忙しい毎日が続き、気付いたらとうに二週間を越していた、ここにきてからもう二週間ちょっとも経ったのかと思い、自分自身よく頑張ったなあとしみじみ自分を褒め称えていることもしばしば。
朝食の時間になり、もうずっと作り続けたおかげですっかり綺麗に作れるようになったハンバーグを持って六道様の部屋へと向かう、いや、味もおいしいと思うけどね、たぶん。

「六道様おはようございます、朝食をお持ちしました」
「げ、またハンバーグですか、もう飽きましたよ、大体なんで朝食だけハンバーグオンリーなんですか、もしかして誰かのリクエストですか!?僕の隣の部屋にいる憎たらしいツリ目野郎とか!」
「いやー、どうでしょう」

ハッキリいいなさいと催促してくる六道様にいいからいいからとハンバーグを押し付ける、六道様は当然納得していないようで不機嫌そうな顔をして、ハンバーグを食べ始めた、私はその光景をジッと見つめる、私の視線に気付き六道様は眉を潜めて私に声をかけてきた。

「ちょ、なんなんですかあなた、あんまり見ないで下さい気持ち悪い、僕は人に見られながら食べるの嫌いなんです」
「おいしいですか?」
「まずいですよ」
「そう言っていつも全部食べてくれますよね、うう」
「は、ちょ、何泣いてんですか、顔!顔拭いて下さい、涙でぐちゃぐちゃでキモいですからこっち向かないで下さいよ」

そう言いつつ乱暴にトイレットペーパーを私に差し出す六道様、なんでこんなところにトイレットペーパーが?そんな疑問を浮かべながらも私は遠慮なしにそれで勢いよく鼻をかんだ。
この人ほんっとうにナルシストで自分大好きで一緒にいて疲れる人だけど、たぶん私の主様の中で一番優しいと思う、普通の人よりは優しくないけどあの2人と比べたら全然優しいよ、この朝食のハンバーグだっていまだこの人しか食べてくれないし、ほかの2人は投げ捨ててばっかだし、ああもう、六道様が神に見えてきた。

「六道様ありがとうございます」
「うわ、君、その顔ほんと勘弁、鏡、鏡見てきなさい鏡!」

六道様の少しの優しさに気付き、ほんわかとした気持ちで雲雀様とザンザス様に朝食を運ぶ、でもやっぱり結果は同じで2人とも食べてはくれず朝食を踏み潰していた、ああもう、この2人はどんだけSなんですか、酷すぎですよ、最悪ですよ、六道様を見習って下さい本当に。
今日一日もいつも通り、雲雀様にトンファーで殴られそうになってザンザス様に追い回されて、六道様に自慢話を聞かされてもうくたくた状態、唯一私がゆっくりできて安心できる時間帯は夜の就寝時間、場所は私の部屋で自分のベッドに潜り込んでいるときだけだった、あーベッドふかふか気持ちいい!

パジャマに着替え早速寝ようとした直後、広間に忘れ物をしたことを思い出し急いで部屋を出た、暗くなった廊下に電気をつけ広間へと向かう、その途中会議室という部屋にだけ電気がついているのを見かけた、この部屋は普段私達バイトは入ってはいけないと言われているため誰がこの中にいるか検討もつかない、少しだけ話し声も聞こえる、もしかして主様達みんなで話し合いでもしてるのかな、でもこんな夜中に?
少し疑問を抱きながらもさっさと広間から忘れ物をとり自室へと戻っていく、やっとで自室が見えてきたと顔を上げると私の自室の前になぜか、私の主様3人全員が突っ立っている光景が目に入った、え、何、私に用があるとか?
恐る恐る近づきあのーと声をかけると3人一斉に私のほうへ視線を向ける、私はビクリと心臓を跳ねらせどうしたんですかと裏返った声で聞くと、3人は同時に面倒くさそうに顔を歪めた。

「僕達はただ話をしていただけですよ、それよりもなんであなたはこんな時間帯に出歩いているんですか、バイトはもう寝ている時間のはずですよ」
「あ、広間に忘れ物をしたのでとりに行ったんです」
「本当に迷惑だよ、君みたいなゲスに聞かれないようこんな時間に見たくもないコイツ等の顔わざわざ見て用件を伝えていたのに、君が来たせいでややこしくなったよ」
「え、す、すみません」
「失せろカスが」
「な、カッカスって」
「クフフ、まったくもってその方の言う通りですよ、君は邪魔です、子供はさっさと寝るべきです」
「こ、こども!?」

なぜだか3人から猛攻撃を受けてしまっている私は、だんだんと意味の分からないこの状況に怒りを感じてきていた、なんで、なんで私がここまで言われなきゃなんないの、二週間ずっと必死になって世話をしてきたのに、コイツ等は文句は言うくせにありがとうのお礼のひとつもしない、なんなのよ、なんで私が、ああもうイヤだ。
これ以上文句を聞いていると、本気で帰りたくなってしまうと思い私はさっさと自分の部屋のドアノブに手をかける、その瞬間、ザンザス様の手が私のネックレスを掴み勢いよくそれを引きちぎった。

「あ!」
「クク、なんだてめえ、ガキのくせにこんなもんつけやがって」
「大人のふりでもしてるんじゃない、バカじゃないの」
「返して!返して下さい!」
「おやおや、みっともないですねえ、返してあげたらどうです?」
「バカが、返せと言われて返すヤツなんているわけねえだろ」
「それもそうだね」

淡々と会話を続ける3人に目もくれず、高くまで上げた私のネックレスを持っているザンザス様の腕に必死になって飛びつこうと力を込める、そんな私を見てザンザス様は本当に楽しそうに笑みを零し、手に持っていたネックレスを思いっきり握りつぶした。
パキンと何とも呆気なく崩れ去ったそれは無残に床へと落ちていく、まるでスローモーションのように過ぎ去って行くその光景を見た私の脳で確かに、何かが切れる音がした、床に落ちた元はネックレスだったものをひとつひとつ拾い上げ立ち上がる、なにか文句でもあるのかと睨みをきかせてくるザンザス様に私は泣きながら精一杯声を荒げた。

「これは!ここに来る前に友達から貰った大事なものだったんです!!」

ただそれだけ、その一言だけを一気に言うと相手からの言葉を聞く前にさっさと自室へと入って行く、ドアに鍵をかけすぐさまベッドに身を投げると粉々に砕けたネックレスを両手に握り締め声を殺して泣いた、これは、このネックレスは、このバイトに不安を感じていた私に京子が大丈夫だよと私を安心させるためにくれたネックレスで、私は今まで何度も何度もこれのおかげで頑張ってこれた、それなのに。
大事なものを壊された悔しさと、逆らうことができない悲しさと辛さが一気に押し寄せてきた私は、自分自身驚くほど泣いていた、気付いたときにはもう朝で、微かな夜明けの光が窓から差し込んできている、赤く腫れた目元と涙でグチャグチャな顔をそのままに、ネックレスをしまいながらバスルームへゆっくり移動する。

シャワーを浴びてボーとする中、時計に視線をやるとそろそろ3人のご主人様に朝食を持っていかなければならない時間帯になっていることに気付き、私はゆっくりと重い腰を上げた、今日だけ、今日でこのバイトも終わりにしよう。
今日一日のバイトの仕事をすべて終えて夜になったら、荷物をまとめてこっそりここから出て行こう。
朝食の準備に取り掛かりながら、私は静かにそう決心した。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -