「主達は個別に行動しているのが基本だぁ、お前等は主に命令されたことを忠実にこなし、また主のことはきちんと様付けで呼ぶようにしろ、もちろん自分の主以外にもだ」

幾多の苦難を乗り越えやっとの思いで獲得した高額のバイト代が貰えるバイト一日目、昨日は自己紹介をやって少し話をしただけだというのにどうにも疲れは取れきれていないようで、まだ頭がぼーっとする。
そんなバイトが今日から始まるわけだが、スクアーロさんの説明を聞きまたしても顔を歪ませた、様付けで呼べだなんて、ただの一般人の私にはかなり抵抗があるんですけど、いやでも、大金のため、そうだ、大金のためこれぐらい我慢だ、我慢。
スクアーロさんの解散という言葉で各主様の元へ散っていく同じバイト仲間達と共に歩き始めると、愉快に笑いながら隣に花が走り寄ってきた。

「どうしようなまえ!私昨日からドキドキしてあんまり寝てないんだけど!」
「ドキドキ?なんで?」
「バッカねえ、そんなの決まってるじゃない、あんなにカッコイイ人をお世話するのよ?緊張しないでいられるわけないじゃん!」

そう言ってキャーキャー騒ぐ花に少し引きつりながらの苦笑いをこぼす、ほかのバイトの人達を見ても花と同じく騒いでいる人もいれば普段と変わらず静かにしている人もいて。
私と花はお互いにそれじゃあねと手を振り、それぞれの主の部屋の前に位置している自分の部屋へと入っていった。
自室に入るとスクアーロさんがバイトの人達みんなに手渡した絶対に着なければいけないという制服というものを取り出す、その瞬間声もなく唖然と固まってしまった。

「こ、これを着るの!?」

私の手には、フリルが溢れんばかりについている何とも可愛らしいメイド服、ちょっと待てちょっと待て、世話をするからと言ってわざわざこんな動きにくい上に絶対私に似合うはずのない服を着なきゃなんないんですか、ていうかなんでメイド服。
ますますこの屋敷と主達への不信感が増す中、早く仕事をしなければと気付き仕方なくメイド服に身を包む、鏡に映る自分は滑稽以外の何者でもないだろう、イヤ確実に。
スカートのため足元がスースーすることに悪寒しつつ、私は急いで3人の主の部屋へと向かった。

「失礼、します」

初仕事だと緊張し、ノックする音も無駄に大きくなる中、六道骸の部屋からは何の返事も返ってこなかった、おかしい、まだ朝の7時なのに、不審に思いながら鍵の開いている六道骸の部屋を開けてみると中には彼の姿は無く、どこかに出かけたんだと私は察した。
こんな早朝から一体どこに。
そう思いつつもすぐ隣にある雲雀恭弥の部屋を数回ノックし声をかける、それから数秒後なにという何とも無愛想な声が返って来た、おお、今度はいた、私はゴクリと息を飲みゆっくりとドアを開けた。

「お、おはようございます、雲雀様、その「はい」

もごもごとしている私の声を遮り、私の目の前に来た雲雀恭弥から手渡された一枚の紙、恐る恐るそれを開くと中には一日の予定が事細かにギッシリと書かれてあった。

「こ、これは」
「君の仕事内容、いちいち指示するのとか面倒くさいからね、僕のことはそれに書かれた通りに動いてくれればいいから、何か緊急の連絡とかあったときは知らせるよ」
「は、はあ」
「じゃあ始めてくれる?」

雲雀恭弥の言葉にキョトンとしつつ、再度紙に視線を戻すとそこには朝7時に朝食と書かれていた、ちょ、朝食って私が用意しなきゃダメなんですか、あの、私料理とかあんまり出来ないほうなんですけど。

「な、なにが食べたいですか?」
「ハンバーグ」
「…は?」
「だからハンバーグ」

いつも通りの無表情な顔で雲雀恭弥は確かにハンバーグと言った、こっこんな朝からハンバーグ?いや、それよりもハンバーグの作り方とか知らないんですけど、ハンバーグ、そもそもなんでハンバーグ?もしかして雲雀恭弥ハンバーグ好きとか?ええええ、なんか意外過ぎる。

「ねえ、早くしてもらえる、もう15分も過ぎてるんだけど」
「え、あ」
「次は7時30分から僕の部屋の掃除だよ、それまでにハンバーグ持ってきて、じゃないと咬み殺す」
「か、かみ?」

雲雀恭弥の最後の言葉の意味が分からず首を傾げていると、一段と鋭く細長い目がギラリとひかり、学ランからおもむろにトンファーが出現する、え、もっもしかしてそれで私を殴る気なんですかっ、咬み殺すって、ちょっ、そういうこと!?
すぐに察した私は失礼しますと言い勢いよく部屋を飛び出し、厨房へと直行、時計を見るとあと10分しか時間がないことがイヤでも分かってしまう、こんなの間に合うはずがない、でも作らないとあれで殴られる、どうしよう、どうしようどうしよう。

半泣き状態の私の目にふと冷蔵庫が映る、ヨロヨロとよろめきながら近づき中を開けるとそこにはいくつもの食材に囲まれ冷凍のハンバーグが買い置きされていた、よっよかった!これで怒られないし殴られないですむはずっ!

「雲雀さ、まどうぞ!」

ハンバーグを温めご飯をよそい雲雀恭弥の自室まで全力疾走した結果、何とか30分ギリギリで間に合うことができた、心の中で密かにガッツポーズをとりつつ、目の前にある大きなデスクの上に朝食を置く、チラリと私と向き合うようにして座る雲雀恭弥の顔色を伺うとなぜだか眉間にシワを寄せていた、え、なっなんで。
ハンバーグが冷凍食品だと気付かれたのかと内心焦りつつも、おもむろに一口ハンバーグを食べる雲雀恭弥に視線を送る、その瞬間、雲雀恭弥は勢いよく朝食を床に叩き付けた。

「な、ななな」
「君、僕のことバカにしてるの?」
「え!?い、いえ、そんなことは決して!」
「これ、明らかに冷凍食品だよね、僕にこんな安いもの食べさせようだなんて君いい度胸だよ」
「ちょ、ま、待って下さいっ!す、すみません!雲雀恭…!」

とっさに雲雀恭弥と呼ぼうとした瞬間、首元を掴まれ壁際に投げ飛ばされてしまった、背中に壁の堅く強い衝撃と共にゴホゴホと咳こんでいる私の顔の横に雲雀恭弥のトンファーがガツンッと突きつけられ、すぐ目の前にある物凄い剣幕で睨んでくる雲雀恭弥の顔に私は血の気が引いていくのを感じた。

「さっきからなに?君何様?自分の立場をよく把握していないみたいだね、君はただのバイト、僕はその雇い主、わかるかい、君の代わりは数え切れないほどいる、だからいま君を僕が消してもこちらとしては何も支障はない」
「ごっごめんなさ、い」
「よく覚えておいて、二度はないから」

鋭く冷たい、そして単調とも言えるその言動に私はただただ必死に頷いた、恐い、恐すぎる、なんなんですかこのバイトは、消すだなんてそんなこと一言も書いてなかったのに、消すって、やっぱり殺すってこと?そっそんな、無理無理無理無理!私まだ死にたくない!
スッと立ち上がり私に背を向けた雲雀恭弥に深く安堵のため息を漏らす、それと同時に、あっそうだと振り返り雲雀恭弥は私の顔面に向かってその凶器のトンファーをかざす。

「僕のことは雲雀様と呼べ、今度呼び捨てにしたら咬み殺す」
「は、はい」

私の返事を聞き、それじゃあ仕事再開してとのんきにあくびをしながらデスクにつく雲雀様、あまりの恐怖に脱力しながらも時計に目をやり雲雀様から手渡された紙を見た、ヤバイ!もうかなり遅れてる!
慌てて雲雀様の部屋を掃除すべく掃除用具を取りに部屋を出た、そういえば六道骸はもう帰ってきただろうか、イヤそれよりも何か大事なことを忘れているような…って、あー!ザンザスっていう人のとこにまだ行ってない!あーもう!なんで私だけ3人も世話しなきゃなんないの!?

あたふたとしながらまずは雲雀様に言われた仕事からやろうと、私はやる気を出すように腕をまくった。

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