「あーいたいた、ちょっとちょっと」
「なに?」

仕事中、私を見かけたアイリスは興味津津な表情をして私を呼んだ。一体どうしたのかと疑問に思いながらもアイリスに近寄ると、相変わらずのボンバーな髪型にしか目が行かずどこ見てんのよと小突かれてしまった。

「いたっ、なんで叩くのー」
「あんたが変なとこ見てるのが悪いんだよ、それよりあの噂って本当なの?」
「うわさ?」
「ほら、あんたが毎夜大将の部屋通ってるっていう噂」
「あ、それはほんとだよ」
「だよねー、私もさ、白蘭様一筋のあんたがそんなんするわけないって思ってたのよ、やっぱ嘘だったんだねえあっはっは、ってええええ!!」

ほんと!?ほんとなの!?と珍しいくらい声を荒げて驚いているアイリス。私の肩を掴んで容赦無くぐらぐらと揺すってくるから正直頭が痛いし目が。目が回るよアイリス。というかそんな噂流れてたんだ。全然知らなかったな。それじゃあもうみんな知ってるのかな。

「ちょっと待って!頭が、頭が追い付かない!なに、え、あんたが、え!?」
「ア、アイリスどうしたの?あ、私キャンディー持ってる!あげよっか?」
「いいいらないから!ていうかなんで当の本人のあんたはそんな落ち着いてられんの?なに、私が変なの?」
「ちょ、アイリス見て見て!アイリスの髪にどんどんキャンディー埋まってく!もっとキャンディー埋めていい?」
「ああ、そういやあんたはそれが普通だったわ、ちょっとこっちきて!」

少し落ち着きを取り戻したアイリスはキャンディーを埋め込んでいる私の手を掴み誰もいない個室へと駆け込む。バタンと扉を閉め、扉の外に誰もいないかを入念にチェックし私と向き合う。あまりにも血相を変えて私を見てくるものだから、アイリスにつられ私も言いようのない焦りを感じ口を閉じた。

「ア、アイリス?」
「さっきの話、本当に本当なの?」
「う、うん、本当だよ」
「…マジで」

突然全身の力が抜けたようによろよろと壁に背中を預け顔に手を添え俯くアイリス。長い沈黙。アイリスはなにも言わない。そのアイリスの姿があまりにも初めて入江様の部屋に訪れたときに見た入江様の姿と似ていて、私は眉を潜める。

「アイリス、あの」
「…あんた、なんでそんなことするわけ」
「え、えっと、白蘭様が入江様の疲れをとってあげてって」
「…命令?」
「う、うん」
「でも、でもさあ、こんなのないじゃん!言っとくけどねえ、私はあんたのこと友達じゃなく自分の娘と思うくらい親の目で見てんだからね!あんたはバカだから、ほんっとバカだから!だから私が護ろうって、それなのにこんな簡単に、白蘭様の命令でもさあ!ひどいじゃん!しかも相手がよりによって大将!?あんたの純潔が大将に奪われるなんて!!あんたの相手はもっと優しくて世話好きな人がいいって考えてたのに!」
「で、でも入江様ジェンガ苦手でいっつも崩すからちょっと面白いよ!」

ぴたり。さっきまでわんわん泣き喚いていたアイリスの泣き声が突然止まった。どうしたものかと焦りに焦っていると、アイリスはずっと手で隠していた顔をそっと私のほうに向け私をガン見。涙でぐちゃぐちゃな顔をぐいっと私に近づけてくるアイリスに一歩後ずさる。ごめん、ちょっと怖いよアイリス。

「ジェンガってなに」
「ア、アイリス知らないの?ええっと、なんかタワーみたいに組み立てたのからひとつずつ抜き取って」
「違う!そうじゃなくて、あんた一体大将の部屋でなにやってるわけ!?」
「なにって、いろんなので遊んでるよ、ジェンガでしょ、あとオセロとかカードとか、オセロは一回も入江様に勝ったことないから今日また挑戦してくる!」
「な、なにそれ」

再び力が抜けたように今度はずるずるとその場に座りこんだアイリスに伴い、私もアイリスの目の前に座り込む。アイリスは私を見ると心底安心したようにニッコリと笑った。

「なんなのかねえ、さっきまでの私の心配を返せって感じ」
「心配してくれてたの?ありがと、アイリス」
「ほんとにわかってるのかねえ、このおバカさんは」
「キャンディー食べる?」
「はいはい、てか毎日ゲームするために大将の部屋行ってるだけっしょ?命令はいつまで続けるってことになってんの?」
「ちゃんと入江様の疲れをとるまで続けることになってるよ」
「あーそれじゃあ当分は続けなきゃだめじゃん、あの人最近は余計に疲れが溜まってる感じするし、あんた逆に大将のこと疲れさせてるんじゃない?」
「やっぱり、そう思う?」
「んー、たぶんね」
「…本当は、」

なぜだかずっと引っかかっていた入江様の部屋に訪れた初日のことをアイリスに話した。白蘭様に言われた通りのことを実行しようとしたら入江様に拒否をされたと。それをひどく真剣に、そして驚きながら聞いていたアイリスは考える素振りを見せ黙り込む。少しの沈黙のあと突然なにかに気付いたようにニヤリと口角をあげた。

「へえ、大将もなかなか捨てたもんじゃないわ」
「なにが?」
「別に、少しは安心できたってこと」

間違っても大将を誘惑するようなことはしちゃダメよと一言言うと、そろそろ仕事戻ろうかとアイリスは部屋から出る。それに続いて私も部屋を出た。

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