「どっどこに行くんですか!?」
「海」
「海!?」

無理矢理雲雀様の高級車に乗せられ走行中、隣に座る雲雀様はとんでもないことを言ってのけた。この時期に海だなんて、そりゃあ少しは暖かくなってきたけどまだまだ寒いでしょ!絶対寒すぎて心臓止まるから!風邪だってひくよ!

「あ、あの、海はちょっと厳しいんじゃないですか?」
「ワオ、僕に口答えする気かい?」
「いいえ!決してそういうわけではないんですが、その、寒いですし風邪とかひいたら大変じゃないですか」
「なに言ってるの、君バカなんだから風邪なんてひかないでしょ」
「あ、あはは」

対して興味もないようにサラリとひどいことを言う雲雀様。どいつもこいつも人をバカ呼ばわりですか、こんなにバカバカ言うくせになんでこの人達は私をメイドに選んだんだろ。意味わかんないしもう怒り隠しきれなくて苦笑いしかできないんですけど。
ポケットに忍び込ませていた携帯を雲雀様にバレないように確認すると、すでに時刻は夜の6時になってしまっていることがわかった。えーちょっと待って、観たかった番組ひとつ終わっちゃったんですけど、今からまた違う観たい番組始まるし、お願いだから早急に帰して頂けないだろうか。

隣に座る無表情な雲雀様に、恐る恐るも番組のことを告げるとだからなにと一言告げられあっさりと拒否されてしまった。最悪だ、雲雀様もあのときから全然変わってないし、これじゃあきっとザンザス様も変わってないよね。
最早希望を失った私はガックリとうなだれた。そのとき突然雲雀様が運転手に停めてと言い、ガンガンスピードを出していた運転手は勢いよく急停車。案の定六道様の二の舞になった私は頭部を強打しじんわりと涙が浮かぶ。なんでこの人達はこうなんでもかんでも荒いんですか、というか運転手!もう少しスピード落として運転してよほんとに!というか急ブレーキはやめてください、頭打ちすぎてもうそろそろ危ないんで。

のんきな顔をしている運転手に思いっきり睨みをきかせていると、なに気持ち悪い顔してるのと再び雲雀様に腕を引かれ私は車の外へ。手を繋ぐなんてことはせず相変わらず私の腕を掴んだままの雲雀様は、何も言わずにズンズン歩きだした。え、まだ海に着いてないよね?

「ひ、雲雀様、どうしたんですか?」
「君に見せたいものがあってね」

前を向いたままそう呟く雲雀様は止まることなくずっと歩き続けている、雲雀様の見せたいものってなんだろう、ちょっと気になるのが半分だけど見たくないって気も半分。微妙な心境の中辺りを見渡すと見慣れた景色が広がっていた。そういえばまだ少ししか車走らせてないから、私の住んでるとこからそんなに離れてないんだな。気分はもうずっと遠くに行ってる感じだったけど。

雲雀様に腕を引かれキョロキョロと辺りを見ていると、ふいに雲雀様の足が止まった。前にいる雲雀様に声をかけても返事はない。不思議に思いながらも雲雀様の前を見てみると、そこには柄の悪そうな不良が6人ほどで歩いている姿があった。不良は私達に背中を向けていて気付いていない、知り合いなのかなと首を傾げる私の腕を雲雀様は離し、なぜだかスタスタとその不良達の元へと近づいていった。そしていきなりトンファーを取り出したかと思うと、不良の中のひとりを思いっきりトンファーで殴りつけた。え、なっなんで。

「な、なにしやがんだテメー!死にてえかコラ!!」
「君達群れすぎ」
「はあ!?なに言ってんだ、」

キレた不良が殴りかかると、雲雀様はすぐにその攻撃を交わしトンファーで殴りつけている。意味がわからない上に恐すぎる雲雀様の行動に一歩後ろへと下がった。そのとき背中に何かが当たる感触を感じ、恐る恐る振り返るとそこには見慣れた長身のあの人が私を見下ろしていて。今でも忘れない特徴的な真っ赤な瞳で私を睨んでいる。

「ザ、ザンザス様」

なんでここにと言う言葉は声として出なかった。突然大きな手で口を塞がれまたもや腕をグイグイ引かれて。いまだに不良達をボコボコにしている雲雀様からどんどん離れていく。雲雀様は不良を殴りつけることに夢中で私に気付きもしない、六道様といい雲雀様といい、なんで夢中になると周りが見えなくなるんですか。というかこれで3人全員の主に会っちゃったよ、やっぱり今日は厄日なんだ、最悪すぎる。

「テメー、オレに面倒かけさせるたあいい度胸してんじゃねえか」
「め、面倒?」
「ザンザス様は一度あなたの自宅へあなたをお迎えに行ったのですよ」

ですがあなたはいなかったので、早朝から今までずっとあなたを探していたんですと付け加えるように、無理矢理押し込まれたザンザス様の車の運転手に説明された。このバカ女がとなぜだかザンザス様から頭部にゲンコツを食らい、痛がる私を無視してザンザス様は運転手に命令をし車を出させる。バカ女って言うのはまだいいとして、何も殴らなくてもいいじゃないですか!これ絶対血出てますって!というか早朝から今まで私のこと探してたとか、ほんとなのかな。

「ザンザス様、私に何か用があったんですか」
「暇だ」
「は?」
「オレに付き合え」
「えええ、つ、付き合えってどこにですか!?」
「うるせえ」
「すみません」

ついバイトをしていたときのくせですぐに謝ってしまった。というか相変わらず恐すぎですザンザス様、顔傷だらけだし目真っ赤だし。この人は普段なにをしてるんですか、どうでもいいことだけど物凄く気になる。
座席に踏ん反り返るザンザス様とは対照的に、肩身の狭い思いをしながら座席に座る私は、なんとも居心地の悪すぎるこの空間がいやでいやでたまらなかった。そんな高級車がやっと停止した場所、それはザンザス様ではない人が行くと言っていた目的地とまったく同じ場所だった。

「…海?」
「なにアホ面してやがんだ、さっさと降りろ」
「はっはい」

ザンザス様に促されるまま車から降り、目の前に広がる海を見つめる。なんというか、すごい偶然。雲雀様も海に行くとか言ってたしな、六道様は結局どこに行くのかわかんなかったけど。というか半端なく寒い。

「あの、寒すぎませんか」
「厚着してこい、カスが」
「えええ、厚着してこいってそんな無茶な」
「行くぞ」

私の言葉を軽くスルーしてザンザス様はさっさと海の近くへと歩いていく。寒い寒いと腕をさすりながら仕方なくザンザス様のあとをついて行こうと歩き出した瞬間、勢いよく背後から頭を鷲掴みされた。なぜだか怒りと殺意が感じられるほど力のこもっているその手は、私の頭を粉砕するんじゃないかってくらいギリギリと締め付けていて声すら出ない。
ありえない痛みを堪えつつ、そっと後ろを振り返ると同時に全身から血の気が引いていくのを感じた。

「また会いましたね」

僕から逃げられると思ったんですかと微笑む六道様は、依然私の頭を鷲掴みしたままの状態で私を見下ろしていた。ああ、私死んだかも。

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