あれから一週間、例え毎日毎日ナルシーパイナポーの自慢話を聞かされても、朝食はいつのまにかハンバーグと決定したがいつになってもハンバーグを食べてはくれず床に叩きつけられていても、ましてやドSに毎回殺されそうになっても私は死に物狂いで頑張った。
でももう無理です、もう限界、考えればよく一週間も頑張ったと思うよ私、あはは、なんか顔とかすっごいゲッソリしてる気がするけどこれ気のせいじゃないよね、寝るのが大好きだったはずなのに最近は夜もあまりよく眠れなくなった、やっぱり私には無理だったんだ、こんなバイト。

時計に目をやると時刻は昼、この時間帯は少しだけ私も自由になれる、よし、ここから逃げるなら今だ、そう思いこっそりと部屋を抜け出すと、前方から花がひとり歩いているのが見えた、あれ、花だ!同じ屋敷にいるっていうのに会うのすっごい久しぶり!

「は、花!」
「あれ、なまえじゃん!元気にやってるー!?てかあんたなんか痩せた?」
「いや、うん、精神的にね」
「あー、あんたんとこ3人だもんねえ、どう?もう主様とは仲良くなれたの?」

花の問いに私はぜんっぜんと頭を左右に振る、それを見た花はほんとあんたはダメねえと呆れたようにため息を零した、花は一週間前と全然何も変わってないな、いいなあ、さぞかし花のところの主はいい人なんだろう、きっと気を遣ってくれる人なんだ、なんて羨ましい限りだこと。
そんなことをのんきに考えていると花があんた今からどっかに行くのと聞いてきて、私はハッと我に返った、そうだ、こんなことしてる場合じゃないんだった。

「わ、私さ、もう限界で、ここ辞めようかなって」
「ええ!?何言ってんのよあんた!高額のバイト代はどうするのよ!欲しくないの!?」
「そ、そりゃあ欲しいけど、もうとにかく私には無理、それになんかここどう考えても変だよ、ねえ、花も一緒に辞めない?」
「いや、それは無理。だって私にはベル様がいるし」
「あ、あははー」

私の誘いも虚しくキッパリと断られてしまった、花め、親友より主のほうをとるなんて、軽くショック受けちゃったじゃん、あーもうはいはい分かりましたよ、邪魔者はさっさと消えますからひとりでたくさん儲かって下さいね、ふんだ。
軽くふて腐れてさっさと行こうとすると、背後から花を呼ぶ誰かの声が、それに振り返るより先に花が物凄いスピードでその人物に走りより思いっきり抱きついた、うお、なんだなんだ、私のとことはえらい違いなんですけど。

「あ゛はぁ、しし」
「ベル様またおかしくなっちゃったの?しょうがないですね、ほら、部屋に戻りましょう」
「あ゛あぁ、王族の血がぁ」
「もうベル様ったら、だからあれほどトマトジュース飲むときは気をつけてって言ったでしょ、こんなに体中にトマトジュースこぼして」
「しし、ねえ、お前殺していい?」
「はい分かりました、じゃあ今度からはりんごジュースにしますねー」

私の存在をもう忘れているかのように、2人はそそくさと部屋のあるほうへと行ってしまった。って、あれ?ベル様って最初あんなだったっけ?なんかもっと普通だった気がするんだけど、そういえばさっき花がまたおかしくなったんですかって言ってたような。
いや、それよりもなんでベル様は体中血だらけだったんだ、花はトマトジュースこぼしたとか言ってたけどあれ絶対血だよね、明らかにベル様の腕から血出てたもんね、ていうかさっきの2人の会話がほとんど会話になってなかった気が、何はともあれ、私のとこ以外にも変なとこはあるんだなと少し安心した。

普通に玄関から出て行くことは出来るはずもなく、私は人影のない小さな書庫にある窓から逃げようとその書庫に向かう、スクアーロさんに一度辞めたいと言ったことがあったがそれはダメだと言われてしまい見つからずに逃げ出すしか出来なくなってしまった、それにしてもスクアーロさんのあの止め方は尋常じゃなかったような気がする。
カチャリとドアを開け中に入り、一目散に一番奥の窓に走りより辺りを見渡していざ出て行こうと窓に足をかけた、その瞬間。

「あっは、可愛いねイチゴ柄」
「え?い、いやああ!!」

思いもかけない言葉にとっさにスカートを抑えつつ思いっきり書庫の床に尻餅をついてしまった、いっ痛い、痛すぎる、じんじんと痛む腰に手をあて顔を上げると少し離れたところにひとりの男性が楽しそうにこっちを見ているのが見えた、え、うそ、さっき見渡したときには誰もいなかったはずなのに、なん、で。

「大丈夫?すごい音したけど」
「え、いや、あの」
「ああ僕?僕は白蘭っていう一応ここの主サマ」

私の傍に腰を下ろしニッコリと笑みを浮かべながら言うこの男の言葉にやっとで私は思い出した、そうだ、この人は白蘭様、たしかM・Mちゃんの主様だ、でもその人がなんでこんなところに、しかもひとりで。
次々と疑問が浮かびつつも声に出さずに黙っていると、白蘭様は私の腕を引き立ち上がらせてくれた、少しもたつきながらもお礼を言うとまたあの笑顔、でも最初に見たときより嫌ではなくなったと私は安堵した。

「ねえ、君の名前は?」
「なまえです」
「主は?」
「ろ、六道様と、雲雀様とザンザス様です」
「ああ、君が3人お世話するって子だったね、大変でしょ?あの3人ただでさえ問題児だから」

白蘭様の発言に少し頭を傾げると白蘭様は気にしないでとまた笑顔を作った。

「ねえ、もしかしてなまえチャンここから逃げようとしてた?」
「え、いっいや、それは」
「隠さなくていいよ、ずっと見てたから知ってるし」

ずっと見てた?誰が?白蘭様が私を?え、それは今さっき私がここから逃げようとしてたところ?それとも、今までずっと?いや、それはないよね、だって白蘭様と話したのだってこれが初めてだし。
そうひとりで結論付けていると、にこやかな笑みを浮かべていた白蘭様から少しだけ笑みが消えた、それは口元は笑みを作ったままで目元の笑みがふっと消えたもの。

「もうやめたほうがいいよ、ここを出ようとすることは」
「…え?」
「ほかの子はみんな気付いてないけど君は気付いてるでしょ?ここの不思議な怪しさとか」
「や、やっぱりここには何かあるんですか?」
「さあ、」

でも、と何かを言おうとしていた白蘭様は思いとどまったように秘密と言い直しその先を教えてはくれなかった、そのままじゃあと私に手を振りながら笑顔で去って行く白蘭様は一体何をしたかったのだろうか、この小さな書庫に用があったとは思えないし、もしかして私を止めに来てくれた?いや、まさかそれはありえない。
やっぱりこの場所は何か引っかかる、私はもう少しここでのバイトを続けてみようと思った。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -