どうしよう。
どうしよう、どうしよう。

「おはよ、なまえ」
「なまえちゃんおはよっ!」
「おはようございます、花ちゃん、京子ちゃん」

私の声に元気が無いことに気付いた2人は、少しだけ眉を潜めながら口を開いた。

「ちょっとなまえ、なんか元気ないわね、今日参観日なんだからテンション上げなさいよ」
「なまえちゃん具合悪いの?」

心配そうに私を見る花ちゃんと京子ちゃん。
私は2人に心配させまいと急いで笑顔を作り上げた。

「大丈夫ですよ、せっかくの参観日だから今日の授業はいつもより張り切ってやりましょうね!」

私がニッコリ笑って言うと2人は安心したのか、優しい表情でうんと言ってくれた。それと同時にガラッと教室のドアが開く音がする。
ドアの方に視線を向けるとそこにはツナさん、山本、獄寺くんの3人が居た。

「お、おはよー!京子ちゃん!」
「おはよう、ツナくん!」
「沢田ー、一応私となまえも居るんだけど?」
「あっ!ご、ごめん」
「ほんとあんたは京子大好きよねー」
「わー!ちょ、ちょっとー!!」

花ちゃんの言葉に顔を真っ赤に染めながらツナさんは必死に弁解をしていた。
そんな微笑ましい光景を見ていたら、肩に軽い違和感を感じる。
ゆっくり後ろを振り返ると、私の肩に片腕を乗せた山本が立っていた。

「よっ!なまえ」
「お、おはようございます、山本!」
「ハハッ、今日は参観日だよな?まあ気楽に頑張ろうぜ」
「は、はい」

山本の温かい腕の感触に高鳴る鼓動は、山本が言った『参観日』という言葉でさらに大きく跳ね上がった。
少しだけ俯く私に、山本はいつものように優しい口調で声をかけてくる。

「なまえ、なんか元気ねーな」
「そ、その、初めての参観日で少し緊張してて」
「だーいじょうぶだって!来る親だって少ないしよ、オレの親父も今日はこれねえらしいんだ」
「ほ、ほんとですか?」
「ああ、だから気楽に行こうぜ、な?」

山本は、優しい笑顔で私の頭を優しく撫でてくれた。

「あ、ありがと、山本」
「気にすんなよ」

山本のその笑顔と言葉に私は涙が出そうになった。
きっと、山本は察してくれたのだろう。
私に親はいない。だから参観日は私にとって一番イヤな行事の中のひとつだった。
参観日の要項の紙はヴァリアーのみんなに迷惑をかけないよう、自室に置いている。
山本の一言は、今の私にとって本当に嬉しいものだった。

「ホームルーム始めるぞー、席着けー」

教室内に響く担任の声で、私達はそれぞれの席に移動する。
私の肩から山本の腕が離れる瞬間、山本はぽんぽんと優しく私の肩を叩いてくれた。
席に着いた私は、少し遠い山本の大きな背中を見つめていた。少しだけ視線を変えると、獄寺くんと目が合った。
すぐに獄寺くんは私から顔を背ける。そういえば、獄寺くんに挨拶してないな。
そんなことを思いながら、無意識に私は山本の背中へと視線を変えた。

「いっぱい来てるね」
「は、はい」

一時間目の国語の授業、早くも教室内に保護者が集まってきていた。
私とツナさんは隣同士で一番後ろの席だったため、すぐ背後に保護者が居る形となっている。やっぱりこういう行事には親もたくさん来るんだな。
私はツナさんに気付かれないように小さくため息を漏らし、それと同時に国語の先生が教室に入ってきて授業が開始された。
隣のツナさんは後ろを何度も振り返ってお母さんのことを気にしてる。
少しだけ振り返ると優しそうな表情のツナさんのお母さんと、この前公園で一度だけ会ったランボくんが居た。

「あれ?ランボくんだ、ツナさん弟くんもきたんですね」
「お、弟?」
「あ、ランボくんの隣に居る子は誰ですか?ツナさんの妹さん?」
「イーピンだよ、あとランボもイーピンもオレの兄妹じゃないからね?」
「嘘言わないで下さいよ、この前リボーンさんに言ったらそーだぞって言ってましたよ」
「それリボーンが嘘ついてんだって!ほんとにあいつらはオレの兄妹じゃな、」
「沢田ー、参観日だからって張りきってるな、よし!じゃあ特別にこの問題を解かせてやろう!」

大声を出したツナさんに国語の教師がニコニコしながら声をかけてきた。
ツナさんは心底イヤそうに慌てて立ち上がる。
ツナさん!頑張って下さい!お母さんにいいところを見せるチャンスですよと小さく呟くと、ツナさんは顔を真っ赤にして私に向かってしーっ!と指を一本口の前に立てている。

「沢田ー、早く答えろー」
「え、えっと」

あたふたするツナさんが何度も教科書を見直している時、ふいにガラッと教室のドアが開いた。
保護者の人かなと思い軽く視線をドアの方に向ける。それと同時に私は大きく目を見開いた。
ずらずらと3人のスーツ姿の男達が見計らったように、私のほうへと歩み寄ってくる。
その3人は私の背後へと移動してきた。

「……」

声が、出ない。どうしよう。

「なまえ」

背後から小さな呟きが聞こえ、私はツナさんにバレないようにちらりと背後に視線を向ける。
声をかけてきてくれたベルが白い歯を出して、ニッコリと笑ってくれた。

「うしし、頑張れよ」

私は声を出さずにコクンと頷いた。
どうしよう、すごい嬉しい。
ヴァリアーと私の関係はツナさん達にはバレてはいけない、特にスクアーロとベルは骸さんの事件の時、一度彼らと接触してしまっている。

今日は幸い、リボーンさんが学校に来ていない。スクアーロとボスは念のためにか、サングラスをして少し怖いけど。
今日のことは何も皆に話してないはずなのに、仕事で忙しいはずなのに、こうやって学校に来てくれた。
少しだけ涙ぐんできた目を擦りながら、やっとで答え終わったツナさんが椅子に座るのが分かり、私は再び前に視線を向け直した。

「よーし、それじゃこの漢字を、名字。読んでみろ」
「は、はい!」

いきなり当てられた!これはやっぱり、みんなにいいところ見せなきゃね!
どくどく鳴る心臓を必死に抑えながら、私はゆっくりと立ち上がる。隣のツナさんが頑張れと小声で言ってくれた。

「…チッ」

ん?なんか舌打ちが聞こえたような。
ツナさんにも舌打ちが聞こえたのか、私と一緒に舌打ちが聞こえてきた背後へと顔を向ける。
そこには、すぐ後ろでツナさんを睨んでいるボスの姿があった。

「てめえごときに10代目の座はやらねえ」
「え、え?」
「う゛お゛ぉい、ボスさんよぉ、ここで暴れるんじゃねえぞぉ」
「うっせえ」
「だーからボスは連れてきたくねえって言ったじゃん、ボスそろそろ大事な会議の時間じゃねー?」
「チッ」

ベルの言葉にボスは舌打ちをし、最後にぎろりとツナさんを睨み上げてから出て行った。

「な、なんだあの人、怖すぎ…」

本気で怖がるツナさんに私は苦笑いを浮かべ、先生にせがまれ慌てて前に向き直った。

「早く答えろー」
「え、えと…」

どうしよう、わからない。
まだあまり漢字が得意じゃない私にとって、この問題は難問中の難問だった。

「え、えーと、」
「ぶどうだよ!ぶ・ど・う!」

私の言葉を遮り大きな声を出してきたのは、ツナさんの弟くんのランボくん。
ランボくんは笑顔のまま、私の肩によじ登ってきた。

「なまえ、あれぶどうって読むんだよ!」
「ほ、ほんとですか?」
「ちょ、ランボ!デタラメ教えるなって!つーか降りろ!」
「ヤダー、ツナのウンコー」
「んなっ!?」

ランボくんの言葉に固まるツナさん。一瞬にして教室内に大爆笑を巻き起こした。

「ぶ・ど・う!ぶ・ど・う!」
「ランボくん、ぶどうが好きなの?」
「だーいすき!」

ランボくんは嬉しそうに私の頬に顔をすり寄せてくる。可愛いな。

「うしし、何こいつ、マジウゼー」

突然聞こえたベルの声、それと同時にランボくんが私の肩から姿を消した。
振り返ると、ランボくんの髪を持ってブラブラさせているベルの姿が。

「ガキのくせに目立ちすぎなんだよね、ガキはガキらしくバカみてえに鼻たれてりゃいいんだよ」
「グピャ!」
「ダメですって!」
「…う゛お゛ぉい、そろそろ任務の時間じゃねえのかぁ?」

スクアーロの言葉にベルは心底不機嫌な顔をして、ランボくんを床に叩きつけながら教室をあとにした。

「うわーん!なまえー!!」
「ランボくん、ご、ごめんね」

泣きじゃくるランボくんはすぐさま私に抱き着いてきた。
なんだか異様な雰囲気に包まれた教室で、先生は一度咳払いをして強制的に授業を再開させる。

「名字、そろそろ答えてみろ」
「あ、えと、わかりません…」

苦笑い気味に答えると先生はしょうがないなと言って、私を席に座らせてくれた。
少し顔を上げると、山本が私に手を振っているのが分かる。
私はランボくんを抱きかかえたまま、小さく手を振り返した。

「…う゛お゛ぉい」

背後からの小さな声。振り返るとひとりになってしまったスクアーロが立っていた。

「なんですか?」
「そ、その、さっきの」
「さっきの?」

私が首を傾げると、スクアーロはなんでもないと言って顔を背けてしまった。どうしたのかな。

「よーし、今日はここまで」

先生の言葉にハッとし、みんなと同じく椅子から立ち上がる。
挨拶が終わると同時に振り返ると、そこにはもうスクアーロの姿はなかった。

「なんか怖い人達来てたよね」
「うん、なんか沢田を睨みつけたり子供泣かしたりでさ、マジ怖かったよ」
「誰の保護者なんだろ」

休み時間はこの話題で持ちきりだった。やっぱり参観日にスーツ姿とサングラスはちょっと変だよね。
花ちゃんとか京子ちゃんとかにこの話題を振られたが、私はそうだねと軽く流していた。

「なんであの人オレに舌打ちしてきたんだろ、マジ怖いって…」
「ハハッ、気にすんなよツナ」
「そーっスよ!今度会ったらオレがそいつ消しますんで安心して下さい!」
「ご、獄寺くん!そんな消すだなんてことしなくてもたぶん大丈夫ですよ!」
「うっせえバカ女、話しかけんじゃねー」

私が話しかけた瞬間、物凄い形相で睨んでくる獄寺くん。機嫌悪いのかな。
私は少しだけ肩を落としながらヴァリアーのアジトへと帰って行った。
大嫌いだった授業参観、でも少しだけ、みんなのおかげで好きになれた気がした。

「ボスもベルも!あんなことしちゃダメですよ!」
「うるせえよ」
「だってあのガキ、目障りじゃねー?」

何度言っても反省の色無しの2人に呆れながら、任務から帰ってきたスクアーロに声をかけた。

「スクアーロ、お帰りなさい」
「おう」
「そういえば、どうして今日が参観日だって分かったんですか?」

私の問いにスクアーロは、私の部屋を掃除していたルッスーリアが参観日の紙を見つけたのだと教えてくれた。
ルッスーリアにもあとでお礼言わなきゃ。

「…う゛お゛ぉい」
「なんですか?」

私が返事をすると、スクアーロは視線を泳がせながら小さく呟いた。

「その、手振ってた、野郎って」
「手、ですか?」
「お、おう」

なぜだか困惑気味のスクアーロに疑問を抱きながら今日の参観日を振り返る。
手を振っていた人、もしかして山本のことかな。

「山本がどうかしましたか?」
「や、山本?」
「は、はい」
「…何でもねえ、その、お前の、頑張ってるとこ見れてよかったぜえ」

なんとも言いにくそうに真っ赤な顔して恥ずかしそうに俯く彼に、私は笑顔を向けた。

「今日はありがとうございました!」

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