ガラガラガッシャン!テーブルの上に散らばったジェンガにさらに気分は落ちる。そろりと視線を向けるはパソコンの前で無心になってキーボードを叩く入江様の後姿。最近は仕事が立て込んでいるらしく、夜になって部屋に行っても前のようにゲームをして遊んではくれず、ずっとパソコンの画面と向き合っている。仕事の邪魔はできないとひとりでいろいろ遊んでみるがひとりだとどうにもつまらなく、得意なジェンガもすぐに崩してしまう。

何度もコーヒーを淹れ直し何度もお腹が痛いと薬を飲む。時折あーもう!など叫びながらデスクを叩く入江様の背中を私は見つめることしかできず、ジェンガを諦めオセロに手を出した。声をかけたくても背中から声かけんなオーラを大量に放出しているため声もかけられない。ぴりぴりと緊張が走る嫌な空間となった入江様の部屋で、私は今日もひとりでゲームをする。
部屋の中には休むことなくキーボードを叩く音とジェンガの崩れる音だけが響いていた。

「相変わらず今日も機嫌が悪いねえ、うちの大将は」
「…うん」
「夜もあんな感じ?」
「うん、ずっとパソコンやってる」
「はあ、なんだかねえ」

翌日も入江様は不機嫌も不機嫌で、ずっと眉間にシワを寄せている。それに寝不足もプラスされ時折うとうとしながら足取りはよろよろ。あんなに何日もほとんど寝ないで仕事してるんだから当たり前だ。ひどいときは朝まで仕事をしてるときもある。大丈夫かな。いや、大丈夫じゃないよね。もうくたくたで本当なら今すぐにでも熟睡したいほど疲れてるはず。だめだな私。結局なんの役にもたってない。どうしよう、一体どうすれば。

「なーにシケた顔してんの、らしくないねえ」
「アイリス、私どうすればいいのかな」
「あんたはいつも通りでいいの」

そう言って私の頭を数回撫でてアイリスは仕事に戻る。入江様に目を向ければやっぱり不機嫌そうで疲れているのがよくわかり、私は意を決して入江様に近付いて行った。

「入江様!疲れてるときは甘いものですよ!私が直々にコーヒーを淹れてあげます!あっまいやつ!」
「いらないよ、君のコーヒーはまず過ぎる」
「ええっと、じゃあキャンディー!キャンディー食べますか?」
「…悪いけど放っといてくれないか」
「味はどろんこ味にミジンコ味、それから象の足裏の皮膚の味もありますよ!すごいですよねー、どれに、」

バン!と私の言葉を遮り強くデスクを叩いた音が響き、その場にいた人達は一瞬で静まり返る。デスクに手をつき顔を俯けイライラしているのか大きくため息をつく入江様。体中に緊張が走り額に冷や汗がじわりと滲んだ。

「僕の、視界に入るな」

震えている声とぎりぎりと力が入れられている手。入江様は完全に怒っている。それでも、ここにはほかの人がいるからと必死に怒りを静めようとしているのがわかった。
さっさと私の元から立ち去る入江様の後姿を、私はまた見ていることしかできなかった。

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