バレンタインのあの日から、なぜか私の視線はあの人に釘づけ。

「なまえー、次体育だよ!」
「急いでなまえちゃん!」
「は、はい!」

バタバタと廊下を走りながら私達は体育館へ移動する。今日は体育の授業でバスケをやることになっていた。

「チームはバレーのときと同じなんでしょうか?」

私の質問に、花ちゃんはそうだよと言ってくれた。そっか、バレーのときと同じチームでバスケやるんだ。
ちらっと視線を動かすと、そこにはツナさん達と一緒に居る笑顔がとても似合う人。

「次ー!AチームとBチーム!」
「私達だ」
「頑張ろうね!なまえちゃん!」
「はい!」

私達Aチームは挨拶を交わしてそれぞれの敵をマークした。バスケはやったことはないが、見たことはある。前にベルがマーモンとバスケをやってたのを見ただけだけど。
私はかなり緊張しながらも、見様見真似で適当な人をマークしていた。

「ジャンプボール!」

先生の合図で背の高い人がふたり向かい合う。こっちのチームでは断然背の高い山本が行くことになった。どうしよう、こっちにボールが来ませんように。
次第に早くなる心臓を必死に押さえ私は顔を上げる。最悪なことに私のほうへボールが飛んできてしまった。

「なまえ!パスだよ!」
「え、え!?パス!?」

花ちゃんの言葉の意味が分からずあたふたしている私に、容赦なく敵チームがボールを奪おうと迫ってくる。
焦った私はボールを持ったまま歩いてしまった。

「トラベリング!」
「てめえ!初っ端からドジ踏んでんじゃねーよ!」
「す、すいません!」

眉を吊り上げた獄寺くんの恐ろしい形相に、私は何度も頭を下げる。
その時、私の頭を優しい大きな手が撫でてくれた。

「まあいいじゃねーか、なまえはバスケ初めてなのな」
「は、はい」
「バスケはな、ボール持ったまま歩いちゃダメなんだぜ?」
「え、そうなんですか?」
「ああ、ちゃんとドリブルしながら歩かねーとな」

そうだったんだ。ベルとマーモンはボール持って走りながら相手に投げつけてたからそれがバスケだと思ってたよ。
ん?相手に投げつけるのも違うのかな?

「次は気をつけろよ、なまえ」
「は、はい!」

ゲームが再開したと同時に山本はニッコリ笑いながら持ち場に走って行った。私は初心者だと思われたのか、私には誰ひとりとしてマークしていない。
私は必死にドリブルしているツナさんに手を振った。

「ツナさーん!私にパス下さい!」
「な、ふざけんじゃねえ!10代目ー!オレにパス下さーい!」
「なまえ!?獄寺くん!?」

獄寺くんと私の両方が手を上げているため、ツナさんは挙動不審にきょろきょろと視線を動かす。

「ツナさん私です!私にボールくれたら必ず敵を仕留めますから!」
「は!?仕留めるってなにー!?」
「10代目ー!オレです!オレにボールくれたら必ず敵をこの場から消し去ります!ついでにこの女も!」
「ええー!?それもはやバスケじゃないから!」
「獄寺くん!私は味方チームですよ!?」
「うっせえ!てめえは必ずオレがぶっ飛ばす!」

ぎろりと私を睨む獄寺くんの表情はまさしく本気そのもの。何がなんでもツナさんからボールをとらないと私が殺される…!

「トラベリングー!」
「ちょっと、ダメツナー、あんたしっかりしなさいよ」
「ご、ごめん」

怒り気味の花ちゃんに謝るツナさん、敵チームからの攻撃で試合は再開された。

「本気で行くぜ」

山本の小さな声が聞こえたかと思うと、山本はダッシュでボールを持っている敵に近づく。そしてあっさりとボールを奪い取った。

「なまえ!」

山本はフリーの私にボールを投げる。なぜか野球フォームで投げてきた山本のボールはバスケットボールにかかわらず、かなりの球速だった。
速すぎる、これって捕れるの!?
あまりのボールの速さにあたふたしていると、なぜかそれに気付いていないツナさんが私の前に立つ。

「ツナさん危ない!」
「10代目ー!!」
「え?ちょ、うわー!!」

すぐ目の前に居たツナさんにタックルしてツナさんは顔面を床に強打。私の頭に当たった剛速球は跳ね返り、獄寺くんの腹部に直撃。
一瞬にして3人は体育館の床に倒れこんだ。

「ちょ、あんた達大丈夫!?」
「わりー!オレ野球のことになるとつい本気になっちまうから」
「イヤ、これ野球じゃないし、バスケだっての」
「ハハハ、ボール持てば本気になっちまうんだって」

笑顔を浮かべる山本に頭を抱える花ちゃん。

「お、おい、山本のやつ、一瞬で3人を再起不能にさせやがった」
「ありえねえ、あいつ爽やかな笑顔の下にあんなエゲツねえもん隠し持ってやがったのか…」

敵チームまでもが私達を見て哀れむように言葉を発した。当の本人達は痛すぎて動けない。

「いったー、なまえ、いきなりタックルはひどいよー」

ツナさんはどうやらそれほど痛くなかったらしく、すぐに起き上がった。私はボールが直撃した頭を抱えながら意識が遠くなるのを感じた。

「ちょ、なまえ?大丈夫!?」

私の異変に気付いたのか、ツナさんは私の顔を覗きこむ。

「先生、なまえを保健室に、」
「オレが連れてく」

山本の声を遮った声の主は、腹部に手を当てながらよろよろと立ち上がった。

「オレがそいつ、連れてく」

意識が定まっていない中、私は獄寺くんの肩に手を回し保健室へと向かった。

しし、なまえー、バスケってのはこうやって遊ぶんだってー。
い、いた!やめて下さいベル!
なまえこれはバスケだよ、ほら、避けてよ。
マーモンまで!?痛いのでやめて下さいよ!
無理ー、バスケって最高。
ほらほら、もっと早く逃げないとなまえ死ぬよ?
そーそー、うしし、特別にオレのナイフも投げてやるよ。
いいですいいです!ちょ、まっ、ギャー!!

「やめて下さいー!!」
「さっきからうっせーんだよてめえは!少しは黙りやがれ!」
「ご、獄寺くん!?」

ハッと我に返るとそこは保健室で、ベッドに横たわる私の隣にはなぜか獄寺くんの姿があった。

「…あの、一応聞きますけど、ここって死後の世界ですか?」
「は?とうとう頭イカレちまったか」
「え、私生きてます!?」
「てめえそれ以上くだらねえこと言いやがるってんなら!」

獄寺くんがいきなりボムを出そうとしてきたので、私はすぐに謝った。
いきなり大声を出したせいか、鈍い痛みが頭をよぎる。

「い、痛いです…」
「野球バカの球くらいでいちいち痛がってんじゃねーよ」
「そういえば他のみなさんは?」
「さっきまでいたけど授業が始まるからもう教室に戻ったぜ」
「そ、そうですか」

時計を見ると、今が5時間目なのが分かる。そういえばなんで獄寺くんだけここにいるんだろう。

「獄寺くん」
「あ?」
「あの、獄寺くんは教室に行かなくていいんですか?」
「ああ!?」
「す、すいません!」

獄寺くんとの2人だけの空間はかなり居心地が悪かった。なんでこんな目に。
ちらりと視線を獄寺くんの腹部に向ける。そうだ、獄寺くんもボール当たったんだよね。

「ご、獄寺くん」
「あ?」
「その、お腹大丈夫ですか?」
「ハッ!ぜんっぜん痛くねーよ」
「そう、ですか」

さすが獄寺くん、鍛え方が違うのだろうか。さすがにそこまで聞くと絶対怒ってくるだろうから私は黙っていることにした。
無言の空間が続く。獄寺くんは保健室にも関わらず、タバコを吹かしていた。
この空間が苦しい、いっその事寝てしまおうか。そう考えた私が起こしていた上半身をベッドに戻そうとした時。
小さく獄寺くんの口が開いた。

「…よく、助けたな」

お前のおかげで10代目は無傷だ。
そう言った獄寺くんの顔は何だか真剣だった。獄寺くん本当は自分でツナさんを守りたかったのかな。

「獄寺くん、私頑張ります」
「あ?」
「これからもツナさんを守れるように」

私の言葉を聞いて、獄寺くんが一瞬反応したようだった。まっすぐ獄寺くんを見る私から、獄寺くんは目を泳がせ視線を外す。

「…てめえには無理だ」
「が、頑張りますよ!」
「オレが10代目守っからてめーは必要ねえんだよ」
「私もツナさんを守りますよ!」
「だから無理だっつの」

私が必死で言い寄ると、獄寺くんは今までとは違う柔らかい表情で返事をする。
眉間にシワを寄せていない獄寺くんをこのとき初めて見て、なんだか、獄寺くんへの大きな壁が消えた気がした。

「ただいま」
「うしし、なまえお帰り」
「ムッ、なまえ、その頭の包帯はどうしたんだい?」

出迎えてくれたベルとマーモンを見て、バスケの恐怖が蘇る。

「す、すいませんすいません!痛いのでもう投げないで下さい!」
「は?何のこと?」
「僕にもわからないな」
「て、てめえら!なまえに何してんだぁ!?頭に包帯巻いてんじゃねえかぁ!」
「出たよ、ヘタレ野郎が。オレ達がなまえに怪我負わせるとかありえなくね?」
「そうだよスクアーロ、聞き捨てならないな」
「じゃあなんでなまえは頭に包帯巻いてんだよ!」

私の頭の怪我について、この日3人は深夜まで言い争っていた。

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