「なんだかなー、なんかだめなんだよなー」
「あんた誰」
「おお!スパナさんこんにちは!というか初めまして!」
「なんでうちの名前…」
「うわー、このロボットすごいでっかいですねー、あ!ちょっとだけ見学してもいいですか?仕事の邪魔はしませんので!」
「…あんた人の話聞かないな」

触らないでただ見ているだけならいいとやる気のない顔はそのままに、ロボットに触り始めるスパナさん。仕事再開ですかと聞くがスパナさんは軽く無視。そうだ、仕事の邪魔はしない約束だったと口を閉じキョロキョロと辺りを見渡しながらスパナさんの隣に座り込む。じっと初めて見るスパナさんの横顔を見つめていると、スパナさんは小さくため息をつきそれを取ってと私に指示を出してきた。

「え、このキャンディーのことですか?」
「そう、ふたつ持ってきて」
「はいどうぞ!」
「どうも。口開けて」
「え、私がですか?」
「そう」

意味もわからず口を開けるとぽいっと中に先程のキャンディーがひとつ放り込まれた。何とも甘い味が口いっぱいに広がり私は目の前のスパナさんに目を向ける。スパナさんも自分の口にキャンディーを放り込み少しだけ目を細めた。

「スパナさんありがとうございます!」
「菓子もあげたんだからそろそろ…」
「実は私、ずっと前からスパナさんに一目会いたいと思ってたんですよ!その念願が今日叶ってほんと嬉しいです!いやー、仕事抜けだしてきた甲斐ありますねー!」
「…ああそう」

何かを諦めたように元々タレ眉な眉を少し下げ、仕方なさそうにロボットいじりを再開させるスパナさん。ころころと口の中でキャンディーを転がしながらそんなスパナさんを横から観察。カチャカチャとスパナさんが使う道具の音だけが聞こえる室内で、私は思い出したかのようにそっと時計に目を向けた。もうここに来てからこんなに時間が経ってたのかと認識し、視線はまたスパナさんの横顔へ。スパナさんは私がいることなんか忘れているかのように真剣だった。

ふと、入江様の顔が浮かんだ。昨夜も私は入江様の部屋に行っている。白蘭様からの命令でもあの入江様のことだからさっさと打ち切らせて長くは続かないだろうと思っていたが、気付けば今日で一週間にもなっていた。どうやら何度白蘭様にやめて下さいと頼んでも、白蘭様がそれを承諾してくれないらしい。ここ一週間の入江様は変わらず不機嫌。よほど白蘭様の気遣いが気に入らないらしい。毎夜、私が勝手に入江様の部屋に入って待っていると入江様は心底嫌な顔をする。

まったく入江様は。どこまで白蘭様の気遣いを無駄にするんだろう。白蘭様は入江様の疲れをとってあげようと思ってるだけなのに。いや、ちょっと待って。もしかしたら、その疲れをとる相手が私なのが嫌なんじゃ、え、それじゃあ入江様が不機嫌になるのも私が嫌だから?いやいやいや、それなら今までもずっと入江様は私に対して不機嫌だったよ。あれ、そういえば入江様の笑った顔今まで見たことないな、あれ?じゃあほんとに入江様は私が嫌いでだからいつも。そうだ、私はどうなんだろう。

「ここで考えても解決はしない」
「…え?」
「戻ったほうがいい」

ロボットに視線を向けたまま淡々と話すスパナさんに私はすかさず立ち上がりありがとうございますと一度頭を下げると急いで走りだした。仕事場に戻るとアイリスがあんたどこ行ってたのと声をかけてくるだけで幸い入江様の姿は見当たらない。ほっと胸を撫で下ろすと同時に背後から肩を叩かれ飛び上りながらも私は勢いよく振り返った。

「やっほー、今までどこにいたの?ずいぶん探したよ」
「びゃ、白蘭様」
「まあいいや、それより今夜も正チャンの部屋に行ってね、正チャン最近はだいぶ疲れが溜まってるみたいだから」
「は、はい!」
「おかしいね、疲れは毎日君がとってあげているはずなのに」

一瞬、場の空気が冷やりと固まった。恐る恐る白蘭様に顔を向けると白蘭様は変わらず笑みを浮かべている。額にうっすらと冷や汗が滲んだと同時に私の頭に白蘭様の大きな手が優しくのせられた。

「お願いね」

まかせてください。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -