目を覚ますと同時に、携帯が鳴り響く。
それはリボーンさんからのメールで。

『今すぐツナん家に来い』

「ちゃおっス、なまえ」
「リボーンさん、おはようございます」

ヴァリアーのみんなに朝ごはんを作り、私は急いでツナさんの家へと走ってきた。
いつもとは違う私に気付いたのか、リボーンさんは私の手を引っ張りどこかに連れて行こうとする。

「リボーンさん、どこに行くんですか?」
「病院だぞ、獄寺と山本とビアンキの見舞いだ」

お見舞い、そうだ、みんな昨日大怪我をして。

「ツナは先行ってるからな」
「はい…」

目を伏せる私に少しだけ視線をよこし、リボーンさんと私は病院へと足を急がせた。

「なまえ!おはよう!」
「おはようございます、ツナさん」

病室に行くとすぐにツナさんが満面の笑みで挨拶をしてきてくれた。私は笑えない顔を必死に動かしやっとで笑顔を作る。
ベッドには獄寺くんと山本が居た。

「大丈夫、ですか?」

恐る恐る声をかけると、獄寺くんはぎろりと私を睨み上げる。

「てめえなんだその顔、もしかして自分のせいでオレがこうなったとか思ってんじゃねえだろーな」
「……」
「ハッ!ふざけんじゃねーよ、オレは10代目のために怪我を負ったんだ、てめえなんかのために怪我したんじゃねえんだよ!」
「ちょ、獄寺くん」

言いすぎだよ、と言って獄寺くんを止めるツナさん。
それでも睨みつけてくる獄寺くんから私は視線を外した。

「獄寺ー、お前何怒ってんだよ、なまえが落ち込んでんじゃねえか」

軽いトーンの声が響く。顔を上げるとその声の彼はニッコリ微笑み私を呼ぶ。
山本の近くに行くと、山本は大きな手で私の頭を撫でてくれた。

「なまえ、お前が無事でよかったぜ」

背中に怪我したんだってな、と言って心配してくれる山本に私は大丈夫ですと言う。
熱くなった目頭を、私は必死に抑えていた。
なんで、こんなに怪我を負ってるのに。

「ご、ごめんなさい」

振り絞ってだした言葉に、山本は優しく微笑んだ。

「なんでなまえが謝るんだよ、なまえのせいでこうなったんじゃないんだぜ?」
「で、でも」

私が捕まらなければ、こんなことにはならなかったのに。

「なまえ、気にすんじゃねーぞ」

いつの間にか山本の肩に乗っていたリボーンさんが私に声をかけてくれた。

「お前は救護担当だからな、捕まってもしょーがねーんだ」
「……」
「だから今回はオレ達がお前を守れなかったのがダメだったんだぞ」
「……」
「今回の事でこいつらも少しは強くなれたしな、お前は気にすんな」
「そうだよなまえ、すぐに助けてあげられなくてごめんね」
「ツナさん…」

違う、違います。みんなが悪いなんてそんなことありません、私が、私のせいで。

「なまえ」

ハッと我に返り私は顔を上げる。リボーンさんはいつに無く、真剣な表情をしていた。

「悔しいなら、今から強くなれ」
「…今から」
「そーだぞ、お前なら大丈夫だ」

ニッと笑うリボーンさんの言葉に、少しだけ救われた。

「ったく、なんでこんなクソ女なんかを」

まだ悪態をついている獄寺くんの前に突如ビアンキさんが現れる。

「隼人、怪我は大丈夫?」
「ギャー!!」

ビアンキさんが現れると同時に一気に気絶する獄寺くん。
その光景を不思議がっていると、ビアンキさんが私のほうに視線を向けた。

「あなたが新しく入ったボンゴレファミリー?」
「は、はい」
「そう」

ビアンキさんと話をするのはこれが初めてで、私は綺麗なビアンキさんの顔に思わず見とれてしまっていた。ほんとに美人だな、綺麗。

「どうしたの?」
「あ!いえ、何でも」

あたふたとする私の目に入ってきたのはビアンキさんの腹部の深い傷。
一瞬で呼吸ができなくなった。

「ビアンキさん、傷」
「これは骸にやられた傷よ、見た目より深くないから大丈夫」
「すみません…」

私の言葉に少しだけ眉を下げるビアンキさん。

「なまえ、これはあなたに付けられた傷じゃないわ、だから謝らないで」

そう言ったビアンキさんの目は強かった。
優しく私の頭を撫でるビアンキさんに、私はぎゅっと力強く手を握る。あ、そういえば。

「雲雀さん…」
「雲雀ならもう家に帰ったぞ」

リボーンさんの言葉が信じられなくて、私は目を見開いた。嘘だ、だってあんなに血が、私が、剣で。

「なまえ」

私の考えを遮り、ニッコリと微笑むツナさん。

「なまえが無事でよかったよ」

優しく微笑むツナさんに、私は小さく謝った。
みなさんが無事で、本当によかった。

「ただいま」
「よ、今日はいつもより早いんじゃね?」

ヴァリアーのアジトに入ると、私の事を待っていたかのようにベルが声をかけてくれた。

「どうだった?ボンゴレのやつらの具合は」

にやりと口元を緩ませ楽しそうに言葉を発するベル。
私は答えられずに視線を下に向けた。

「しし、つーかあいつら弱すぎじゃね?ザコすぎて話になんねーよ」
「よ、弱くなんかありません!」

咄嗟に出た言葉。
ベルは一瞬驚いたように口を開けていたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「なに?もしかして仲間意識とか持っちゃった?」

自室に戻ろうとする私の後ろを楽しそうについてくるベル。

「オレらよりあいつらのほうがいいとか?」
「…違います」
「でも最近お前あいつらのことばっか考えてね?」
「…考えていません」
「嘘つけ、ほんとはスパイとかやめたいって思ってるくせに」
「思ってません!」

自分でも信じられないほど大声を出した私は、ベルに背中を向けたまますぐに自室の中へと移動する。ドアを閉めようとした瞬間、凄い力でそれが止められた。
振り返るとドアを手で抑えるベルの、にやりとしたあの顔が。

「忘れんなよ、お前はスパイだ、あいつらとは偽りの仲間なんだからな」

最後に不敵な笑みを見せ、ベルはドアを閉めた。
偽りの仲間。

「わかっています…」

私は、彼等に不要な情を抱いてはいけない。あの人達は私のターゲット。私はボンゴレの機密情報を知ればいいだけ。あの人達は、仲間じゃない。
ふと、優しい笑みを浮かべるツナさんと山本の顔が浮かぶ。彼等は、私を仲間だと思ってくれているのだろうか。
優しい大きな手。すごく安心できる、柔らかい笑顔。ひとつひとつの言葉。
違う。あの人達はただのターゲット。
ぎゅうっと目をつぶり、必死に頭を振った。


「よう、なまえ」
「任務お疲れ様です、スクアーロ」

廊下で任務帰りのスクアーロとばったり出くわした私はすぐに頭を下げた。スクアーロは遠慮気味に私の背中へ視線を落とす。

「背中の傷、大丈夫かぁ」
「全然大丈夫ですよ!」

笑顔でスクアーロに答えると、スクアーロは眉を潜める。
本当はまだかなり痛む背中の傷を、知られたくなかった。

「…なまえ」
「はい」

スクアーロはいつもとは違う、暗い顔をする。

「助けてやれなくて、その、悪かったなぁ」

なんで、なんでスクアーロが謝るの?謝らなきゃいけないのは私のほうなのに。

「傷、いてえだろ」

そう言ってスクアーロは眉間にシワを寄せ、私を見下ろす。

「違います…」
「あ?」
「謝らなきゃいけないのは私のほうです」

気にすんじゃねーぞ。ふいにリボーンさんの言葉が脳裏を掠める。
目頭が熱くなった私はすぐに俯いた。

「ごめんなさい、スクアーロ」

言葉と同時にぽろりと涙が落ちた。今まで必死に我慢していたものが次々と溢れ出し、手で顔を覆う。
情けない、私は、なんでこんなに。

「う゛お゛ぉい」

明らかに、いつもとは違う弱い声。いきなり手に押し付けられてきたものに、私は目を開いた。
それは、真新しいハンカチ。

「な、泣くんじゃねえ」

少しだけ顔を上げると、スクアーロの真っ赤な顔が目に入る。
スクアーロは私と視線を合わせずに、ゆっくりと口を開いた。

「お、お前は、オレが」
「なまえ、ボスが呼んでるよ」

突然スクアーロの後ろから声が聞こえ目を向けると、そこにはちょこんとマーモンが立っていた。

「…なまえ、泣いてる?」

私が泣いてることに気付き、マーモンはすぐにスクアーロを睨みつける。

「ち、違うぞぉ!オレじゃねえ!」
「ありえないな」
「う゛お゛ぉい!どういうことだあ!」

ふたりで睨みあっている間に、私はそそくさと早足でボスの部屋へ向かった。

「ちょ、待て!」
「何か言いそびれたのかい?スクアーロ」

淡々と言葉を並べるマーモンを睨み、スクアーロはひとり肩を落としていた。

「ボス、お呼びでしょうか?」
「これを見ろ」

乱暴に渡されたのは、この前行った遊園地の入場券。

「ボス、これは…」
「今度行くぞ」

ぶっきらぼうに背中を向けたまま話を続けるボスの言葉に、少し嬉しくなった。

「ありがとうございます!ボス!」

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