入江様は短気だと思う。

「入江様、コーヒー飲みますか?」
「君が淹れてくれたの?珍しく気が利くじゃないか、って甘!!ちょ、甘!甘いって!」
「あはは!入江様なんて言ってるかわかりませんよー」
「笑ってんじゃねえ!!まさかわざとか!?わざとやったんだなお前!!」
「何がですか?」
「だから!このコーヒー甘すぎっていうか砂糖の味しかしないんだよ!」

またお腹が!と叫び切羽詰まった顔で入江様は必死になってお腹を手で押さえている。突然の入江様の変化にキョトンとしている私を、入江様は冷や汗が滲む顔でギロリと睨みあげ僕を殺す気かと声を荒げた。えええ、入江様を殺すなんて滅相もない。そんなことを今まで考えたことすらないのにどうしていきなり。困惑しながらもいまだお腹を押さえて悶えている入江様を視界に入れつつ、入江様に手渡したコーヒーに目を向ける。まさか入江様はこれのことを言っているのだろうか。

「お口に合いませんでしたか?」
「合うかそんな甘ったるいもん!何!?僕への日頃の恨みを込めて淹れたコーヒーなのかこれは!?」
「えええ!そんなわけないじゃないですか、入江様のコーヒーは私の自信作ですよ」
「そうか、確実に腹を痛められるように作ったコーヒーの中で一番の自信作を僕に渡したんだな君は」
「違いますよ、入江様に渡したのは私が今まで淹れてきたコーヒーの中で一番おいしくできたコーヒーですよ」
「おいしい!?これがおいしいと言うのか君は!」
「え、甘くておいしくないですか?」
「この味覚音痴め」

お腹と頭を抑え盛大なため息を漏らす入江様。そんなに私の淹れたコーヒーがおいしくなかったのだろうか。そんなバカな。こんなに甘くておいしいコーヒーをまずいなんて、入江様のほうが何倍も味覚音痴なんじゃないのかな。とにもかくにも、せっかく毎日忙しい入江様に喜んでもらおうと腕を振るっておいしいコーヒーを淹れたのにこれじゃあ全部台無しだ。というか良かれと思ってやってることが全部裏目に出てる。

「入江様大丈夫ですか?」
「君のせいで全然大丈夫じゃないんだけど」
「それじゃあもう一回コーヒー淹れてきますね、今度はおいしくできる気がするので」
「やめろ!もういいから!君は何もしなくていいから!ただ座っていてくれればいいから!」
「え!?それって今日の仕事は無しってことですか!?やったー!白蘭様の部屋掃除しに行こう!」
「違う!!んなわけねーだろ!仕事溜めまくりのくせに休めると思ってるのか君は!あーお腹痛い、疲れる、ほんっと疲れる」
「疲れたときには甘いものですね!私の特製コーヒー淹れてきましょうか?」
「誰かこいつを叩きだしてくれないか」

やっぱり入江様は短気だ。

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