攻撃が西浦に変わり、守りの三星学園が西浦に対しツーアウト目をとっていた。

「三振しといて浮かれてんじゃねぇぞ!」

バッターボックスから降りてきた三橋くんは鼻歌を歌っていて、それを見た阿部くんが三橋くんに声を荒げた。

「マウンドでは投げてりゃいいけど、打席立ったら打者やれよ!…叶くんの球なんか打てません、とか思ってねえだろな」
「お、お、思って、ま…」

阿部くんの言葉に三橋くんは顔を青くして、さっさとマウンドに行ってしまった。
三橋くんは畠くんとかに対して持っている罪悪感のほかに、叶くんのことを尊敬してるんだ。そういえば叶くんも三橋くんに対してフォーク見せてくれたり、来たとき声かけてくれようとしてた。
マウンドに視線を向けると、攻撃は三星に変わっていて三橋くんがワンナウトをとっていた。

「9番ピッチャー、叶くん」

千代のアナウンスと共にバッターボックスに立ったのは叶くん。一瞬三橋くんの表情が変わったのを感じた。
1球目はボール、2球目の三橋くんのシュートを叶くんは打ち、それを田島くんがキャッチしファーストへ。叶くんはヘッドスライディングしたがアウトになってしまった。

「叶!練習試合でヘッドスライディングすんなよ、怪我したらバカらしいぜ!」
「…バカらしい?こっちはまだノーヒットなんだぞ、お前こそもっとマジメにやれよ…!」
「…なに!?」
「ファーストは3人もいらんでー、はよ自分の守備つけや!」

ファーストで叶くんと畠くんが言い合いをし、それを織田くんがなだめていた。
なんだかさっきのことを気にしながらも、守りに変わった叶くんの投球に視線を送る。叶くんは初めて1球目をボールで外し、そのままフォアボールで打者をファーストへ送ってしまった。
次の打者の阿部くんは1球目からバントをやり、ファーストに居た沖くんがセカンドへ。
阿部くんはアウトになり、次の打者の田島くんがバッターボックスに立った。

「しゃあす!」
「レフトセンター!もっと寄れ!」

フォークを打った田島くんに対して畠くんも警戒しているみたいだった。
田島くんがここで打ってくれれば沖くんが先取点を取ってくれる、頑張れ田島くん!
田島くんは1球目から振りに出てその球は内野を越え外野へ、沖くんがホームにスライディングし判定はセーフ。西浦の先取点が綺麗に決まった。

「うおおお!!」
「とったああ!!」
「せーの!ナイバッチー!!」

みんなと一緒に、私もグラウンドに向かって人差し指を立てた両手を振り下ろす。
勝手に緩む口元をなんとか隠し、これに続くようにと次の打者の花井くんに祈りを送る。1球目を花井くんはストライクし、キャッチがボールを零したおかげでファーストに居た田島くんはセカンドへと進んだ。
叶くんが投げた2球目の球を、花井くんは高いフライであげてしまいアウト。泉くんの声かけに反応し田島くんはダッシュでホームへと向かう。
2点目が西浦に入った。

「にってんめえ!」

田島くんの嬉しそうな声が聞こえてくる。
すごいすごい!ツーアウト取られたけどこれで2点目!みんな凄いよ!
どきどきと高鳴る心臓を押さえつつ次の打者の巣山くんを見る。叶くんは巣山くんに対しフォアボールで、巣山くんはファーストへと進んだ。
なんか、変。
明らかに叶くんの調子がおかしい。さっきのヘッドスライディングした辺りからなんだか叶くんの様子がおかしかった。そういえば畠くんとも何か言い合いをしてた。

「タイム!」

三星学園がタイムをとり、三星学園の内野選手が一斉に叶くんのそばへと駆け寄っていく。

「落ち着けよ叶、2点ぐらいすぐ返してやるって!」
「相手はあの三橋なんだぜ!」
「…いいかげんにしろよ、何度も言ってんだろ、三橋はいいピッチャーなんだよ、オレたちゃ今あいつにパーフェクトでやられてんだぞ」
「だって」
「お前ら誰もマジメに聞かねえし、三橋ですらオレがいい人だからかばってると思ってたみてーだけどオレは事実を言ってただけなんだよ」
「だって中学で全然勝てな…」
「勝てなかったのはお前らのせいだろ」

叶くんの言葉にみんなの表情が強張る。
叶くんが言おうとしていること、それは三橋くんがヒイキでピッチャーやってたんじゃないって否定できることなのかもしれない。
叶くんの必死の言葉にいつしかみんな耳を傾け聞き入っていた。
三橋くんもじっと叶くん達のほうを見ている。

「お前らオレが言っても言っても三橋はヒイキだっつって、あげくに試合で手を抜くようになったじゃねえか、あの状況じゃ勝てるほうが不思議だよ!」
「…手を抜いたのは、さ、最後のほうだけだろ」
「今日三橋が、力発揮してんのは捕手の力が大きいんじゃねえのか、畠!」
「!!」
「お前が三橋をバカにしないでちゃんと使ってれば、あいつは中学でもきっと今日みたいな投球できたんだよ!お前は正捕手のくせにずっと三橋を潰してたんだ!オレ達が負けてた原因は、ほんとはお前にあんじゃねえのか!!」
「それはあんまりだ!」

叶くんの言葉を遮るように畠くんを庇って、他の選手達が三橋くんのヒイキを主張している。聞いている私達は何がなんだかわからなくなってきた。
叶くん以外の人たちは三橋くんをヒイキだって思ってる、でも叶くんは違う。
叶くんは三橋くんの実力に気づいてて、三橋くんのことをヒイキでピッチャーやってたなんて思ってない。叶くんは事実を言ってるってさっき言ってた。
それじゃあ、叶くんは。

「お、ち、つけ!」

言い争いが止まりそうもなくなってきた状況に、織田くんが選手の頭を軽く叩いて悪い流れを止めに入った。
確か織田くんは高校から三星のみんなと一緒になったから、三橋くんのことは知らないはず。

「三橋になんかあんのも認めようや、そうせんと今の状況説明つかんやろ、それから叶、言いすぎや」

織田くんに指摘され、叶くんは畠くんに小さくゴメンと謝った。

「…畠がオレのために動いてたのはわかってる」
「いーよ、もう…」
「聞けよ!昔の話をしたいんじゃねえんだよ、お前らが三橋をなめてる限り今日勝てねえって言ってんだ!オレが三橋より上だっつうならオレを勝たしてくれよ!あいつをなめんのやめて真剣にやってくれよ!!」

叶くんの真剣な表情と言葉、これを聞いた三星の選手達は押し黙りさっきとは違う顔つきになった。
何かを覚悟したように、畠くんが一歩前に踏み出す。

「お前は三橋より上だ!今日勝てばそういうことになるんだな!」
「ああ!」
「宮川!吉!次からはなんとかして塁に出ろ!」
「え!?」
「そしたらオレと織田でお前らを帰す!必ず逆転してやる、だから安心して投げろ!」
「お、おお!!」
「よし!まずはこの回終わらせるぞ!元気出して行こう!」
「おお!!」

叶くんが本音を吐き出したことによって、さっきまでばらばらだった三星学園がみんな団結してまとまった。
阿部くんに言われながらも、その光景を三橋くんは静かに眺めていた。

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