昼になり3人の主達に昼食を渡し終えた私は一息ついて広間のソファへと腰かけた、ため息を吐いて思い出すのは今日の朝の出来事、さっきは雲雀様の前で唐突に泣き出してしまった、今更ながらにそんな自分に恥を感じる。
でも雲雀様はいつまでも泣きやまない私にいつものように乱暴な言葉をかけるわけでもなく、ただずっと傍にいてくれた、泣いている私の傍にずっと居てくれて、あーあ、なんか恥ずかしい、今になってよく考えるとすっごい恥ずかしい。
ふいにポケットから雲雀様から手渡された高価なハンカチを取り出す、洗って返しますって言ったけど汚いからいらないって言われたな、まあ雲雀様らしい発言だと思えばそうだけど。

これで私の部屋には雲雀様から貰ったハンカチが2枚存在することになると思うと、なんだか迷惑かけてるなあと自分のダメさに落胆した、そんなとき誰かが広間を歩いている音がして振り返ってみると、そこにはハルちゃんの主様の獄寺様がひとりで歩いていた、あ、そうだ。

「獄寺様!ひとつ聞いてもいいですか?」
「あ?なんだてめー」

私を見て思いっきり睨みをきかせてくる獄寺様に少々怯えつつ、ハルちゃんと同じくここのメイドをしてますと告げると、へえと何とも興味なさそうな返事が返って来た。

「あの、10代目って誰のことなんですか?」
「なんだてめえ、10代目のこと聞き出してどうする気だ、まさかスパイか!?」
「いやいやいや、スパイとかじゃないですから、ちょっと気になっただけですよ」

そう言う私に、辺りを見渡し誰もいないことを確認した獄寺様は、私の傍までダッシュで近づいてきたかと思えば、仕方ねえなと言って頬を赤らめながら1枚の写真を私に見せてくれた、え、誰だろうこの男の人、あ、もしかしてこの人が10代目?ええー、なんか10代目って感じじゃない気がするんですけど。

「どーだ!10代目は素晴らしいだろ!」
「いや、素晴らしいのかどうかはよく分かりませんが、獄寺様はこの人のこと好きなんですか?」
「そのお方はオレの大尊敬に値するお方だ、仕方ねえ、いまいちよく10代目の素晴らしさが分かってねえバカなお前にオレが直々に10代目の伝説を教えてやる!」

なぜだか話は10代目の伝説話へと変わってしまい、ベラベラと一向に止まる様子もなく目の前の獄寺様はどれだけ10代目が素晴らしい方なのかを語っている、ええーと、これはいつ終わるのかな、いや、たぶん夜まで終わらなさそう、この人すっごい熱く語ってるし、こんなことなら声かけなきゃよかった。
相槌を打つのも疲れてきた私は、ほとんど引きつった苦笑いを浮かべながら夢中に話している獄寺様の話を聞いている、誰か助けてくれと思った瞬間、私の耳に天からの声が聞こえてきた。

「獄寺様!!見つけましたよ!もう逃がしません!」
「ハルちゃん!」
「げっもうきやがった、おいお前、またあとでゆっくり10代目の伝説話してやっからな」

獄寺様は嬉しくない約束をしてダッシュで走り去る、それを待てー!と言いながらダッシュで追いかけるハルちゃんはやっぱり私には気付いていないだろう、なんだかこの2人を見ていると本当にこの城に何か秘密があるのか疑問に思えてくるなと、私は小さく笑みを作った。
それから残り少ない自由時間を廊下を歩いて潰していると、突然ひとつの部屋から大きな声と共に何かが割れる音がして、私は驚きながらもなんだなんだとコッソリその部屋の中を覗いてみる、その部屋の中には城島と髑髏ちゃんがいて、ここは城島の部屋なんだと理解した。

「てめー何回言ったらわかんだこのカス!これで割ったの何個目だと思ってんだよ!!」
「ご、ごめんなさい、犬様」

すぐに片付けますのでと素手のまま花瓶に手を振れ案の定、指を切ってしまい痛そうな顔をする髑髏ちゃん、そんな光景をハラハラしながら見ていると、髑髏ちゃんが指を切ったことに気付いた城島がまた怒鳴り散らした。

「だから!なんで毎回壊すたび指切ってんだてめえ!!学習能力ねえのかっつーかもう拾うんじゃねえっつの!」
「で、でも、まだ破片が」
「うるせえびょん!てめえは黙ってろ!!」

なんだか怒鳴られすぎてだんだん髑髏ちゃんに元気がなくなってきた感じを受けた私は、急いで部屋の中に入って城島を怒鳴りつけようとしたがすぐにそれをやめた、私の視線の先には信じられない光景が広がっていて、私は驚きすぎて唖然とするしか出来なくて。
私の視線の先には何とも奇妙な光景が広がっていた、髑髏ちゃんの切れた指をタオルで包んで、出なくなってきた血を見ながらたどたどしくバンソーコを貼っている城島の姿、うそ、なにこの状況、城島が、あのかなりムカつく城島が、髑髏ちゃんの指にバンソーコ貼ってる、しかも顔真っ赤だし。

「犬様、ありがとう」
「う、うっせー!こんくらい自分でやれバカ女!」
「うん、ありがとう」
「…もうケガすんなよ」

城島の行動に驚いていた私は城島の言葉を聞いてさらに驚愕した、え、今なんて?城島なんて言った?え?なんかこれって私が邪魔みたいな、あーうん、よしさっさと消えよう。
なんだか顔を真っ赤にしている城島と嬉しそうに笑顔を浮かべる髑髏ちゃんの雰囲気に押されながら、私は気付かれないようにその場からそそくさと退散した、なんかハルちゃんといい髑髏ちゃんといい、幸せそうだなあ。
2人の楽しそうな姿を見て、この城の秘密について考えている自分がなんだか惨めに思えてきた私は、ため息をつきながら午後の仕事へと向かって行った。

午前中に干して綺麗に乾いた洗濯物を3人の主達へと持っていく、最後の部屋のザンザス様の部屋をノックし中に入り洗濯物を指定の場所へと置く。
たたみ崩れを綺麗に直しながらふいに背中に視線を感じ振り返ると、なぜだかデスクに座り私をジッと見つめるザンザス様の姿が目に入った、ずっと見ていてもザンザス様は私から視線を外さない、なんだか見ていられなくなって私は動揺しながらも再び洗濯物のたたみ直しの作業を始めた。

あれから数分、やっぱり見られてる、うん、確実に見られてるよね、すっごい視線感じるし、え、もしかして私の背中に何かついてる?それってかなり恥ずかしいんですけど、うわ、どうしよう。

「あの、私の背中に何かついていますか?」
「うるせえ」
「すみません」

いつもの条件反射でとっさに謝ってしまった、いやだって、真っ赤な目の傷だらけな顔でジッとこっち睨んでくるから勝手に体が謝っちゃうというか、いや、それよりまだ見られてる、よね。
一体なんなんだと冷や汗を流しつつ、いつもより大分遅くなってしまった、たたみ直しの作業をやっとで終えドアへと近づきザンザス様に礼をするため振り返る、そしてやっぱり合ってしまった私とザンザス様の視線、ほんとになんでですか。
あんまりにもじっと見つめられてるもんだから、もう何を言えばいいのか分からず私はそのまま頭を下げてさっさとザンザス様の部屋から退出した、あーびっくりした、なんで今日はあんなに私のこと見てきたんだろう、しかも睨んでるみたいだったし。

あの人は顔だけで恐すぎると何とも失礼なことを考えてふと思い出す、そういえば最近、ザンザス様も雲雀様と同じく毎日朝食を食べてくれるようになった、それに前は日課になるほど毎日やっていた暴力のようなものも最近は全然やらない、やってこない。
それはザンザス様だけじゃなく、六道様や雲雀様にも言えることで、3人共最近はなぜだか凄く大人しいなと、私は疑問を感じた。

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