「そーっと、そーっとですよ」
「わかってるよ、うるさいな」
「慎重にです!慎重に!あ、慎重って背のことじゃないですよ、えーと、ゆっくりな感じのほうです!」
「わかったから、少し黙っててくれないか」
「あー!そこはだめですって!もっとゆっくりやらないと!身長にです!あれ、間違った、慎重にです!」
「だー!うるせえ!!」

ガラガラガッシャン!何とも耳障りな音が部屋中に広まったと同時にそこら辺に散らばるジェンガ。綺麗にたっていたジェンガが一瞬にして崩れ去る様は何度見ても悲しくなる。せっかく順調だったのに。これも入江様が焦ったせいだ。テーブルを挟んで向かい合うように座っている入江様に対し、私は何とも不機嫌な視線を向けてやった。

「せっかくいいとこまできてたのに、どうして途中で集中切らしちゃうんですか!崩してるのだっていっつも入江様なんですよ!少しは学習して下さい!」
「お前が学習しろ!!お前が毎回毎回うるさく喋るから気が散ってうまく取れないんじゃないか!」
「私はアドバイスしてるだけです!」
「なあにがアドバイスだ!慎重と身長の違いもわからないくせに!あーもう、ほんっと疲れた」
「疲れました?それじゃあ次はオセロでもしますか!」
「どうせまた僕が勝つ」
「わかりませんよー、今日は私が勝ちます!」

パチン。オセロが始まった。ひとつ置くたびにうーんと頭を傾げる私とは違い、向かいに座る入江様は何とも涼しい顔でさっさと間髪入れずに置いていく。ちくしょう。悔しいけどやっぱり入江様は頭がいいな。オセロじゃ到底敵わない。ジェンガじゃ私が上だけど!あれ、なんか考えてるうちにほとんど黒一色になってる。い、いつの間に。私の白、ええっと、どうしよう勝てない。このまま黒が多くなったら入江様が勝って私が負けて、つまり白を多くしないと私は勝てないんだけど、うわ。だめだ頭痛い。えーと、私が白で入江様が白で、あれ、私が黒だっけ?

「私の勝ちー!」
「なに言ってるんだ、どう見ても僕の勝ちだろ」
「だって私が黒ですよ?」
「おい!!なにちゃっかりとぼけてんだお前!君は白、僕は黒!結果僕の勝ちだろーが!」
「違います!私の勝ちですよ!だって私は白で入江様が黒で、あれ?私が白、えーと」
「とうとうバカの上に頭まで沸いたか、あーもういいよ、寝る」

お腹痛いとお腹をさすりつつ、よく見る眉間にシワを寄せた苦しそうな顔をしてのろのろと入江様はベッドに潜り込む。すかさず電気を消して私も入江様のベッドに入り込もうとすると勢いよく蹴り飛ばされてしまった。

「いたっ!」
「バカか君は、何度も言ってるだろ、君の寝る場所はそこのソファだって」
「ソファは寝心地が悪いです、それによく落ちます、痛いです」
「文句を言うな、白蘭さんに命令されてるから仕方なく君を部屋に入れてるだけで、本当はすぐにでも君を叩き出したいのを我慢してやってるんだぞ、…本当になんで僕がこんな女のお守なんて、大体白蘭さんは、」

気遣いをしてくれるならもっとマシな気遣いをしてほしい、ただでさえ疲れてるのにこんな女を部屋に入れられちゃ余計疲れる、もう最悪だよほんと、白蘭さんひどすぎる。どうせ僕が疲れ切ってる姿を見て楽しんでるんだ、最悪だ、うう、お腹痛い。
ぐだぐだとベッドに潜り込み愚痴をこぼし続ける入江様に何も言わず、私は言われた通り近くのソファへ。ソファに寝転び毛布をかけて目を閉じてもぐだぐだとベッドのほうから念仏のように入江様の愚痴が聞こえてきた。やっぱり疲れ、とれてないんだな。

一週間前。私は白蘭様に頼まれ入江様の疲れをとろうと、震える手で必死に自身のパジャマのボタンを外そうとした。初めてのことに緊張と恐怖を抱きながらそれでも白蘭様からの命令は絶対だと、私は手を動かす。ひとつ目、そしてふたつ目のとき。入江様の大きな手が私の手を握りしめた。

「や、やめろ」

やめろ、と。そして有無を言わさぬ声色でソファで寝ろと言われた。突然緊張の糸が切れた私は頭が真っ白になり何も考えられず言われたままにソファへ。ソファに手を添えそっと振り返ると、ベッドの上に座り込んだまま顔を俯けぴくりとも動かない入江様の姿が見える。ひどく俯いていて表情はわからない。怒っているのか呆れているのか。どちらにしろ、いつもの入江様ではないということだけは確か。それから今日まで、私はずっとソファで寝ている。私が同じベッドで寝ることを入江様は極端に嫌がった。それは今日も変わらず。
私は固く目を閉じた。

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