「こんにちは」

翌日、このバイトも今日を含めてあと3日になった夕方時、突然私の目の前に現れた人物はこの城に来てまだ一度も話したことがなかった主の中のひとり、ルッスーリア様だった、いきなりのことに慌てながらこんにちはと返すとルッスーリア様はニッコリ笑顔を浮かべて私の顔をジッと見つめる、な、なんだろ。

「ふーん、あなたがあの3人を世話してる子なのねえ」
「あ、はい」
「いやね、最後だから一目見ておきたいなって思ったのよ」

ルッスーリア様の言葉に違和感を感じ、いまだジッと私の顔を覗きこんでくるルッスーリア様に視線を向けた、最後?最後って、確かにこのバイトはもう数日で終わる、だから最後?なんで、それは一体。
少しの間自分自身に訪れるんじゃないかという死に対する心配が消えていた中、突然のルッスーリア様の発言でそれは再び私の中に浮かび上がってきた、このバイトが終わると同時に訪れる死、それはもしかしたら本当に本当なのかもしれない、すべて私の推測だけど。

「あ、の、最後って」
「あー気にしなくていいのよ、あなたは心配しなくても全然大丈夫」
「で、でも「ルッスーリア!お前またオレの髪で遊びやがったな!!」

私の言葉を遮り突然大声を出して私達のほうへ近づいてきたのは、ルッスーリア様のメイドのラルさん、ラルさんとはここに来てからもあんまり話してないな、いや、そんなことより今ラルさんルッスーリア様のこと呼び捨てにした?え、い、いいのかな。
どうすればいいのか分からずその場にいると、ラルさんはルッスーリア様の首根っこを持ってさっさと部屋に戻るぞと強制的に引きずっていく、うわーラルさんってなんかカッコイイ、女の人なのにあんなに頼れる感じだし、ルッスーリアさんは男、だよね、それじゃあオカマ?

「ラルちゃんあたしに会いにきてくれたのね!嬉しいわあ」
「違う!この髪を元に戻してもらいたいだけだ!!」
「あらん、でもラルちゃんに凄く似合ってるわよ?可愛い!」
「な、かっかわいい!?ふっふざけんな!この変態!!」

ズルズルとルッスーリアさんを引きずりながら部屋につくまでずっと聞こえていた2人の会話、うーん、やっぱりなんだかんだでルッスーリアさん達も仲いいなあ、それにラルさんカッコイイし。
いやいやそんなことよりも、今はこの現状についてもっと考えないと、もうこのバイトが終わるまで時間はない、だから私もやらなきゃいけないことはやらなきゃ、確実に危険を回避してバイト最後の日までに何か対策を考えないと、そのためにも今日の夜、私がやらなきゃいけないことは。

その日の夜、私はとっくにバイト達は寝静まっていなければならない遅い時間帯にコッソリと部屋を抜け出していた、静かに音を立てないよう歩いて向かうは会議室、前に一度だけこの時間帯に会議室の前を通ったとき、なぜだか会議室に灯りがついていた、あそこには私達バイトは絶対入ってはいけないと決められている、だとするとあそこにいるのは。
ゆっくり会議室に近づくと前と同様に会議室には電気が点いていた、息を殺してドアの近くにいき耳を澄ます、そうすると言葉までは聞こえないが少しだけ人のいる気配を感じることができた、思った通り、この中にはすべての主達8人全員が入っている。
きっと毎晩毎晩この中で、私達が寝静まったときを見計らって主達で話し合いをしているんだろう、なんのことかなんてこの城の秘密のことしかありえない、このバイトが終わるまでにここで着々と準備を進めてるんだ。

ゴクリと息を飲みどうにかして中の声が聞こえないかと角度を変えて耳を当てるが意味はない、それでもわずかに人が何かを話している声が聞こえ私は懸命に耳を澄ませていたその瞬間。
背後から伸びてきた大きな手に一気に口を塞がれ硬直する、だっ誰、もしかして見つかった?どっどうしよう殺される、逃げないと、早く、早く早く早く!
もうほとんど混乱した状態で口に当てられた大きい手を退けようと、必死になって腕を振るったその直後、私の腕が会議室のドアに当たってしまい会議室の中からそこにいるのは誰だという声が確かに聞こえてきてしまった、どうしよう気付かれた、逃げたい、逃げたいのに逃げれない、誰か。

「黙ってろ」

半泣き状態な私の耳元から聞こえたのは確かに聞き覚えのある声、それに気付き少し落ち着くと私の口から手が離されその人物はオレだと言って会議室へと入って行く、私の主様のひとり、ザンザス様。
それに気をとられ固まっていると肩に手を置かれ、すぐに振り返るとそこには口元に人差し指を1本添えいつものように独特な笑みを浮かべる六道様と、その後ろには雲雀様の姿が。

「静かに。君は僕達が部屋の中に入ったらすぐにここから立ち去りなさい」

誰にも気付かれないようにと言ってザンザス様の後をついて会議室の中へ入って行く六道様、その後に雲雀様も会議室の中に入りドアが閉められた、辺りは再び静まり返る、私は壊れるんじゃないかってくらい動いて動いて止まらない心臓を感じながら、やっとの思いで自分の部屋の前まで歩き、ドアの前にゆっくりと腰を降ろした。

「何をしているんですか」

あれからどれくらい時間が経ったのだろう、自分の部屋の前で体育座りをしてうずくまっている私を起こしているのは、私を見て呆れた顔をしている六道様、よくよく見ると六道様の後ろにはザンザス様と雲雀様もいて、私は目を擦りながらゆっくりと立ち上がった。

「今、何時ですか」
「もう朝の3時ですよ、まったく君はどういう神経してるんですか、ここはベッドじゃないですよ」
「子供はまだ寝てる時間だよ、さっさと部屋に入って眠りなよ」
「手のかかるガキが」

3人に言われた言葉はすべて私が部屋の前で寝ていたことに対しての言葉ばかりで、夜に起こった会議室でのことには誰ひとりとして口に出さず触れようとしない、あんなところを私は見たのに、それでも隠そうとしてるんだ、もう、私はもう分かってるのに。

「夜に、会議室で一体何のことを話し合っているんですか」
「君に関係ありません」
「教えて下さい」
「ダメです」
「教えて下さい」
「ダメだと言ったでしょう、しつこいですよ」

六道様はいつもの調子でいつもと同じく秘密のことを話してはくれない、雲雀様もザンザス様も話す気なんてあるはずもなく口を閉ざしたまま、なんで、なんであなたたちはそうやって秘密だと言って隠すのですか、そんなに私やほかのバイト達を殺す計画を立てたいのですか、そんなことをして本当に楽しいのですか。
これじゃあいつまで経ってもその危険から逃れる案なんて考えられるはずがない、私達は大人しく殺されるバイト最終日まで待ってることしかできない、いやだ、そんなのいやだ、まだみんなと生きたい、のに。

「あ、あなた達は、私に、秘密ばっかりで、何も、何も言ってくれ、ません」

無意識の内に流れていた涙と共に出た言葉はほとんど言葉として口から出ていなかった、何とも幼稚なことを言ってしまったと思いながらもこんなことしか言えることができなくて、私は涙を拭いながらさっさと部屋へと入る、ベッドに潜り込み泣きながら思い出すのは、私の言葉を聞いたときのあの3人の少し歪んだ顔だった。

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