「千代!」
「サヤおっそーい!早く早くー!」
「うん!」

西浦高校に入学した翌日、まだ学校の構成とかはよく分からないけれど雰囲気的に好きになれそうな学校で。
新しい友達とかできるといいなとか、そんな期待で毎日が一杯だった。

「じゃあ私7組だからまたね!」
「千代も9組だったらよかったのにー」
「大丈夫だよ!新しい友達たくさんつくろ!」
「う、うん!」

千代と玄関で別れて千代は1年7組、私は1年9組の教室へと向かって行った。よし、今日は席近い子にたくさん話しかけて絶対仲良くなろう!
高鳴る鼓動を抑えつつ、遠慮気味に教室のドアを開ける。うわ、もうみんな仲良く話してるよ、どうしよう、出遅れたかな。
挙動不審になりながらやっとで見つけた自分の席。やった後ろの席だ、窓際じゃないのがちょっと残念だけど。
辺りを見渡すともうすでにみんな会話に花を咲かせていた。あああもうほんとどうしよう、完璧出遅れたよね、こうなったら自分から話しかけないと!
深呼吸をして隣の席に居る、すでに違う子と話をしている女の子に声をかけようとした瞬間、教室のドアが開いて担任の先生が入ってきてしまった。

「名簿順じゃいまいち面白くないから早速席替えするぞー」

この担任の言葉に一斉にテンションが上がる教室内。いきなり席替えなんて、せっかく後ろの席で安心したばっかりだったのに、前の席になったらヤダな。
そんなことを考えていたら目の前に担任がクジを持って立っていたことに気付き急いでクジを引いた。黒板に書いてある番号の場所と照らし合わせてみる。
よかった!一番後ろの席でしかも窓際!やった!

「よーし、じゃあ移動しろー」

担任の言葉と同時に机を動かす音で教室は一段と騒がしくなった。よし、ここでいいんだよね。
私はすぐ隣にある窓から外の景色を眺め嬉しさで少し口元を緩めた。

「ラッキー!一番後ろとかマジすげー!」

のんびりと和んでいた最中、突然窓とは反対の隣から大声が聞こえ、私は驚きながら咄嗟に隣に顔を向けた。
だ、男子が隣だ。
私の隣に座っている男子はなんだか嬉しそうにニコニコしていて、少し鼻の辺りにそばかすのある人。どうしよう、隣が女の子じゃないなんて。
こっそりと視線を自分の席の前に座る生徒へと移動させる。やった!女の子だ!よし、早速話しかけてみよう。

「あ、あの!」
「ん?」
「ま、窓際の席っていいよね!」

うわー、私何言ってんの!?これじゃあ前の子がなんて言っていいかわかんないじゃん!
もうなんでもいいから話題、話題話題話題。

「うん、窓際の席はあったかいから私も好きだよ、すぐ眠くなれるし」
「わ、私も!授業中よく眠くなるよ!」
「私なんてしょっちゅう寝てるよ、ところでどこの中学から来たの?」

や、やったー!会話が、会話が続いてる!よし、たくさん話して絶対仲良くなろう!

「サヤ!」
「千代!」

放課後、私と千代は前々から決めていた野球部のマネージャーになるべく2人でグラウンドへ向かうため、ジャージ姿で待ち合わせをしていた。

「ごめん!私先生に呼ばれちゃったからまだ行けない、サヤ先に行ってていいよ!」
「ひ、ひとりで行くのはヤダよ!」
「大丈夫!私もすぐに行くから!」
「ち、千代、」

千代はニッコリ微笑みながらまた全速力で校舎に入っていってしまった。ひとりで行くなんて、どうしようかなり緊張する。
ゆっくりと歩を進め、見えてきたグラウンドをこっそりと覗き込む。そこにはすでに何人かの男子生徒がいて女の監督らしき人と何かを話していた。ま、また出遅れた?今更出て行ったら絶対変な目で見られるよね。
フェンス越しから木の物陰に隠れ、私はグラウンドの様子をバレないように観察することにした。え、こっちに人が来る。
ガシャンッと、フェンスの金網の音がして必死に物影に隠れた。

「おーい!じーちゃーん!」

じ、じーちゃん?

「田島くん家、この辺なの?」
「チャリ1分!」
「いいねー近くで、オレ40分かかるよ」
「だろ!だからここ入ったんだもんネ!」

2人の男子の話し声がすぐ傍から聞こえてくる、目をつぶって身をなるべく小さくしていると、ガシャンとフェンスの音がして遠ざかって行く靴の音が聞こえてきた。
ゆっくり顔を上げると、さっきフェンスを上がってきた男子と話しかけてた男子が2人共遠ざかっている。よかった、バレてないよね、もうほんと心臓に悪い。

「プレイ!」

グラウンド中心から声が聞こえ、私は視線をゆっくりと向ける。あれ、ピッチャーとキャッチャーと打者が居る、入部試験とかかな。
私は少しだけ見やすくなるように物陰から身を乗り出した。

「ちょっと待った!なあ!今の何!?」

6球目くらいのボールを受けた打者の人がいきなり大声を張り上げた。どうかしたのかな。

「あの遅い球がなんで浮くんだ!?どんな球なんだあれは!?」
「え!?う、あ」
「浮いたあ?」
「言い訳すんなよー」
「言い訳じゃねえ!浮いたんだよ!!」
「あれは三橋のまっすぐだよ」

打者の人に言われて焦っていたピッチャーの人、それを弁解するようにキャッチャーだった人が無表情な口振りで話始めた。ここじゃちょっと遠すぎて聞こえないな。
何かを話してるのは確かだけど、この場所からそれを聞き取ることはできなかった。
少し暗くなってきたことを感じ辺りを見渡す。空はすでに綺麗なオレンジ色に染まっていた。

「こいつはこれからどんな打者にも勝てる投手になるよ、あとは打たせた球、捕ってくれる野手と1点入れてくれる打者がいれば、」

甲子園に行ける。
なぜだか、少しだけ聞こえてきたキャッチャーの人の声。
もっと聞きたくて、私は無意識に物陰から完璧に体を出しグラウンドの声に耳を傾けていた。

「今日から2週間は受験でなまった体たたき直すとして、ゴールデンウィークは合宿します、その仕上げにー三星学園と試合しましょう!」
「イイイヤだっ!!」

監督さんの言葉に大きく否定の言葉を上げるピッチャーの人、すかさず監督さんはケツバットをピッチャーの人にお見舞いした、うわ、痛そう。
監督さんはそんなのお構いなしでいきなり甘夏を片手で握りつぶしてて、こっこわ!ここの監督さん女の人なのに恐すぎる!

「私は本気!エースになりたいなら性格くらい変えて見せてよ」

なんだかグラウンド中央だけ異様な雰囲気になりかけたとき、ふとフェンス越しに犬がいるのが目に止まった。

「お、おいでー」

躊躇しながらもパンパンと手を叩くと、犬は私に気付き尻尾を振りながら私の目の前まで来てくれた。可愛い!でもなんでここに犬がいるんだろう。

「君、もしかしてマネジ希望者?」

頭上から声が聞こえ、ゆっくり顔を上げるとそこには志賀先生がにこやかに立っていた。
つうっと冷たい汗が私の背中を伝っていくのを感じる。

「う、えと」
「違う?」
「ち、がくないです」
「よし!じゃあ入ってきて」
「え、は、はい」

志賀先生に連れられて私は男子が集まるグラウンドの真ん中へと移動していく。
うわああどうしよう。やっぱり自己紹介とかするよね、恥ずかし過ぎる、千代早く来て!

「マネジ希望者だそうですよ!」
「え!ほんと!?名前は!?」
「え、と名字サヤ、です」
「やったー!これで少しは楽になるわね!」

監督さんはなんだか凄く喜んでくれたみたい。よ、よかった。
少しだけ顔を上げると男子の視線が私に集まっていることに気付き、すぐに顔を伏せた。

「よっし!それじゃあ今日は解散!明日からみっちりやるわよー!!」

監督さんの声と共にその場からいなくなっていく男子。千代結局来なかったし!明日なんで来なかったか聞いてやる!
ちらりと顔を上げると野球部の男子の背中が見えた、そうだ、みんなの名前早く覚えないと、合宿までには覚えよう。
みんなのサポートできるように、私も頑張らないと!
私は深呼吸をして強く決心をし、グラウンドをあとにした。

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