翌日の朝、私はいつも通りこの屋敷でバイトとして3人の主達のために朝食を用意していた、あんなにここから出て行くと決心してカバンに一杯詰め込んだ荷物は、すべて綺麗に元通り部屋に戻された、私自身の手によって。

いつものように朝食のハンバーグを作って六道様の部屋へと向かう、六道様はいつもと同じくまずいまずいと言いながらきちんと全部食べてくれた、よし、次は雲雀様だ。
今日こそは食べてくれるだろうかと緊張しながら遠慮気味にノックをし部屋に入る、雲雀様は依然私には目もくれず手元にある書類の山に目を通していた、ドクドクと鳴り響く心臓と共に歩を進め雲雀様のデスクの隅に朝食のハンバーグを置く、いつもならここですぐにハンバーグが床に叩きつけられてグチャグチャにされるはず、だ。
出来るだけ床を汚さないようにと、ハンバーグが床に落とされるタイミングを見計らって待っていると、雲雀様は書類から目を離さず皿に手を添えハンバーグを自分のほうへと引き寄せていく、いつもとまったく違う行動を起こした雲雀様をジッと見つめていると、雲雀様の切れ長な鋭い目と視線が合った。

「いつまで見てるの」
「あ、いや、きっ今日は床に落とさないのかなって」
「何、落としてほしいわけ?」
「いいえ!そんなこと全然ないですっ!!」
「じゃあさっさと隣の人に朝食出しにいきなよ」

雲雀様の有無を言わせない言葉に圧倒されつつ、ドアへと向かっていく、失礼しますと言ってドアから出て行くとき少しだけ後ろを振り返ると、雲雀様が私の作ったハンバーグを一口食べて下さっている何とも信じがたい光景があった、嘘、雲雀様が、今まで全然食べてくれなかったあの雲雀様が食べてくれてる。

雲雀様がハンバーグを食べてくれたことに心底感動した私は、少しスキップをしながら隣の部屋のザンザス様のドアをノックし中に入るが、そこはガランとしていていつもは必ずいるはずのザンザス様の姿はどこにも見当たらない、おかしいな、こんな早朝からどこに行ったんだろう。
疑問に思い頭を傾げながら、ザンザス様のデスクにハンバーグを置いてザンザス様の部屋を後にする、雲雀様同様今まで一口も食べてくれなかったザンザス様に、今日は食べてくれますようにと祈りながら。

その後、昼までの時間3人の主様達のための仕事をやり、昼に近づいたことに気付くと私はすぐさま厨房へと向かった、朝は必ずハンバーグだけど昼と夜は私が毎日好きなものを作っている、不思議なことに、雲雀様とザンザス様は昼と夜は必ずきちんと食べてくれた、朝のハンバーグはいつも食べないのに。
エプロンを身につけ手を洗い、厨房に置かれてある料理の本を手に取る、さて、今日は何を作ろうかな。

「今日の昼飯はステーキだぞ」
「何言ってんだてめえ、昼飯はオムライスに決まってんだろ、コラ」
「バカだね君達、昼食は淡白なものがいいんだよ、サンドイッチとかね」
「リボーンさん!コロネロさん!マーモン!」
「僕は呼び捨てか」

私の呼び方にムッとするマーモンにすみませんと何とも軽い口調で頭を下げる、リボーンさんとコロネロさんがそんな小せえこといちいち気にしてんじゃねえよとマーモンに言うけど、マーモンは納得できないのかまだグチグチと悪態をついていた。
この人達はこの城の料理人さん達で、本当はバイトでメイドをしている人達が主様から何を食べたいかを聞いてこの人達に伝えて作ってもらうっていうシステムらしいけど、私だけは例外で自分自身で作っているため、よく厨房を訪れるたびだんだんとこの人達と仲良くなっていったわけで。
今ではすっかり、たくさんからかえるくらい仲が良くなった、と思う、私は。

「だいたい君は初めて会ったときから僕に馴れ馴れしいんだよ、今度から僕のこともさん付けで呼んでくれない」
「いやー、でもなんかマーモンさんっていう感じじゃないし、やっぱりマーモンはマーモンですよ!呼び捨てじゃダメですか?」
「だからダメだって言ってるじゃないか、なに?僕にはさん付けで呼べるほどの価値がないってこと?本当に君は失礼な人だね、少なくとも僕は君やこのチビガキ共よりはるかに頭はいいし身分だって上だと思ってるんだけど」
「おい、それは聞き捨てならねーぞ、お前ごときがオレより上なわけねーだろ鼻タレ小僧が」
「あんま出過ぎたこと言ってっと一発ぶっ放すぜ、コラ」
「ちょ、喧嘩しないで下さいよ、それよりも今日の昼食は何を作ったらいいと思いますか?」

なんだかだんだんと険悪なムードになりつつあるこの雰囲気を変えようと話題を変えるが、見事3人共違う回答が返って来た、ええと、リボーンさんがステーキでコロネロさんがオムライス、マーモンがサンドイッチ、うーん、昨日はこってりしたもの作ったからなあ、うーん、どうしよう。

「これじゃあキリがねーぞ、大人しくジャンケンで決めるってのはどうだ」
「へえ、バカの分際でいいこと言うようになったんじゃない、いいよ、どうせ僕が勝つからさ」
「おい、卑怯な手は使うんじゃねえぞ、コラ」
「分かってるよ」

3人共何も喋らなくなり静まり返った空間の中、私は息を飲んで彼等のジャンケンが今か今かと待っている、ふいにリボーンさんのカメレオンが手の形に変形してパチンと指を鳴らしたその瞬間、3人は一気にジャンケンをし、結果は綺麗に2人が負けて1人が勝った、勝ったのはニヤリと笑顔を浮かべるリボーンさん。

「おい、オレの勝ちだ、今日の昼飯はステーキにしろ」
「あ、はい」
「む、むぐ、きっ貴様、何か卑怯な手を使っただろ!僕が負けるなんてことありえない!今すぐやり直しだ!」
「おいマーモン、負けたヤツが何言ってんだコラ、素直に負けを認めろ」
「認めるか!!」
「ったく、これだからお子ちゃまの相手は疲れんだよな」

リボーンさんの言葉にお子ちゃまはお前だろ!ともはや理性を無くしてしまったマーモンが叫びまくる、そんなマーモンを無視して昼時になった厨房に次から次へと訪れるメイドからの注文を聞き、すぐさま料理を作り出すリボーンさんとコロネロさん、この2人はほんとにこんなに小さいのに大人だなあ、マーモンは…やっぱりマーモンだなあ。
テキパキと順序よく作り出していくリボーンさんとコロネロさんに負けじと私も、料理の本を見ながら初めてのステーキを作った、うわ、なんか焦げたかも、いやこれは確実に焦げちゃったよどうしよう、でも焦げたのはこのひとつだけだし、よし、これは六道様のステーキにしよう。

メイドがリボーンさん達から料理を受け取り誰ひとりいなくなった頃、私のステーキもようやく出来上がり私は手を洗ってエプロンを脱ぎ、急いで自分の主達に持っていこうとして、ふと思い出し急ぐ足をピタリと止めた。

「あの、お願いしたいことがあるんですがいいですか」
「なんだ」
「私、このバイトもう少しで終わるんですけど、このバイトが終わってもリボーンさんとかコロネロさんとかマーモンとかとまた会いたいなーって思ってるんです、だから連絡先とか教えてくれませんか?」
「それは無理だぜ、コラ」
「僕達は君等バイトがここを辞める前にさっさとここからいなくなるからね」

さっきまでの雰囲気が少しだけ変化したのが分かった、マーモンも私が呼び捨てで呼んでるのにいつもと同じく怒ろうともしないで何かを考えるように難しい顔をしている、それはリボーンさんもコロネロさんもみんな同じで。
突然みんなの態度が変わったものだから、私は少し焦りを感じつつなんでですかと小さく声をかけた。

「理由はあいにくだが言えねえことになってる」
「君が食事を作りにここに来たとき僕等がいなかったら、それは僕等がここからいなくなったってことで理解することだね」
「な、なんでそんな、それじゃあ連絡先だけでも!」
「オレ達はガキの遊びに付き合って迷惑食らうのはごめんなんでな、まあ、バイトが終わってお前がまだいたらそんときはちょっくら顔くれえ出すかもしんねーぜ、コラ」
「コロネロ、それ以上言うんじゃねえ」

コロネロさんの発言に、ピクリといつもは垂れてる眉を少しだけ吊り上げてコロネロさんに注意をするリボーンさん、コロネロさんはまあそういうことだからと話をはぐらかし、私に早く主達に食事を運びに行けと促す。

なに、一体みんなは何を言ってるの、理由は言えないってどういうこと?それにコロネロさんの言ったガキの遊びに付き合って迷惑食らうのはイヤだとか、バイトが終わってまだ私がいたら会いにきてやるとか、なんのことを言ってるのかよく分からない。
ガキの遊びっていうのは私のこと?でも迷惑食らうのはイヤだってことは、まだその遊びはやっていないってことで、私のことじゃない、それじゃあ一体誰のことを言ってるんだろう、バイトが終わって私がいたらって、それはこのバイトが終わるときに何かが起こるってこと?その何かで私がいなくなることもある?
考えれば考えるほど疑問ばかりが増えてきて、ひとまずこのことはあとで考えようと私は振り返って3人にまた夜に来るからと手を振る、そんな私に3人は可愛らしい手を伸ばして手を振り返してくれた。

わからない、でも確かにここには、このバイトには何か秘密がある、それはバイトが終われば確実にわかることで、でもそのときにわかっても危険を回避するには遅すぎる。
この城に来た当初から感じていた不安と疑問がより確実なものへと変わってきたとき、ここでバイトをしていられる時間がもうほとんどないことに気付いた。
タイムリミットまで、あと6日。

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