制御の利かない体。それは意志を持つように、正確に雲雀さんに向かって剣を振り下ろした。
私の剣と雲雀さんのトンファーが交わる、酷く響く音、雲雀さんは反撃をせず、ただただ私の攻撃を防いでいる。その光景を心配そうに見つめるツナさん達が見えた。その反対側に居る骸さんの顔はこの上なく笑顔で、凄く、楽しそうだった。

「あ、危ない!」

私の剣が少しだけ雲雀さんの頬をかすめる。
それを見たツナさんは顔を青くしながらリボーンさんに詰め寄った。

「リボーン!このままじゃどっちも危ないって!どーにかしないと!」
「ツナが割り込んで来い」
「む、無理だよ!それは絶対無理!」
「じゃあ、あのふたりは止められねーな」
「そ、そんな」

ツナさんとリボーンさんのそんなやり取りがされていた最中も、私は雲雀さんに攻撃をし続けている。雲雀さんは無表情で、攻撃を回避していた。

「う、」

自分の意志とは無関係に動くこの体、私にはどうすることもできなかった。ただ、祈るだけ。
雲雀さん。

「……」

何を思ったのか、突然雲雀さんの動きが止まった、防御もせずに立ち尽くしている。
私が振り下ろした剣が雲雀さんの腕に食い込んだ。

「ひ、雲雀さん!」

ツナさんの声が聞こえて、それと同時に真っ赤な血が雲雀さんの腕から滴り落ちる。
それでも尚、立ち尽くす雲雀さんに私はまた剣を振り下ろした。
お願い、逃げて!
私の思いも虚しく、雲雀さんの腕に食い込む私の刃。その瞬間、雲雀さんは私の腕を抑え瞬時に私の首に手倒を仕掛けた。
意識が朦朧とし、そこで意識を手放す。床との接触を防ぐ優しい腕が私を包んだ気がした。

「なまえ!」
「大丈夫だぞ、気を失ってるだけだかんな」
「ったくこのクソ女、手間とらせやがって」

3人がなまえに駆け寄りすぐに隅へとなまえを移動させる。

「おやおや、案外女性には優しいんですねえ」

挑発するようにニヤリと口角を歪ませる骸。
雲雀はすぐにトンファーを構えた。

「咬み殺す」
「片腕だけで僕に勝てると思っているのですか?」
「遺言はそれだけかい?」
「クフフ、面白いことを言いますね」

骸はゆっくりとソファから立ち上がり、右目に死ぬ気の炎を宿らせる。

「一瞬で終わりますよ」

言い終わったと同時に骸は雲雀に攻撃を仕掛け、お互い一歩も譲らず猛攻撃が始まった。

「すっげー、速すぎてよく見えない」

ツナが関心している間も交戦は続き、なかなか決着がつかない。

「君の一瞬っていつまで?」

雲雀の挑発の言葉に骸は口角を上げ、攻撃の手を休めた。

「仕方ないですね、このままじゃ埒があきませんし効率のいい倒し方をしましょう」

そう言って骸が取り出したのは、一つの拳銃。

「んな!?」
「まさかあいつ!アレで!?」
「クフフ」

笑みを浮かべると同時に、骸はなんの躊躇もなく拳銃の引き金を引いた。

「や、やりやがった」

骸は自分の頭部を拳銃で打ち抜き、その場に倒れる。
さあ、楽しい時間の始まりです。

「う゛お゛ぉい!六道骸が自害しやがったぞぉ!」
「マジかよ、つーかもう終わりなわけ?オレら何もしてなくね?」
「ムム、なんかあっけないな」
「まだ何かありそうねえ」
「……」

ヴァリアーは下で行われている光景に疑問を感じつつ、隙を見ていた。

「骸のやつ、なんでこんなこと」
「捕まるぐらいなら死んだ方がマシってやつかもな」
「やるせないっス」

ツナと獄寺とリボーンは重苦しい雰囲気の中、さっさとこの場を離れようとビアンキとなまえの近くへと歩を進める。

「なまえ、ビアンキ大丈夫?」

ツナがふたりに手を差し伸べた瞬間、ビアンキが勢いよく剣を振り下ろしてきた。
何とか間一髪でそれを避けたツナはすぐに後ずさる。

「ビ、ビアンキ!?」
「おい!お前10代目に何してんだよ!」

睨みつける獄寺にものともせず、ビアンキは立ち上がり怪しく笑う。

「また会えましたね」
「え!?ま、まさか…」
「六道骸!?」
「そんなバカなことあるわけねーぞ」

リボーンの視線の先には確かに骸の死体が。

「クフフ、僕にはやるべきことがありましてね、地獄の底から舞い戻ってきましたよ」
「やっぱり!?」
「でもそんなことって…」
「骸、お前憑依弾を使いやがったな」

リボーンの言葉にツナと獄寺はわけがわからず眉をしかめる。

「憑依弾は禁弾のはずだぞ、どこで手に入れやがった」
「憑依弾?」
「クフフ、気付きましたか、これが特殊弾による憑依だと」

ビアンキに憑依した骸は薄く笑い、さっきから何も言わない雲雀を見据えた。

「ボンゴレ10代目に憑依する前に、まずは君の体を乗っ取りましょう」
「へえ、やってみなよ」
「強がっていられるのも今のうちですよ」

骸が憑依したビアンキは剣を構える。

「やつの剣に気をつけろ、あの剣で傷つけられると憑依を許すことになるぞ」
「な!?そんな!」
「よくご存知ですね、アルコバレーノ」

にやりと笑みを浮かべ、ビアンキは雲雀に向かって走り出した、雲雀は片腕だけのみの戦闘、しかもなまえに与えられた傷は酷く出血が激しかった。

「雲雀ヤベーかもな」
「え!?雲雀さんが!?」
「リボーンさん!ここはオレ達も加わったほうが」

獄寺が言葉を言い終わる前に、雲雀の一瞬の隙をついてビアンキは雲雀の体に剣の傷を与える。
倒れた雲雀がゆっくりと立ち上がると、それはもう雲雀ではなかった。

「ヤ、ヤバイって!雲雀さんにも憑依しちゃったよ!」
「くっ!ここはオレに任せて下さい!」

爆弾を持った獄寺がビアンキと雲雀に向かったと同時に入り口の方から何かが飛んできて、獄寺の首を締め上げる。

「ぐっ!てっめえらは」
「クフフ、君の体もお借りしますよ」
「な!あのふたりも骸に憑依されてんの!?」

骸に憑依されている犬と千種は獄寺に向かい、剣を切り付けた。
倒れた獄寺は立ち上がり、にやりと笑う。

「さあ、ボンゴレ10代目、次は君の番ですよ」

足がすくむツナを尻目に、獄寺とビアンキ、雲雀と黒曜の2人組からの猛攻撃が始まった。

「ヤ、ヤバイよリボーン!なんかないの!?」
「泣きごと言う前にさっさと避けろ」
「うお!こ、こえー!」

次々と剣が振り下ろされるこの現状、ツナにはどうすることもできなかった。
ゆっくり目を開くと、微かにツナさん達の姿が見える、ツナさん、戦ってる?
なぜだか獄寺くんと雲雀さんもツナさんとリボーンさんに攻撃しているこの不思議な光景。意識がはっきりしてきた私は、とにかく今、自分がやらなければいけないことを考えた。
ツナさんを、守らないと。

「ツナさん!」
「なっ!なまえ!来ちゃダメだー!」

ツナさんが私のほうに顔を向けた瞬間、ツナさんの背後から犬がツナさんを狙っているのが見えた。

「いっ…!」
「なまえ!!」

犬の鋭い爪は、私の背中を深く引き裂いた。
倒れた私に駆け寄るツナさんはしきりに私の名前を呼ぶ。

「なまえ!なまえ!しっかりして!」
「ツナ、さん」
「なまえ!」
「大丈夫かなまえ、こりゃ深いな」

リボーンさんが私の背中の傷に少し触れたのと同時に、突然上から勢いよく何かが落ちてきた。

「な、なんだ!?」

落ちたそれは、私達に背中を向けているもすぐに分かった。

「な、んで」

私達の目の前には見慣れたスクアーロの姿。いるはずのない彼の登場に私は驚きを隠せなかった。

「おーいー、あの野郎ボスの許可無しに勝手に降りやがったんだけど」
「カスが」
「ボス、どうします?」
「うるせえ」

一気に不機嫌になったボス。
ベル達は深くため息をつき、勝手な行動をとったスクアーロを見ていた。

「なんでこいつがここに居やがんだ?」

リボーンさんのこの言葉にすかさずツナさんが噛み付いた。

「リボーンあの人知ってんの!?」
「あいつはボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーに所属してるスペルビ・スクアーロってやつだ」
「ボンゴレ暗殺部隊!?ボンゴレにそんなんあったのかよ!?」

驚くツナさんを無視し、リボーンさんは一向にこっちを振り返らないスクアーロを見ている。
スクアーロ、なんでこんなところに?
痛みで声が出ず、床に倒れたままの私に一瞬だけスクアーロは視線を向けた。怒りに満ちたスクアーロの目。スクアーロは私からすぐに視線を外し、骸に憑依された人達の方に顔を戻した。

「これはこれは、ボンゴレ暗殺部隊の方が現れるとは」
「う゛お゛ぉい!てめえを殺すぜえ」
「暗殺部隊まで使いに出すとは、よっぽど僕に死んでほしいようですね」

薄く目を細めるビアンキさんに向かい、スクアーロはすぐさま攻撃を仕掛け始める。
5対1の圧倒的不利な状況にも関わらず、スクアーロは難なく攻撃を交わし、自らも攻撃をしていた。

「す、すげー、あのロン毛の人ひとりで戦ってるよ」
「当たり前だぞ、スクアーロは剣帝を倒したほどの剣の使い手だからな」
「んな!?すげー!」

スクアーロの超人的な力に骸は小さく舌打ちをし、攻撃の動きを止める。

「ヴァリアーが来るとは僕の予想外でした、君ほどの男が相手では本気を出すしかありませんね」
「ああ?」
「クフフ」

立ち尽くしていた5人は魂が抜けたように一気にその場に倒れこんだ。そして亡骸の骸さんの体がおもむろに動きだし、にやりと笑った。

「い、生き返ったー!?」
「クフフ、僕が持つ6つある戦闘能力の中で最も醜く危険な世界をお見せしましょう」
「第5の道、人間道だな」
「その通り、僕はこの世界を嫌いこの能力を嫌う、できれば発動させたくなかった」

骸さんは右目に指を入れ、骸さんの右目から大量の血が吹き出る。
指を外すと、赤く血が出ている骸さんの右目には『五』の文字が刻まれていた。

「いきますよヴァリアー、まずはあなたから排除します」
「ハッ!ガキがいきがってんじゃねえぞぉ!」

どす黒いオーラを全身にまとわせ、骸さんはスクアーロに攻撃を仕掛ける。
明らかにさっきよりも強くなった骸さんの動きにスクアーロは一瞬だけ顔を歪めた。

「チッ!」
「クハハハ!脆いですね、ウォーミングアップのつもりだったのですが」

一瞬の隙を突かれ吹き飛ばされたスクアーロは、骸さんの言葉にますます眉間にシワを寄せた。
どうしよう、私はどうすれば。
どうすることもできない私は、ただただ背中の激痛に耐えることしかできなかった。

「ツナ、ぼさっとしてねえでこいつらを隅に移動させっぞ」
「うん!なまえ、大丈夫?」
「だ、いじょうぶ、です」

ツナさんに笑いかけると、ツナさんは無理しないでと言ってくれた。リボーンさんとツナさんに運ばれ、隅の方に寄りかかる。目の前には骸さんとスクアーロの激戦が繰り広げられていた。
スクアーロがいるなら、たぶんボス達も来てる。任務で骸さん達を殺しにきたんだよね。
情けない、何やってんの私。あっさりと簡単に敵に捕まった挙句、こうしてみんなに助けてもらっている自分に嫌気がさした。

「なーにもたもたしてんだよ、スクアーロ」
「なっ!?てめえはくんじゃねえ!」
「ボスの命令なんだから仕方ねーじゃん、つーかお前弱すぎ」
「う゛お゛ぉい!手え出すんじゃ、」

スクアーロが言い終わる前に上から落ちてきたベルは、素早く骸さんをナイフで切り裂く。骸さんは顔を歪めてその場に倒れた。

「らっくしょー、てかボスマジ怒ってんぜ、お前また殴られんじゃねーの?」
「う゛お゛ぉい!てめえ殺すぞぉ!?」
「やれるものならやってみろよ、てめーごときが王子に勝てると思えないけどね」

火花を散らすふたりに、リボーンさんはいつもの調子で声をかけた。

「おまえら、9代目の命令か?」
「あ?てめえはアルコバレーノのリボーンか、オレらは任務で六道骸を殺せって言われてここ来たんだよ」
「…そーか」
「つーわけでお前最後に仕留めてこいよ」
「オレに命令すんじゃねえ!」

スクアーロが眉間にシワを寄せながら骸さんに近づくと、背後から犬の声が聞こえてきた。

「マフィアが骸さんに触んな!!」
「ひいっ!」
「びびんなツナ、やつらは歩く力も残ってねーぞ」

犬と千種は這いつくばりながら骸さんの傍に寄っていく。

「な、なんで?君達は骸に憑依されて利用されてたのに」

動揺しながら言うツナさんに、千種が少し睨みながら言葉を発した。

「…わかった風な口をきくな」
「大体これくらい屁でもねーびょん、あの頃の苦しみに比べたら」
「何があったんだ?言え」

リボーンに言われ、舌打ちをしながら犬はゆっくり口を開き始めた。
エストラーネオファミリーにいた骸さんと犬と千種。彼等は禁弾の開発のせいで他の人達から迫害を受けていた。彼等は特殊兵器開発実験に使われ、毎日苦痛な日々を過ごしていた。そんな醜い日常を一瞬で灰にしてくれたのが、骸さんだった。
一緒に来ますか?
犬と千種の居場所を作ってくれたのは、一緒に実験を施されていた骸さん。初めてその話を耳にした私は無言で犬を見ていた。

「…その時初めて、居場所が出来たんだ」
「それを、おめーらに壊されてたまっかよ!」

犬と千種の話を黙って聞いていたツナさんはいつもとは違う、強い瞳でふたりを見やった。

「だけどオレも仲間が傷つくのを黙って見てられない、そこがオレの居場所だから」
「……」

ツナさん…

「はい、胸くそ悪い過去話はそこまでにして、任務の続きをさせてもらうよ」

手を叩いて口元をニヤつかせるベルを一層きつく睨みつける犬と千種。スクアーロがゆっくりと剣を構えた瞬間、一瞬で犬と千種と骸さんの首に鉄枷が巻かれた。

「ぐっ!」
「っ、」

包帯のようなもので顔まで隠し、黒いコートを羽織った連中。

「早いお出ましだな」
「あ、あいつら何なんだよ!リボーン!」
「復讐者、マフィア界の掟の番人で、法で裁けないやつらを裁くんだ」
「そ、そんな!」

ずるずると引きづられていく骸さん達を、私達は見ていることしかできなかった。

「しし、あっけねー終わり方、マジつまんねー」
「う゛お゛ぉい、戻るぜえ」
「オレに指図すんな、ボケ」

ベルとスクアーロはのろのろと歩き出し、黒曜ヘルシーランドから出て行こうとしている。
そんなふたりを見ていたリボーンさんが口を開いた。

「待て」

リボーンさんの言葉に反応し、ふたりは振り返る。

「あいつも来てんのか」
「は?あいつじゃ分かんねーんだけど」
「おまえらのボスだ」

ベルとスクアーロは顔を見合わせ、少し間を置いてリボーンさんに顔を向けた。

「そんなんお前に関係なくね?じゃ、任務終わったんでオレら帰るから」

バイバイと手を振るベルは、なんだか私に手を振っているような気がした。
私はスパイとしてボンゴレにいるからヴァリアーとは初めて顔を合わせたって事にしなきゃいけないんだよね。
それをスクアーロとベルも分かっていたらしく、彼等は私に一度も声をかけなかった。

「…終わった、んだよね」
「そーだな」
「……」

ツナさんは安堵のため息を零し、私達はその場をあとにした。

「ただいま…」

リボーンさんに手当てをしてもらい、何とかヴァリアーのアジトに帰ってきた。
私がアジトに入ると、それを待ちわびたようにマーモンとルッスーリアが駆け寄ってきた。

「なまえ、背中の傷大丈夫?」
「心配したのよ!他に何かされなかった!?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「なまえ…」

元気がないことに気付いたのか、マーモンとルッスーリアはそれ以上何も言わなかった。
マーモンとルッスーリアに促され広間に行くと目の前には惨い光景が。

「ぐあっ!」
「カスが、ナメた真似しやがって」

いつものごとく、スクアーロがボスに殴られている。ボスの命令に背いたのか、もしかして、あのとき私達の前に降りてきたスクアーロはボスの命令無しで降りてきたの?
そんなことを考えながら目も当てられない光景から少しだけ視線を外した。

「お、なまえ帰ってたのか」
「…ベル」

私に気付いたベルがニッコリ微笑みながら近づいてくる。
私はまともにベルの顔を見ることができなかった。

「なに、なんかなまえ元気無くね?」
「ベルちゃん」

私の顔を不思議そうに覗きこむベルを止め、ルッスーリアは眉を下げる。
ベルが私から少し離れたと同時に、ボスが私の傍に歩いてきた。

「てめえ、簡単に敵に捕まってんじゃねえよ」
「…すみません」

ボスから視線を逸らすと、一発鋭い音をたてて私の頬をボスが殴った。よろめく私に舌打ちをしてボスはさっさとその場から立ち去る。
簡単に敵に捕まってんじゃねえよ。
まさにその通りだ、情けない。

「…なまえ、今日はもう寝ましょう、あんまり動くと傷が痛むわ」

顔を上げない私を優しく促し、ルッスーリアは私を部屋まで連れて行ってくれた。
私をベッドに寝かせ、ルッスーリアはさっきボスに叩かれた頬に軽く手当てを施す。

「じゃあ、おやすみなさい」
「ルッスーリア…」

出て行こうとするルッスーリアを呼び止める。

「どうしたの?」
「私、わたし、」
「なまえ…」

ルッスーリアは私の近くまで来ると、優しく髪を撫でる。

「大丈夫よ、今は寝なさい」

ルッスーリアは優しく微笑み、部屋から出て行った。
この夜、私は自分の無力さに涙した。

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