「なかなか雰囲気のあるとこだね…」
「う、うん」

合宿場に着いた私達は目の前にある建物に呆気にとられていた。

「さあ着替えて掃除掃除!掃除済んだら山菜摘んできてね!」

監督の声でみんなは心底イヤそうな顔をしながらもいそいそと行動を始めていた、私と千代も別れて早速掃除を始める。

「サヤどこ掃除する?」
「うーん」
「…もしかしてまだあのこと怒ってる?あの時ほんとに先生の話長くて野球部のとこ行けなかったんだよ、ほんとだよ!ごめん!」
「わかってるよ、さ!早く掃除ちゃお!」
「うん!」

千代はニッコリ微笑んですぐに雑巾をとりに行った、よし、私も掃除しないと。
辺りを見渡すとほとんどみんながテキパキと掃除を始めていて、凄いなーみんな手際良くて、ええとどこか拭こうかな。
見つけてきた雑巾を2枚程洗ってホコリっぽい場所を拭き始める、バタバタと騒ぎながら掃除してる男子も居た、えっと、あの人は田島くんだよね、そんであそこに居る人が泉くん、よし!完璧に名前覚えた!
ふと視線を変えるとそこにはオドオドと辺りを見渡している三橋くんが居た、三橋くんどこ掃除したらいいのか分からないのかな、よっよし、思い切って声かけてみようかな。

「み、三橋くんっ」
「ひっ、え?」
「こことか、たくさんホコリあるよ」
「あっう、うん」

三橋くんはオドオドしながら私が教えた場所を丁寧に拭き始めた、やった!野球部の人と初めて喋った!
チラリと三橋くんに視線を向けるとなんだかホコリの取り方に悪戦苦闘しているみたいで、私はソッと三橋くんの傍へと移動した。

「三橋くん、こういうホコリはこうやってとれば綺麗にとれるよ」
「う、うんっ」
「そうそう、そうやってとればすぐ終わるよ」
「あっあり、あ、」

何かを言いたそうに口ごもる三橋くん、真っ赤になってる三橋くんをじっと見ながら私は三橋くんの言葉を待った。

「あ、ありが、」
「サヤー!山菜とりに行こ!」

三橋くんの言葉を遮って聞こえてきたのは千代の声、私はすかさず返事をして三橋くんにまたねと言い千代の元へと急いで行った。

「三橋くんと掃除してたの?」
「うん!ホコリとってた」

千代と話しながらチラリと三橋くんへ視線を向ける、三橋くんは監督と阿部くんと一緒にどこかへ行く途中だった、2人は別メニューなのかな。

みんながとってきた山菜を私と千代と監督でそれぞれ調理をしていた。

「オレのフキ!」
「やめろー、誰が食うかわかんねんだぞー」

栄口くんが自分のとってきたフキにキスをしているとそれを怪訝そうな顔で見た花井くん、栄口くんはすかさず自分で採ると妙なかわいさ出るよなと言った、栄口くん、それ私にも分かる気がする!
そう同意した気持ちををひとりで考えながらせっせと山菜を調理していた、早くみんなと仲良くなりたいな、そしたらちゃんと私もそう思うって言えるのに。

「いっこ食っちゃお!」
「つまみ食い禁止で!」

つまみ食いをしようとした田島くんの指を箸で掴んだ志賀先生、田島くんはいつも元気だなあ、ん?確か田島くんって野球凄いって前に千代から言われた気がする、そうなのかな。
みんなの名前は覚えても、未だにまださっきの三橋くんとしか話してないなんて、これじゃあみんなと仲良くなるにはかなりの時間がかかりそうだな。

「篠岡、これってどうすんだっけ」
「あ、それはここに置いておいていいよ!」
「おう」

ち、千代!?いっいつの間にそんな自然にみんなと話せるようになったの!?
目の前で花井くんと話す千代はほんとに自然で、話した事がない人相手だと絶対にあがってしまう私としては凄く羨ましかった、そういえば千代は普通にみんなと話してる気がする。
や、やっぱり千代の方が話しかけやすいのかな、私野球とかあまり分かんないのにマネジやってるし、ちっちゃんと勉強しないと。
気がつくと男子は真剣に志賀先生の話を聞いていた、なんだかチロトロピンとかコルチコトロピンとかよく分からない話をしてる、凄いな、野球ってそーゆーのも知ってないとダメなんだ。

思えば、私は千代に誘われて野球部のマネージャーになったんだ。
千代は野球大好きでソフトもやってたくらいだけど、私は野球に対してそんなに興味が無かった、だから野球のルールとかもよく分からない。
でもそれじゃダメだよね、私もマネジになったんだから、野球のルールは知っておかないと、みんなの足手まといになる。

「サヤ!出来たからテーブルに運ぼ!」
「あ、うん!」

千代の言葉に我に返った私はすかさずテーブルにおかずを運び始めた、よし、今日にでも千代から野球の本借りてルールとか覚えちゃお。

「いただきます!」

監督の声と同時にみんなは一斉にご飯を食べ始めていた、よかった、みんなおいしそうに食べてくれてる。
外はもう暗くなり始めていた。

「え?野球の本?」
「うん!あったら貸して!」
「サヤやる気入ってるね!いいよ、はい!」
「ありがと千代!」

千代から借りた野球の本は少し分厚くて中身は選手の写真つきでなんだか分かりやすそうだった。

「ちょっと外行ってくるね」
「散歩?」
「うん」

千代に早く帰ってきてねと言われながら私は本を持って外に出た、おお真っ暗、少し歩いたら部屋に戻ろう。

「じゃあなんの話スか!?意味わかんねえ」

え、だっ誰?ケンカ!?
あたふたしながらも私は咄嗟に茂みに隠れまだうるさく鳴り続ける心臓を押さえながらコッソリと声のした方に顔を向ける。
あ、あれは、阿部くんと監督って、え?ちょっ2人が手握り合ってる!?
うそ、あの2人実はデキてたの!?なんだか衝撃的な場面を見てしまったような気がした私はドキドキしながらもその場を離れようとしなかった。

「私のしたこと、三橋くんにしてごらん」
「するって、今のを?」
「うん、イロイロなことがわかるよ」

な、なんか今、三橋くんの名前が出てきたような気がする、なんで三橋くん?聞き間違いかな。
そんなことを考えていると監督は元気よく手を振り阿部くんの前から去って行った、そうだ、私もそろそろ行かないと、さっきのことは忘れたほうがいいよね。
ゆっくりと足を一歩後ろに引くと同時にパキッと木の折れる音がハッキリと聞こえてしまった、焦った私はすぐに阿部くんに視線を送ると阿部くんもやっぱり聞こえてたらしくジロッと私のことを睨んでいた。わっ私のバカ。

「……」
「……」

き、気まずい、もの凄く空気が重い。
チラリと阿部くんに視線を送ると、阿部くんは明らかに怪訝そうに私を睨んでいて、ああもう、なんで私すぐに逃げなかったんだろう、絶対阿部くん怒ってる。謝って逃げよう、かな。

「…おい」
「は、はい!」
「今の、見てただろ」
「え、いや、その、だっ誰にも言いません!だから許して下さいっ」
「は?」

なんかさっきより怒ってる!?こわすぎる、もうヤダ、逃げよう。

「あ、の…とにかくすみませんでした!」
「え、ちょ、おい!」

阿部くんの声を無視して私はとにかく全速力でその場から逃げ帰ってきた、どどどどうしよ、思いっきり無視してきちゃった、ぜ、絶対明日阿部くんに何か言われる!

「あれ、サヤもう寝るの?」
「うん…」
「じゃあ私も寝よっと」

千代は当然のごとく何も知らないからまったく楽しそうに布団に入った、うう羨ましい、いっ今の内にここから逃げた方がいいのかな、でもここ山奥だし、でもこのままじゃ絶対阿部くんに何か言われる!
この夜、私は翌日の恐怖から逃れる術を思案していたため、一睡もできなかった。

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