「クフフ、お久しぶりですね僕のあまり可愛くない無能なメイド」

普通に学校から帰宅して普通に私の部屋に入ったら普通に六道様の姿があった。今の時間帯、親は仕事中でただひとりの弟はきっと今頃部活でもしてるだろう、よっていま私の家には私と六道様しかいない。え、いや、そもそもなんでこんなところに六道様がいるの。というかこの人さらりとあまり可愛くないとか言ったよね。

「え、えーと」
「なんです?どうしたんですか?そんなに頬を赤らめてよっぽど久々の再会に感動しているんですね、クフ」
「いえ、それはないですから。というか久々と言っても2、3ヶ月振りじゃないですか、え、あれ?2、3ヶ月って久々だっけ?」
「ほとんど無いに等しい脳でそれ以上無駄に考えないほうがいいですよ、バカなんですから素直に僕に会えて嬉しいと喜びなさい」

なんとも偉そうなことを言い、六道様は優雅に足を組み直し大袈裟なほど前髪をかきあげ、これだから僕って罪深いなんて虫唾が走る言葉を平然と呟いていた。どうやらこの人は冬休みにやったバイトの日からなにひとつ変わっていないらしい。

「じゃあ行きますよ」
「は?どこにですか」
「本当にあなたはバカですね、いまはゴールデンウィークでしょう、というわけで僕は暇です、暇で暇でこのままだとメタボになります確実に。メタボな僕なんて僕じゃない!メタボなんて…メタボなんて…うああああ!!よし、出発」
「え、は!?いや、だからどこに行くんですか!」

まったくもって意味のわからない理由を言い、六道様は私の腕を掴んでズンズンと私を家の玄関へと連れていく。ちょ、ちょっと待って、この人は本当にいまからどこかに行くつもりなんだろうか。それは本気で勘弁してほしい、今日は観たい番組がたくさんあるし何より親が帰ってきていつもはいる私がいなかったら焦るでしょう明らかに、捜索願とか出されたらどうしよう、え、ちょ、なんかそれほんと恥ずかしすぎる。

待って待ってと必死に六道様を止めようとするが、六道様は完全無視。この人ほんとあの日から全然変わってないなと絶望に打ちひしがれていると、玄関を開けた六道様がピタリと足を止めた。不思議に思い玄関の外に顔を向けると、そこには絶対に遭遇したくなかった最悪な状況が。

「あれ、え?なになに?ちょ、姉ちゃんが家に彼氏連れてきてるー!!」
「ちがうから!ほんとちがうから!!」

玄関を開けた先にはなぜか今頃は部活に励んでいるはずの弟の姿があった。弟は私と六道様を交互に見て心底驚きながら大声で叫んでいる。というかちゃんと見てよ!明らかに私嫌がってんのを無理矢理引っ張ってんじゃん!これのどこが彼氏だバカ!つーか部活に帰れ!!

「姉ちゃんには一生男なんてできねーと思ってたけど…姉ちゃんもなかなかやるねー、どこでこんないい男ゲットしたんだよ」
「だからちがうから!断じて彼氏じゃないから!つかなんであんたここいんのよ!部活は!?」
「いや、忘れもんしたから取りに来ただけ、いやーいいもん見たなあ、あ!このこと学校中に言いふらしていい?」
「やめろ!!あんたそんなことしたらねえ!」
「丁度いいですね、この人ちょっと借りていきますので」

ガバッと文句を言い続ける私の口を手で塞ぎ、六道様は弟にニッコリスマイルを向けさっさと家をあとにする。助けてと手を伸ばす私を見て、弟はのんきに親には言っておくからとなぜだか応援されてしまった。あとで覚えとけこんチクショウ。

「最悪だ、ほんと最悪だ」
「そうですね、よりにもよってなんでこの僕がこんなバカの彼氏になってるんですか、最悪ですよ」
「はいはいすみませんねえ、こんな私が彼女だと思われてしまって。あいつにはあとでキツく言っておきますのでご心配なく」
「ぜひそうしてください」

ニッコリとわざとらしい笑みを浮かべた六道様は、掴んでいた私の腕を思いっきり引き寄せ、変な機械に私を投げ入れる。そのせいで頭をぶつけ痛い痛いと嘆く私に気付きもせず六道様は運転席に乗り、ヘンテコなこの機械を操縦し始めた。もしかしてこれは六道様お手製の車?え、ほんとにどこに行くんですかこの人。

そうこうしているうちに出発してしまったその機械は、降ろしてと叫ぶ私の声なんてすぐに消し去ってしまった。私のゴールデンウィーク最悪だ。

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