「うーん、どうしよう」
「なにが?」
「白蘭様を喜ばせたいんだけど、何をすれば喜ぶのか全然思いつかなくてさー」
「あんな奴のご機嫌とりなんていちいちしなくていいじゃん」
「あんな奴って、白蘭様はいい人だよ、あ!野猿!!」

なんだか聞き覚えのある声だなと思いながら後ろを振り返ると、ニッコリと悪びれた笑みを浮かべ窓から顔を覗かせている野猿の姿があった。気付くのおせーよと言う野猿のそばへと近付き久しぶりだねと声をかける。かなりねと返事を返し窓のふちに腰掛ける野猿は以前見たときよりも少しだけ大きくなった気がした。

「野猿がこっちに来るの珍しいね」
「オイラだって来たくて来たんじゃねえよ、仕事だ仕事、そのついでにお前の顔見にきただけだし」
「いやー、それほどでも」
「褒めてねえけど」
「ほんと野猿と会うの久しぶりだよね、ちょっと背伸びた?」
「マジで!?それほどでもねえけど!」
「褒めてないよ」

あまり会話とは言えない会話を野猿として、やっぱりお互い変わってないなと顔を見合わせて笑い合う。ホワイトスペルの私はブラックスペルの人達とあまり関わったことがなかったけど、野猿とだけは少しだけ一緒になったことがあり年も近かったおかげで少しずつ仲良くなって。今ではお互いすごく話の合う友達にまで昇格した。

「それにしてもお前は相変わらずバカのまんまだなー」
「えええ、うそー」
「だって久々に会ったってのに、全然バカだし頭良くなってねえし」
「…なんか最近バカって言われる回数が多くなった気がする」
「それよりお前白蘭のご機嫌取りするんじゃねえのかよ」
「ああ、そうだった!ていうか様!白蘭様ね!何したら喜んでくれると思う?」
「お前ほんと白蘭大好きだな、つーかなんでそんなこと考えてんの?またドジしてとうとう白蘭のこと怒らせたとか?」
「だから白蘭様!白蘭様は失敗しても笑って許してくれる優しい人だよ、そうじゃなくて最近仕事で疲れてる白蘭様に何かしてあげたいなーって思って」
「アホらし、どうでもいいじゃんそんなこと」

面倒臭そうにあくびをしながら言う野猿にどうでもよくないからと声を荒げるが効果は無し。しょうがなく野猿の綺麗な長い髪をちょいちょい触りながらひとりで考えていると、突然何かを思い出したかのように野猿が口を開いた。

「お前がブラックスペルにいたら毎日遊べたのになー」
「無理無理、私ビリヤードできないもん」
「ビリヤード関係なくね?お前は太猿兄貴達が苦手なだけだろ」
「ちょっとね、逆に野猿がホワイトスペルにいたら毎日楽しかったのにー」
「無理無理、オイラ白くてふにふにしたの好きじゃねーもん」
「マシュマロね、白蘭様もアイリスもジンジャーもみんないい人だよ?」
「いやだね、あんないけすかねえ奴らのどこがいい人だよ」
「私もいけすかない?」
「お前はバカだから全然オッケー」
「意味わかんないんだけど!」
「それにあいつ、あの眼鏡のガリ勉モヤシ!オイラあいつも気に食わねえ」

途端不機嫌な顔になった野猿は眉間にシワを寄せ口をへの字に曲げている。眼鏡のガリ勉モヤシって誰のことだろう。そんな人ホワイトスペルにいたかな。眼鏡眼鏡眼鏡。いつも仕事ばっかりしてるモヤシ。あれ、もしかして入江様のこと言ってる?そうだ、入江様もいたんだった。どうしよう、すっかり忘れてた。

「それって入江様のこと?」
「当たり、つーかそんなヤツに様なんてつけなくていいだろ、モヤシで充分だ」
「たしかによくお腹痛めてるしなー、仕事やり過ぎるとすぐフラフラしてるし」
「お?お前も言うじゃん、やっぱモヤシだろあいつ!」
「髪とか面白いよね!モコモコしてて!あ、でもアイリスのほうがモコモコしてた」
「モコモコってなんだよ!モコモコって!」
「どうしよ、想像したらほんと、ププーッ!!」
「あははっ!なあ、お前もしかしてモヤシのこと嫌いなの?」
「え?嫌い…?」
「僕の話はそんなに面白いか?」
「もう最高です、って入江様!?」

仕事ほったらかして何遊んでんだこのバカ女!!と突如現れた入江様に物凄いスピードで連れ去られ、私は泣く泣く野猿に別れを告げる。
弱々しいモヤシな印象が強かった入江の意外な一面と、必死に謝るあいつの姿を見て野猿は残念そうに小さく呟いた。

「なんだ、けっこー楽しそうにしてんじゃん」

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