「なんだこれは」
「報告書です」

私から報告書を受け取った入江様はニッコリと微笑む私とは対照的に、口元をひどく引きつらせこれでもかというほど眉間にシワを寄せた。

「僕にはぐちゃぐちゃに汚れた紙切れにしか見えないんだけど、ベタベタするし気持ち悪い、それになんか甘い匂いがする、え、なんで?」
「何言ってるんですか、またまたご冗談を」
「いや、誰の目から見たって明らかに汚れがひどいだろ、もうほとんど字も読めないし任務遂行したってことしかわかんないんだけど」
「そうなんですよ!今回は予定時間より全然早く終わったんですよ!もうほんと私嬉しくて嬉しくて、ここに来る前にアイリスからケーキ奢ってもらったんです!おいしかったー」
「原因はそれか!!どうせ口の周りについたケーキをこれで拭いたとかしたんだろ!ティッシュじゃないんだぞこれは!」
「そうなんですよ、ちょうど何も拭くもの持ってなくて手元にあったのがそれだったんですよねー、まさか報告書だったなんて思いもしなくて、ほんとすみません、あはは」
「笑ったな、笑ったよね、よし、白蘭さんに報告しよう」
「えええ!ちょ、待って下さい!それだけは!それだけはどうか…!」

必死に許しを乞う私を無視して、白蘭様の元へスタスタと歩きだす入江様に私も負けじと着いていく。せっかく白蘭様に褒めてもらいたくて予定時間よりも大分早く終わらせてきたのに。報告書で口の周りについたケーキを拭ったなんて知られたら、明らかに幻滅されて白蘭様の私への評価が格段に下がってしまう。そんなの嫌だ。白蘭様に褒めてもらいたくて頑張ったのにこれじゃあ意味がない。
依然、白蘭様の元へと向かう足を止めない入江様を止めようと入江様の隊服をグイグイ引っ張っていると、入江様の前から聞き慣れた声が聞こえてきた。これは思わぬ助け船。立ち止まった入江様の背後からひょっこりと顔を出し、前方にいる知り合いに笑顔を向けた。

「アイリス!」
「やほー、あんたほんとバカだねえ」
「え、アイリス知ってるの?」
「実はさっきからずっと見てたんだよね、ケーキあげたときティッシュと報告書間違えるなって何回も言ったのにさー」
「ごめん、間違えちゃった」
「その前に言われなくても誰も間違えたりしないから、逆になんで間違えるのか聞きたいんだけど」
「すみません、ケーキがおいしくて」
「それ理由になってないからね、ケーキがおいしかったから間違えたって何?ケーキがまずかったら君は間違えなかったとでも言いたいの?」
「え、ちょ、待って下さい、いきなりそんな難しいこと言われても」
「どこが!?僕何か難しいこと言った!?」
「まあまあ、ここは私に免じて許してやって下さいよ大将」
「意味がわからないんだけど」

盛大なため息を漏らし、突如いつもの腹痛に襲われた入江様はぐおおと悲痛な声を廊下に響かせお腹を抱え必死に元来た道を戻っていく。どうやら白蘭様に私が報告書を汚くしたことは言わないことにしてくれたらしい。なんだかんだでやっぱり入江様は優しい人だ。

「白蘭様!入江様は今日も元気に腹痛に悩まされていました!」
「また?正チャン大丈夫かなー」

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -