しいのかよく分からない、でも悲しいのと同じくらい、野球が大好きな山本が私は好きで。
止まらない涙を隠しながら、私はグラウンドに背を向け帰って行った。


「スクアーロ」

ベルの言葉が聞こえていないのか、ソファに座り放心しているスクアーロに、ベルは舌打ちをしながら思いっきり蹴りを食らわせた。

「な、なにすんだてめえ!!」
「うっせーな、呼んでも気付かねえてめえがわりーんだろ」
「ああ!?オレに何か用かよ!」
「なまえが心配してるみたいだぜ、お前のこと」

ベルの出したなまえという言葉にスクアーロは反応した。
ベルは無表情のまま険しい顔つきになったスクアーロに目を向ける。

「お前がなんかなまえに対して素っ気ねえから、なまえが自分が何かしたのかって悩んでんの、わかる?」
「…そうかぁ」
「は?なに、マジでなまえがお前に何かしたのかよ」
「んなわけねえだろ」
「だよな、ありえねえし。ならなんでそんなヘタれてんの、訳わかんねえ上にうぜえし、どうでもいいようなこと無い頭で考えてんじゃねーよ、気持ちわりー」
「んな、てっめえ!」

ベルの言葉に一瞬顔を赤くし、スクアーロは立ち上がってベルを見下ろす。
ベルはスクアーロを見上げながら変わらない口調で言葉を続けた。

「そんなんだから、いつまでたっても手にいれらんねえんだよ」
「なんの話だあ」
「しらばっくれんじゃねえ、てめえのそういう無駄に引き腰姿勢なのが見ててマジむかつくんだよ、だから関係ねえガキが横入りすんじゃねえか」
「…どういう意味だ」
「なまえに好きなやつが出来た、しかもボンゴレのやつ」

スクアーロの表情が明らかに変わった。少しだけ見開かれたスクアーロの瞳は、驚愕を表していることに違いはなかった。

「どうすんだよ、このままじゃとられんじゃね」
「…オレには関係ねえ」
「は、よくそんなこと言えんね、毎日毎日あいつのこと見てるくせして、度胸もねえクソ野郎が」
「関係ねえって言ってんだろ」
「ふざけんじゃねえ、てめえがそんなんならあいつはオレがもらう、いいんだな」
「…うるせえ、消えろ」

スクアーロの言葉にベルの表情がぴくりと反応した。スクアーロはベルを見ず、そのまま広間をあとにする。誰もいなくなったこの空間で、ベルは思いっきりテーブルを蹴りあげた。

ふざけんな。オレなんかがなまえを手に入れられるわけがないと知ってやがるあいつは、オレの言葉すら本気にしていない。なまえがオレ達ヴァリアーの中で、誰かひとりをそんな目で見たことなんて一度もないからだ。
それはあいつも同じ事。だからほんとは焦ってる。オレが言った言葉にあいつは反応した。
それでもあいつはなまえから目を背けようとしてやがる。自分の気持ちを明かして今の関係が壊れるのを恐れて。
気に食わない、オレはあいつが大嫌いだ。

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