昨夜のこともありあまり眠れなかった私は、主達の朝食を作る時間になったことに気付き、重い体をゆっくり起こしカレンダーを確認した、今日を含めてこのバイトが終わるまであと2日、私はこのまま何もしないで明日のバイト最終日を迎えてしまうのだろうか。

顔を洗って着替えをして、あまり寝てないせいでやつれてしまっている自分の顔を見て苦笑いを零す、昨日も結局あのあとたくさん泣いたからな、あーあ、私何やってんだろ。
廊下に出ると私以外のバイトと主達はまだ寝ているらしくどこを歩いても静まり返っている、みんなを起こさないようにと気をつけながら厨房へと向かい、いつものようにあの小さな可愛い料理人の3人組に元気に挨拶をしながら厨房の中へと入って行った。

「おはようございます!いやー今日も寒いです…あれ?」

厨房の中をすべて見渡すがあの3人の姿がなぜか見当たらない、おかしいな、いつもならこの時間帯に3人共絶対いるのに、それで私と一緒にいろんな話をしながら朝食を作って。
そこまで考えた私の脳裏に何日か前に聞いた3人の言葉を思い出した、そうだ、確かあの3人は急にいなくなるから私とはもう会えないって言って、うそ、そんな、それじゃあ今がそうなの?

厨房のあらゆるところを見て回り必死になってリボーンさん達の名前を叫ぶ、それでも返事は一向に返ってこない、うそ、うそだ、こんなのうそ、イヤだ、ほんとにいなくなったなんてそんなのイヤだ、昨日の夜はみんな普通だったのに、どうして言ってくれなかったの。
3人の姿が確実に消えたんだと理解したとき、ふとコロネロさんの言葉を思い出した、コロネロさんはガキの遊びに付き合って迷惑を食らうのはイヤだからここからさっさといなくなるって言ってた、それが本当なら、この城の秘密がもう動き出してるってこと?バイトが終わるのは明日なのに。

もう考えている時間なんてないのだと直感した私はすぐさま花の部屋へと走り出す、何度も何度も花の部屋のドアを叩くと、中から私に無理矢理起こされ不機嫌な花が目を擦りながら出てきてくれた。

「ちょっと、あんたいきなりなんなのよ、まだ寝ててもいい時間じゃない」
「そんな寝てる場合じゃないの!そうだ、ベル様は!?ベル様いる!?」
「ベル様はまだ寝てるわよ」
「いいから見てきて!」

いつもの私らしくない取り乱し方に、花も何かを感じ取ったらしく少し動揺しながらもベル様の部屋のドアをノックしベル様の存在を確認する、何度こちらから呼びかけても返事はない、ドアノブを掴むと鍵がかかっていないことに気付きすぐにドアを開ける、その先に見えたのは誰もいない静かな部屋の空間だけだった。

「うそ、いつも朝は絶対いたのに」
「花、今すぐほかのバイトのみんなを起こしてみんなと一緒にここから逃げて!」
「え?なに、どういうこと?」
「いいからお願い!じゃないと、」

そこまで言って口を閉ざした私を見てこれはただ事ではないと感じた花の顔が一層険しくなる、私が今まで集めてきた情報と私が導きだした結論を今話すのは時間がかかるし、そんなことしてる余裕なんてあるはずがない、さっさとここから逃げないと、逃げないと私達は。

「なに、どうしたのよ」
「…お願い、さっき私が言った通りに絶対して、みんなとすぐにここから逃げて!」
「なまえはどうすんのよ!?」
「私は、やらなきゃいけないことがあるから!」

だから先に逃げてて、すぐに私も追いつくからと廊下を走り出しながら花に向かって叫ぶ、花は今の状況に理解できていないにも関わらず、私の言った通りにほかのバイトのみんなを起こしに行ってくれた、一刻も早くみんなを逃がして、私、私は。
走って走って辿り着いた場所は私の主達の部屋の前、ひとりひとりの部屋をノックしドアを開けて部屋の中を確認するが主の3人誰ひとりとして部屋にはいなかった、たぶん、私や花以外の主達もすでに部屋にはいないだろう、彼等は今私達に隠していた秘密を実行しようとしてるはずだ、その肝心な彼等の現在の居場所は。

何も考えずに私が向かった先は、毎晩主達が密かに話し合いを行っていた会議室、普段絶対にバイトは入ってはいけないという領域、私は肩で息をしながらどうか開いて下さいと祈りを込めて会議室のドアに力を込める、どういうわけか、いつもは鍵がしっかりかけられている会議室のドアが今日は開いていた。
やっぱり主達がここにいるのは間違いないと確信した私は会議室の中に入り辺りを見渡した、だが何度見渡してもガランとした場所ばかりで誰ひとりとして人間は存在していない、絶対にここだと思っていた私は焦りながらも必死になって何か隠れている入り口がないかと会議室内を探し出す。

私は一体何をしてるんだろう、今の内に花達と一緒にここから逃げればいいのに、わざわざ自分から危険に向かっていくなんて、映画の正義のヒーローみたいだなあなんて、ほんとにそんなんじゃないけど、ただ止めたいと思った、彼等が何をするかはまだ定かじゃない、それでも、もし危険なことだったら、どんなことをしてでもそれを止めたいと思った。

いつから自分はこんな人間になったんだろうと自分自身の行動に驚きながら、会議室のテーブルの下にある本当に小さなスイッチのような物を見つけた、もしかしてと期待しながらそれを押すと、少し前のほうにあるテーブルの下の床に綺麗に穴が開いた、うお、ほんとにあったよ隠し扉!
なんだか予想もしない展開にドクドクと鳴り響く心臓、穴の中には階段がありその先は暗く何も見えない、私は息を飲んで震える足を一歩その穴の中へ進める、あまり音を立てないように静かに静かに一歩ずつ確実に。

やっとで小さな灯りが見えてきたことに安心し、辺りを警戒しながら階段が終わった先の広い空間を覗きみる、そこは大きな部屋になっていて、真ん中にはこれまた大きな機械のようなものが。私は見つかるまいと階段の影に隠れコッソリと部屋の中を見渡した。
部屋の真ん中にある大きな機械のような物の周りを囲むように主達が立っていた、やっぱりそうだ、私の推測は当たっている、主達はこの機械を使って私達バイトを殺す気なんだ。
それじゃあこの大きな機械がもしかして主達が秘密にしていたことなのかもしれない、部屋にある灯りが少ないせいで主達の顔はほとんど見えない、ついでに私の位置からは主達の話し声は聞こえるものの、何を話しているかはまるで聞こえてこなかった。

確かに主達は大きな機械の周りを囲んで何かを話し合っている、でも聞こえない、何を言ってるか分からない、これ以上近づくのも見つかる危険性が上がるだけ、どうしよう、一体どうすれば、ああもう、なんで私こんなに頭悪いわけ!

「おはようなまえチャン、予想よりはるかに早いご到着だね」

ビクリと体が震える、ドクドクと早鐘のように高鳴る心臓とドッと流れ出す冷や汗、恐る恐る顔を上げ大きな機械を囲む主達のほうに視線を向けると、確かにみんな私のほうを見ていた、その中には一際目立つ白髪の白蘭様の姿も。白蘭様は私を見て嬉しそうに笑っていた。
見つかったと焦りを感じすぐさま逃げようと階段を引き返そうとする、その瞬間背後にいた誰かに勢いよく腕を掴まれ簡単に捕まってしまった、その痛みに耐えながらその人物を見上げると、その人を確認したと同時に私は驚きのあまりうまく言葉が出なかった。

「ひ、雲雀、さま」

私の背後にいて逃げようとした私の腕を掴んでそれを制止させたのは紛れもなく私の主のひとり、雲雀様本人だった、驚く私に雲雀様は一度も視線を向けず私を見ようともしない、雲雀様は無理矢理私の腕を引きほかの主達がいる部屋の中心部へと私を連れてきた。

「あれ、遅かったね、時間はもう過ぎてるんだけど?」
「……」
「まあいいや、それよりほかの2人はどうしたの?もう始めちゃうよ?」

白蘭様の問いに一向に答える気のない雲雀様を見て、白蘭様は諦めたようにまたいつもみたいにどっか行っちゃったのかなと、笑顔を浮かべる、君は戻っていいよという白蘭様の命令に素直に従い、雲雀様は無言で私から離れ目の前の大きな機械を取り囲んでいる主達の中に入った。

「じゃあ、始めようか」

ふと隣から声が降って来たことに気付き、顔を上げるとそこにはいつものように笑顔を浮かべ私を見下ろしている白蘭様の姿が。
私は一瞬、呼吸の仕方を忘れていた。

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