「分かりますか?僕はこの世に存在するすべての中で一番美しくそして、とても優れた美貌の持ち主なのです」
「は、はあ」

次の日の早朝、いないと思っていたはずの六道様が今日はきちんと自室にいた、おはようございますと頭を下げつつ目に入るのは六道様の部屋一杯に飾られている鏡の数々と六道様のでかすぎる自画像。
一体これは何事かと焦りつつも六道様自身に理由を聞くと、さっきの回答が返って来た、じっ自分が一番美しいとか言ってるんですけどこの人、えっ、ちょ、もしかしてこの人ってそういう人なんですか。

「そ、そうなんですか、でもこの鏡の量はさすがに落ち着かないんじゃないですか?どこ見ても自分と目が合うし」
「クフフ、何を言うんですか君は。どこを見ても僕自身が見えふとしたときに髪形の崩れなどすぐにチェックできるんですよ、もうほんと僕って美しすぎる、どうです?君もこんな部屋にしたいと思いませんか」
「いえ、結構です」

私が瞬時に遠慮すると目の前の六道様はなんて可哀相な子だと私に惨めな視線を投げかける、いや、同情される意味が分かりません、ていうか私の主はどうしてこう個性的なキャラばかりなの、雲雀様は生粋のドSだしこの人はかなりのナルシストだし。
せめてザンザス様だけでも普通の人でいて欲しいと願いながら今日の朝食ですと、いつまでも鏡を見つめている六道様にハンバーグを差し出す、今日はちゃんと朝の5時に起きて自分で作ったから雲雀様に怒られないですむぞと小さく笑みを零していると、いきなり六道様がギャー!と悲鳴をあげた。

「な、なななんですかいきなり!」
「きっ君!!ああ足元!早く足をどけなさい!!」
「え、あっ足?」

私に人差し指を向け信じられないとでも言うようにガタガタと全身を震えさせている六道様に不審を抱きつつ、言われた通り自分の足元に視線を向ける、あれ、これって六道様の鏡?ヒョイと拾いあげるとそれは見事に割れていた。うわー、全然踏んでるの気付かなかったよ。

「ちょ、その鏡を返しなさいって、わっ割れてるじゃないですか!これどうしてくれるんです!?僕の一番のお気に入りの鏡だったんですよ!?」
「ごっごめんなさい、その、新しい鏡あとで用意しますか?」
「クフフ、そんなことでこの僕が納得するとでも思いますか?あなた人間として最低ですよ!恥を知りなさい恥を!!」

なんだかかなり怒らせてしまったようでプンプンと六道様の説教が始まった、どうしよう、早く雲雀様とザンザス様にも朝食を持っていかないといけないのに、よし、逃げよう。
ベラベラと何かを話している六道様にハンバーグを無理矢理手渡しさっさと部屋をあとにした、まだ何か言ってたけどまあいいか、コンコンとノックし雲雀様の部屋に入るとすぐに朝食を差し出す、今日こそは食べてくれますよーに!
そんな私の思いも虚しく雲雀様は少し見ただけでハンバーグを昨日と同じく床に投げ捨てた、ちょ、雲雀様食べ物をなんだと思ってるんですか、今日は早起きして自分で作ったんですよ、一体何が気に入らないんですか。

「き、今日は、自分で作りました」
「見た目が気持ち悪い、匂いも吐き気がする、床に染みがつくから早く片付けて」

何とも素知らぬ顔でそう言ってのける雲雀様、そっそりゃあ少し焦げちゃいましたけど気持ち悪いはないんじゃないですか、これでも頑張って作ったのに。
グチグチと悪態をつきつつ変わり果てたハンバーグを片付け、意味の分からない書類に目を通している雲雀様に一礼をし、次の部屋へ直行。ノックをしておはようございますとドアを開けた瞬間、顔の真横に物凄いスピードでグラスを投げつけられた、え、グッグラス?

間一髪顔を掠っただけの割れたグラスからそれを投げたであろう人物に視線を移す、そこには不機嫌オーラを纏うザンザス様の姿があった、こっ恐いんですけどォオ!なんなんですかこの人!なんでいきなりグラス投げつけられなきゃなんないんですか!それよりどうして顔が傷だらけなんですか!本気で恐すぎる!

「朝食を、お持ちしました、ハッハハハンバーグです」
「失せろ」

朝食をデスクにのせるとそれを床に叩きつけながらザンザス様は冷たくそう吐き捨てた、こっこの人も食べ物をなんだと思っているんだ、雲雀様と同じ事するなんて、捨てなかったのはあのナルシーパイナポーだけですよ、もういやだ、このバイト私に向かなすぎる。
半ば半泣きになりながらぐすぐすと無残になったハンバーグを片付けていると、ギリッと私の手に鋭い痛みが走った、痛いと言うよりも先に信じられない事実に私は声も出ずに顔をあげる、そこにはニヤリと笑うザンザス様の私を見下ろす姿が。

「なんだ女、さっさと手動かせ」
「い、いた」
「ああ?聞こえねえよ」

そう言ってわざと私の手を踏んずけている自身の足に体重を乗せる、それと同時にさっきよりも痛みが倍に増した、ちょ、痛い痛い痛い痛いいたいっ!いや本気で痛い!グッと下唇を噛み締め思いっきり睨み上げるとそれを見たザンザス様は楽しそうに顔を歪ませ、私の髪を引っ張る。

「なんだテメェ、喧嘩売ってんのかこのカスごときが」
「ち、ちが」

私が反論するよりも先に私の手を踏んでいるザンザス様の足が左右にグリグリと動く、そのあまりの痛さに顔を歪めるとザンザス様は大層嬉しそうに大声で笑い声を張り上げた、こっこの人もしかして、いや、確実に。
絶対ドSだ!

「次は何をしてほしい、おら、さっさと言えよ」

何を思ったのかなぜだかドS魂に火をつけてしまったらしく、ザンザス様の行動はさらにヒートアップ、私の髪を掴んでいない手を私の口の中に入れ喋らせまいとする、こっこの野郎!もうダメ、もう怒った、この指噛み千切ってやる!
そう思い顎に力を入れようとした瞬間勢いよくドアが開き、無遠慮に部屋の中に入って来たその人物は、ザンザス様と私を無理矢理引き剥がし咳き込む私をドアのほうへと移動させた、え、だ、誰。

「遅くなって悪かったなぁ」
「ス、スクアーロさん!?」
「おい、カスザメてめえ」

なんでなんでと問う私に話はあとだと私を部屋の外へと追い出し、ザンザス様の部屋のドアが閉まった瞬間聞こえてきたのは物凄い音とスクアーロさんの叫び声、ぐあっ、おっ落ち着けえ!おま、いだあ!ちょっ、う゛おぉ!
…うわあ、スクアーロさんあなたは私の救世主です、もう大好きですよスクアーロさん。
それから1時間後、ボロボロになっているスクアーロさんからザンザス様はほとんど毎日機嫌が悪く、いつもこうやっていい獲物を見つけてはそれをいたぶりストレスを発散させているのだということを聞いた、そのほとんどの標的は自分だとも言っていた。

「まあ、お前も気に入られたみたいだからなぁ、これから気をつけろよぉ」

え、私気に入られたんですか、あんなドS様に。
冬休みもバイトもまだまだ始まったばかり、明日にでも辞めようかと私は本気で思ってしまった。

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