「はあ…」
「ため息なんてついちゃってどうしたの正チャン」
「うわ!びゃ、白蘭さん、いきなり現れないで下さいよ、ぐあ、お腹が」
「大丈夫?いつも大変そうだねー」
「大変ですよ、やらなきゃいけない仕事だって山ほどあるのに使えない部下がいるし…白蘭さんにこうやって無駄にちょっかいだされるし…」
「なんか言った?」
「いえ」
「疲れたときには甘いものだよ、僕のマシュマロあげよっか?」

ニコニコと本当に楽しそうに笑みを浮かべ僕にマシュマロを差し出してくる白蘭様。そんな白蘭様に結構ですとはっきりと否定を示し再度仕事に没頭する。それなのにせっせと手元の書類を確認している僕の隣から白蘭さんがいなくなる気配は一向にない。少しでも察してもらおうと隣にいる白蘭さんに目配せをするが、いつもの笑顔でやり過ごされてしまった。だめだ。どうしてこの人はこんなに人をからかうのが好きなんだろう。
わざわざ話を無理矢理中断させて仕事に取り掛かったのにこれじゃあ意味がない。僕が仕事に集中したいという雰囲気をまとわせているのに。これがまったく鈍感なあのバカ女だったらまだわかる。ああ、こいつはバカだから仕方ないなで僕も諦めがつくが、白蘭さんは全部分かっててわざと隣に居続けるから相当タチが悪い。本当に勘弁してくれ。

「…白蘭さん、僕仕事してるんですけど」
「僕のことは気にしないでいいよ」
「いや、そう言われても隣に居られると」
「ああ、気になっちゃう?」
「…お腹痛い」
「また?正チャンは大変だねー」

お腹を痛がる僕の姿を見る白蘭さんは、マシュマロを頬張りながら面白いものを見るように笑顔のまま僕を見つめる。この人本当に僕のこと心配してないだろ。まあそんなこと最初から分かってるけどさ。分かってるけど。お願いだから目の前で笑わないでくれ!なんかこんなことでお腹痛めてる自分がすんごい惨めになってくるから!泣きたくなってくるから!ぐおおお!あ、また白蘭さん笑ってるよ。ヤバイ、本気で泣きそう。
自分が情けなくてすっかり肩を落としている僕に、突然何かを思いついたかのように白蘭さんが声をかけてきた。

「悩みがあるんだね、言ってごらん」
「そんなもの…」
「あるでしょ、僕が解決できるものならなんでも協力するよ」
「それじゃあ、あのバカ女どうにかして下さい」
「バカ女?」

不思議そうに頭を傾げる白蘭さんにあの女ですと指さしをしてその人物を教える。僕の指さした方向に顔を向けた白蘭さんはあの女を目にして納得したようにマシュマロを一口。こうなりゃヤケだ。僕のストレスの原因の半分以上を占めているあの女を白蘭さんにどうにかしてもらおう。どういうわけかあの女は白蘭さんの言うことだけは素直に聞くし。何より僕のストレスが少しは和らげるだろう。

「あの子のどこが嫌なの?あんなに面白い子そういないと思うけど」
「まったく面白くありませんから、むしろ存在してるだけで不快ですから」
「あらら、正チャンご立腹だね」
「白蘭さんから言っておいてくれませんか、あいつ白蘭さんの言うことだけは素直に聞くので」
「なんて言えばいいの?」
「とりあえず仕事溜めるな頭を良くしろ会話の勉強をしろ空気を読め騒ぐなはしゃぐな遊びたいなら余所に行け」
「ずいぶん嫌ってるね」

よほどおかしかったのか少しだけ声を出しながら笑い、しっかり言っておくよと僕に手を振り白蘭さんはやっとで退出していった。ひとつ大きなため息を吐きながらも僕はなんだか気分が良くなった気がして、再度仕事に没頭する。なんだかんだ言ってもやっぱり白蘭さんは頼りになる人だ。これであの女も少しは行動を慎んでくれたら本当に助かる。
こんなことばかりを考えていた僕には気付けなかった。部屋を退出した後、白蘭さんがニヤリと口角を上げていたことに。

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