冬休みも終わり、また長い学校生活が始まった。
気がつけばもう2月。

「ねえ、なまえ聞いてー」

ルッスーリアとふたりで厨房に向かって、甘い甘いお菓子を作っている。
そう、明日はバレンタインデー。

「どうしたんですか?」
「私ねえ、明日ボスに告白しようかと思ってるんだけど、どうかしら?」
「こ、告白!?」

突然のルッスーリアの爆弾発言に驚き、私は泡だて器を落としてしまった。

「もう、なまえったら!驚きすぎよ!」
「す、すみません」

前々からルッスーリアの恋の相談を受けていた私。もちろんルッスーリアの好きな人は知っていた。

「ルッスーリア勇気ありますね!私は告白なんて絶対できませんよ!」
「そーお?もう明日のこと考えるだけで顔から火が出ちゃいそうっ!」

キャアキャアふたりで盛り上がっていると、ベルが口元をニヤつかせながら厨房に入ってきた。

「ちょっと!ここは男子禁制よ!」
「うしし、ルッスーリアってボスのこと好きだったんだー」
「き、聞いてたの!?ベルちゃん!?」
「あんだけ大声で話してりゃ誰だって聞こえるっつーの」
「イヤーン!誰にも言っちゃダメよ?」
「なまえ、お前も明日のチョコ作ってんの?」
「無視!?ベルちゃん最近私に冷たいわよー!」

わんわんと泣き喚くルッスーリアを無視し、ベルは私の手元にあるたくさんのチョコに見入っていた。

「明日、みなさんに渡そうと思って」
「ボンゴレの分もあるんだ?」
「…はい」
「うしし、そんなしょげんなよ、もうあんなこと言わねえから」

ベルは私の異変に気付いたらしく、ニッコリ笑って私の頭を撫でてくる。少しだけほっとした私はベルに笑顔を向けた。

「ホラ!私達忙しいんだから!男子は出て行ってちょうだい!」
「変態はいいわけ?」
「私は心が乙女だからい・い・の・よ、チュッ!」

投げキッスをするルッスーリアから逃げるように厨房をあとにするベル。
ルッスーリアはベルが居なくなるのを確認すると、すぐに私に問いただしてきた。

「ねえねえ、なまえって好きな人いないの?」
「な、なんですか急に!」
「だってなまえ、毎日学校楽しそうだし、モテてるでしょ?」
「モテませんよ!それに好きな人もいません!」
「あら、本当にー?」
「本当です!」
「その割には顔が赤いわね」
「ルッスーリアが変なこと聞いてくるからですよ!」

顔を真っ赤に染める私にルッスーリアはニッコリと微笑む。
好きな人、なんて。
そう考えたと同時になぜだかふと山本の顔が浮かんだ。
私はまた赤くなってきただろう頬を隠しつつ、必死にチョコ作りに没頭した。

翌日。

「ルッスーリア!告白頑張って下さいね!」
「頑張るわよ!なまえも告白頑張りなさいね!」
「だ、だから私は好きな人いませんって!」

そーかしら?とまだ私をからかうルッスーリアに手を振り、私はヴァリアーのアジトをあとにした。

「おはようございます!花ちゃん!京子ちゃん!」
「おはようなまえ」
「おはよっ!なまえちゃん!」

教室に着き、真っ先に花ちゃんと京子ちゃんに挨拶を交わす。
私はカバンを漁り、ふたりに綺麗にラッピングされたチョコを手渡した。

「いつものお礼です!」
「えっ!?いいの?」
「はい!」
「わー!ありがとなまえちゃん!」
「なまえ、今日持ってきてないから明日チョコ持ってくるね」
「そんな!気を遣わなくていいですよ花ちゃん!」
「いーのいーの!私からもお礼って事でさ」

花ちゃんの言葉に感動した私は嬉しさのあまり花ちゃんに抱きついた、なんていい人達!

「なまえちゃん、私からもチョコあげるね」
「えっ!?いいんですか!?」
「うん!どーぞ!」
「ありがとうございます!」

京子ちゃんがくれたチョコ本当に美味しそう、手作りかな?たぶん手作りだよね、そういえば。

「京子ちゃん」
「なーに?」
「その、ツ、ツナさんにチョコ持ってきていますか?」

小声で恐る恐る声をかけると、京子ちゃんはニッコリ笑ってうんと言ってくれた。
よかった!絶対ツナさん喜ぶよ!

「あんた達、義理チョコばっかりばらまく気なの?」

少し呆れ気味の花ちゃんの言葉に私と京子ちゃんはポカンとした顔をする。義理チョコ?

「花ちゃん、義理チョコってなんですか?」
「えっ?なまえ知らないの?」
「はい」
「義理チョコってのは、んーと、好きじゃない人にもあげるチョコ、みたいな」
「私はみんな好きですよ?」
「えーと、お世話になってる人達にあげたりするのが義理チョコで、本当に好きで愛してる人にあげるのが本命チョコって感じかな?」
「ほ、本命チョコ?」

本命、それってルッスーリアがボスにあげるチョコのこと?じゃあ、私、義理チョコをみんなに渡してるってことになるんだ、ん?でもいつもお世話になってるし、みんな優しいし、あっ、でも獄寺くんは怖いな。うーん、わかんない。

「そ、そんなに悩まなくてもいいんだよ?あげるのは自由なんだからさ」

必死に頭を悩ませる私に気を遣い、花ちゃんはポンポンと肩を叩いてくれた。それと同時に担任が教室に入ってきて、私達は自分の席に移動する。
ちらりと、少し前に居る山本の顔を盗み見た。
本命、か。

放課後になり、私と京子ちゃんはチョコを渡そうとツナさん達の近くに歩いて行った。

「す、すごいチョコですね」
「ハハ、こんなに食いきれねーよ」

山本の机には溢れんばかりのチョコの山が。ロッカーを見るとそこにもチョコが押し込まれていた。

「山本、さっきから何回も女の子に呼び出されてるよね」
「そ、そうなんですか?」

私の問いかけに山本は少し眉を下げて笑う。山本かっこいいからモテるんだろうな。

「ツナくん!どーぞ」
「え!?京子ちゃんいいの!?」
「うん!」
「あ、ありがとー!!」

京子ちゃんからチョコを貰い心底嬉しがるツナさん、こういうのが本命チョコっていうんだよね。
ふたりのほのぼのな光景を見てのほほんとしているのも束の間、京子ちゃんは山本にもチョコを差し出していた。

「山本くんもどーぞ」
「お!サンキューな笹川!」

その光景を見て明らかにガックリと項垂れるツナさんに、悪いと謝りながら頭を掻く山本。
京子ちゃんを見ると、なにも気付いていないようでニコニコ笑っているだけだった。
京子ちゃんも義理チョコなんだ。ツナさんの片思いだと知り、私は苦笑いを浮かべた。

「10代目ー!ささ、今の内に帰りましょう!」

教室の扉をガラッと開けて登場したのは獄寺くん。

「ご、獄寺くん、もう終わったの?」
「はい!全員ボムで片付けてきました!」
「はっ!?」
「何かやってきたのですか?」

2人の会話を不思議に思い問いかけると、山本がやんわりと答えてくれた。

「獄寺、朝からずっと女子に呼ばれてたんだよなー」
「バッ、余計なこと言うんじゃねーよ!野球バカが!」

山本の言葉に私は驚き獄寺くんに視線を送る。すごいな、獄寺くんもモテるんだ。

「じゃ、またね京子ちゃん、なまえ」
「あっ!待って下さい!」

ツナさん達が教室から出て行こうとしているのに気付き、私は急いでカバンからチョコを取り出す。

「そんなに対したものではありませんが…」
「え、いいの?」
「はい!」

ツナさんは照れくさそうに笑ってありがとうと言ってくれた。

「ハハ、なまえサンキューな」
「は、はい」

ニッコリ微笑みながら私のチョコを受け取る山本。紙袋に入ったたくさんのチョコ達の中に、私のチョコも姿を消した。

「獄寺くん、これ、」
「いらねえよ」

私がチョコを差し出すと、獄寺くんは嫌そうな顔をしてそれを拒んだ。

「獄寺くん、それはちょっと酷いんじゃ、」
「10代目!騙されてはいけませんよ!こいつ絶対チョコの中に毒盛ってますって!」
「そ、それはいくらなんでもありえないんじゃ…」
「油断は禁物です!」

ど、毒って、獄寺くんはまだ私のこと怪しいと思ってるんだな。
結局、獄寺くんはチョコを受け取らずに帰って行ってしまった。

「渡せなかったね、チョコ」
「…はい」

京子ちゃんも獄寺くんにチョコを渡す予定だったらしく、仕方ないと言うように眉を下げる。
京子ちゃんはお兄さんにもチョコをあげると言ってひとりで帰って行った。
私はカバンの中を覗き込み、よし!と気合を入れた。向かうは応接室。

「失礼します」

ノックをして中に入ると、雲雀さんが机に向かっていた。

「どうしたの?今日は委員会は無ないはずだけど」
「はい、あの、コレを」

カバンから出したチョコを雲雀さんに差し出す、雲雀さんは少し驚いた表情をしてそれを見据えた。

「義理チョコ?」
「あ、いえ、その」
「義理チョコはいらない」

雲雀さんはそう言ってくるっと窓の方に体を向けた。私の方からは雲雀さんの背中しか見えなくて、表情が分からない。
やっぱり、義理チョコってイヤなんだな。
大人しくチョコをしまおうとした私の手はピタリと止まった。
雲雀さんの腕に巻かれている包帯、あれはまさしく私が傷つけたもの。

「雲雀さん…」

私は無意識に雲雀さんのそばに行き、雲雀さんの腕をじっと見つめた。

「気にしてるの?」
「……」
「もうほとんど治ってるから気にしなくていいよ」
「…ごめんなさい」

私は視線を雲雀さんの腕に向けたまま、小さく謝った。
あんなにも、深く切り裂かれた雲雀さんの腕、痛くないはずがない。

「なまえ」

ふいに名前を呼ばれ私はゆっくりと顔を上げた。雲雀さんは私を静かに見つめている。

「それ」
「…チョコですか?」
「僕にちょうだい」

雲雀さん。

「…ごめんなさい」
「なに、くれないの?」
「こんなものでいいんですか?」
「義理チョコでもいいよ、ほんとはイヤだけど」

私が返答に困っていると、雲雀さんは私の手からチョコを受け取った。

「ありがと」

そう言った雲雀さんの顔は優しかった。

「それでは、失礼しました」
「またね、なまえ」

私が応接室を出る直前まで、雲雀さんは私を見ていてくれた。

「ちゃおっス、なまえ」
「あっ!リボーンさん!」

帰り道バッタリ会ったリボーンさんに、私はすかさずチョコを3つ渡す。

「3つもくれんのか?」
「あ、えっと、あと2つはツナさんの弟さんと妹さんに」
「ツナの弟と妹?」
「はい!ランボくんとイーピンちゃん、でしたっけ?」

私の言葉を聞き、きょとんとしていたリボーンさんは納得したように不敵に口角を上げた。

「いいぞ、ツナの弟と妹に渡しといてやる」
「ありがとうございます!」
「チョコ、サンキューな」
「はい!」

リボーンさんは2つのチョコを持って、そのままツナさんの家へと向かって行った。そういえばルッスーリア告白成功したかな。
私は急いでヴァリアーのアジトへと足を急がせた。

「ただいま!」
「なまえー!」
「どうしたんですか!?ルッスーリア!」

私がアジトに入った瞬間、ルッスーリアが勢いよく泣きついてきた。

「ボスが、ボスが私のチョコを!」
「え?」

ま、まさか。
私はまだ泣き続けているルッスーリアと共に、広間へと移動する。
中に入ると無残にも、踏み潰されたチョコが床に転がっていた。

「ひどいわボスー!何も踏み潰さなくたっていいじゃない!!」
「うっせえ、消えろ」
「ひどいわー!あんまりよー!!」
「ルッスーリア…」

私に抱きつきながらわんわん泣き続けるルッスーリア。私はどうする事もできなくて、ただただルッスーリアをなだめていることしかできなかった。

「ボスったら告白した瞬間にチョコを踏み潰したのよ!?」
「気持ちわりーこと言うんじゃねえよ」
「だってだって!ボスに食べてもらいたかったのにー!」
「チッ、ウゼェ」
「イヤー!そんなこと言わないでえ!!」

なんだか夫婦喧嘩のようなこの展開に、私は口を挟むこともできずにおろおろとルッスーリアの頭を撫でている。
ぐすんぐすんと、いまだに泣き続けるルッスーリアに舌打ちをして、ボスはペシャンコになったチョコを拾い上げた。
ボスはそれを持って椅子に座る。

「ボス、食べてくれるの?」
「こんなもん食うわけねえだろうが」
「…もらってくれるの?」
「持ってるだけだ」
「もうボス最高!!大好きよボスー!!」
「寄るんじゃねえ、変態が」

本気でイヤがっているボスに構わず、ルッスーリアはボスに抱きつこうと迫っていく。なんだかんだ言ってボスは優しい。
よかったね、ルッスーリア。
私はカバンからボスのチョコを取り出し、それをボスの机に乗せ静かにその場をあとにした。

「マーモン、どうぞ」
「いいのかい?」
「はい!日頃の感謝の気持ちですので」
「ありがと、なまえ」

マーモンにチョコを渡し終え、レヴィの部屋に向かった。コンコンとノックをしても返事がない、任務中だろうか。

「レヴィなら任務でいないはずだけど」
「ベ、ベル」
「レヴィになんか用なわけ?」
「はい!チョコを渡そうと思って」
「しし、なまえも物好きだね」

ニカッと歯を見せて笑うベルはレヴィ用のチョコをまじまじと見つめている。
私はカバンからベル用のチョコを取り出した。

「ベル、どうぞ」
「なにこれ」
「バレンタインのチョコです」

私の言葉に一時停止するベル。どうしたんだろう、まさか、ベルも義理チョコ欲しくないのかな。

「あの…」

私が少しだけベルの顔を覗きこむと、ベルはハッと我に返った。

「コレ、オレにくれんの?」
「はい」
「マジで?」
「あの、無理ならいいんですよ?」
「何言ってんの?すっげー嬉しいし」

ベルはチョコを見ながら本当に嬉しそうにニコニコ笑う。

「オレ、なまえから貰えねーって思ってたから」
「なんでですか?」
「なまえってオレのこと、嫌いじゃね?」
「そんなことありませんよ!大好きです!」

私が真剣な表情でそう言うと、ベルは少しだけ頬を染めてニッコリ笑った。

「しし、それすげー嬉しいんだけど、サンキューななまえ」
「はい!」

自室に向かって歩き出すベルに私もニッコリと笑いかける。あ、そうだ、スクアーロ。
私は急いでスクアーロの部屋へと向かって行った。

「スクアーロ居ますか?」
「なんだぁ?」

スクアーロの自室を開けると、スクアーロはソファに腰かけていた。

「あの、どうぞ」

スクアーロのそばまで行きチョコを差し出す。スクアーロは驚いたように目を見開いていた。

「サ、サンキューなぁ」
「はい!」

真っ赤な顔で照れくさそうに呟くスクアーロ。私が部屋から出て行こうとすると、それをスクアーロは私の腕を掴んで阻止した。

「スクアーロ?」
「オレ以外にもチョコ渡したんだろぉ?」

スクアーロのこの言葉に私の心臓が鳴り響く。私はスクアーロと目線を合わせずにただコクンと頷いた。

「なまえらしいなぁ」

自分の耳を疑った。ゆっくりとスクアーロに視線を向けると、スクアーロは顔を真っ赤に染めていた。

「そういうお前が、オレはすっす、すき、だぜえ」
「スクアーロ…」

真っ赤な顔で、目線を泳がせながら恥ずかしそうに口を開くスクアーロ。
こんな、私を。
自然に頬が温かくなった。

「私も、スクアーロが大好きです」

私の言葉を聞いて、信じられないといった表情を浮かべるスクアーロ。私はそんな彼に優しく微笑んだ。

「ほ、本当かぁ?」
「はい!私、みんな大好きです!」
「み、みんな?」
「ヴァリアーのみんなは優しくて、みなさん本当にいい人ばかりで私はみんな大好きですよ!」
「そ、そうかぁ」

なぜだかガックリと項垂れるスクアーロ。私がどうしたのですか?と声をかけると、スクアーロはしょうがないなというような表情で私を見た。

「…そういうとこもお前らしいぞぉ」
「ありがとうございます!スクアーロ!」
「お礼言うのはオレの方だぜえ、チョコありがとな」

そんな事ありません。
私のほうこそ、みなさんにたくさんお礼を言いたいです。
ありがとう。

なまえが部屋から居なくなったあと、スクアーロはひとりため息を漏らしていた。

「はあ…」

死ぬほど緊張したってのに。

「しし、スクアーロも大好きって言われたのかよ?」
「なっ!?てめえいつからいやがった!?」
「オレもさっき大好きって言われたんだよね」
「あー、そうかよ」
「しし、スクアーロだっせえ、たぶんなまえは告白されたと思ってねーよ」
「う゛お゛ぉい!うるせえぞぉ!」

このあと、スクアーロは散々ベルに遊ばれた。

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