「知ってる?あんたみたいなのをバカって言うんだよ」

そう言ってよく冷えたタオルを私の額に乗せてくれたアイリス。そんなアイリスの呆れた眼差しを受け、罰が悪そうにベッドに少し潜り込んでいるのは熱さで意識が定かではない私。当然のごとく風邪を引いてしまった。理由は明らかに昨日の雨でずぶ濡れになってしまったからだろう。風邪なんて久しぶりに引いたと掠れた声で言う私に、ベッドに腰かけるアイリスはそうだねと素っ気ない返事をした。

「アイリス、なんか今日冷たいね」
「当然でしょ、あんたの任務変わるはめになったんだから、おかげで今から仕事行かなきゃいけないんでね」

今日せっかくの休みだったのにと機嫌悪そうに呟くアイリスに本当に申し訳なくて、何度も謝罪の言葉を述べると顔を歪めながら気持ち悪いと言われた。ええー、気持ち悪いって、私謝っただけなんだけど。

「あんたが謝るとかありえない、何?風邪で頭もおかしくなっちゃった?」
「アイリス私のことなんだと思ってるの」
「おバカちゃん」
「可愛く言っても傷つくんですけどー」
「まあいいからあんたは寝てなさいな、じゃあ私仕事行ってくるよ」
「ごめんね」
「それ聞き飽きた」
「…ありがとう」
「はいよー」

立ち上がり私に背を向けたまま軽く片手を振りドアへと歩いて行くアイリス。そんなアイリスの後ろ姿にぼーっとする頭でどうやったらあんなもじゃもじゃのボンバーヘアになるのだろうと考えていると、バタンッ!と勢いよくドアが開いた。アイリスはまだ私の部屋の中にいてドアノブに手をつけていない。誰だろう。目がかすんでよく見えない。あ、メガネが見えた。たぶん入江様だ。

「こんのバカ女!!いつまで寝てる気だ!まさか仕事サボる気じゃないだろうな!!」
「大将ー、あの子風邪引いちゃってるんですからあんまり大声出しちゃダメですよ、それと任務は今から私が行きますんでご心配なくー」
「え、風邪?」

それじゃあとさっさと私の部屋を出て行ったアイリス。残った私と入江様は数分お互いを凝視。ハッと我に返った入江様が慌てて私から目を逸らし咳払いをひとつして私のそばへと近付いてくる。ベッドに横たえ体を動かすこともできずにぼーっとしている私を見下ろし、入江様は心底呆れたように大きくため息を零した。

「昨日の雨のせいだろ」
「ごもっともでございます」
「…ここまでバカだとは思わなかった、なんでお決まりの風邪なんて引いてるんだ、ありえないだろ、なんなんだよ君は本当に、あーお腹痛い」
「あ、胃薬どうぞ」
「それ下剤!!何!?それ飲んでもっと苦しめって言うのか君は!大体バカのくせに何風邪なんて引いてるんだ!」
「ちょ、そんなバカバカ言わないで下さいよ、アイリスにも言われて軽くへこんでるんですから」

立ったまま上から私を見下ろす入江様は不機嫌そうに眉を潜めてまたため息をひとつ。そんなにあからさまに態度で示さないで下さい。私が風邪なんて引いたせいでどれだけみんなに迷惑がかかってるかなんて自分でも痛いほど分かってますから。もう本当になんで風邪なんて引いたんだろ。昨日入江様のところから帰ってすぐ体を温めなかったのがいけなかったのかな。私ってほんとだめだ。というかいつもならこんなマイナス思考じゃないのに。
やっぱりアイリスの言う通り風邪のせいで頭おかしくなったかもと自分自身に呆れ、ベッドの中に少し潜り込んだ。

「…すみません」
「は?」
「迷惑、かけて、すみません」
「き、君が謝るなんて気持ち悪いな、風邪のせいで頭もおかしくなったんじゃないか」
「…アイリスにも同じこと言われました」

力無く呟く私に入江様は眉間にシワを寄せたまま数秒何かを考える素振りを見せ、そっと私のベッドに腰を下ろす。どうしたんだろうと入江様に視線を向けると、入江様は私を見ようとはせず視線を逸らしたまま私に問いかけてきた。

「…何か欲しいものは?」
「りんごジュース」
「それだけでいいの?」
「あとは値段の高いお菓子ならなんでもいいです」
「何?僕のラリアットをくらいたい?」
「え?私のパンツの色を知りたい?ちょ、セクハラはやめて下さい入江様」
「わかった、りんごジュースひとつね」

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -